パチパチの
ニューヨーク便り
 


VILLA VILLA    98.09.22

僕はある日、ユニオン・スクエアの近くの劇場"STUPIT KIDS"という劇を見に行くことにしてました。

開演時間ぎりぎりにタクシーで劇場の近くまで行くと、長蛇の列。大変、と慌ててチケットを買いました。ところが買ったチケットをよく見ると、"VILLA VILLA"と書いてあります。そう、長蛇の列は隣の劇場("DARYL ROTH THEATRE")のものだったのです。

仕方ないので、これをみることにしました。でも、そんなにいやじゃなかった。というのは、列に並んでるの人たちの年齢層が幅広く、しかもちょっとおしゃれで知的な感じだったし、劇場の前になんとなく、わくわくした雰囲気が漂っていたので、興味があったのです。(で、以下はその説明なんだけど、これから見に行く人は、楽しみが半減するので、ここから先は読まないでね。

開場されると、観客はみんな黒い壁と白い天井の部屋に入れられます。大きさは小学校の教室2つ分くらい。椅子もなくてみんな立っています。しばらく待ってると、音楽が流れ、天井の反対側からライトが当てられて、天井に人のシルエットのようなもの浮かび上がります。そのシルエットは、ものすごく早く動くので、「ローラースケートで天井をすべってるのかなー」と思いました。

そうしてるうちに、天井全体がブルーになって、海のようになったり、クラゲのようなものが浮かんだり、真っ黒になって、小さな光が無数に広がり、プラネタリウムのようになったりします。

その度にみんな「わー」って歓声をあげるのですが、自分自身は、「別にー」って感じで、こんなので喜んでるなんてニューヨークも大した事ないのね、とも思った。ずっと天井みてるのも疲れそうだし。すると、突然自分の頭の上の天井が破けて逆さずりの人間がびよーんと降りてきて、何かを叫ぶとすぐ引っ込むのです。びっくり。会場も大騒ぎ。見てると天井の他も同じように裂けてきてる。そのうちお客さんの一人(多分サクラ)が降りてきた人に抱き着いてそのまま天井の中に消えてしまいました。

そうこうしてるうちに天井が全部破れてきて、下におちてしまいます。すると、本当の天井は実はすごーく高い。そこにロープで釣り下げられた人たちがいるのですが、みんな普通のサラリーマンやOLの格好なのです。その人たちは、自由自在にすごい速さで、動けるので、まるで空中で踊ってるみたいなんです。壁の上を水平な地面のように普通に走り回ることもできる。今度はその人たちが上から地面に降りてきて、ロープを外して、観客の中を走り回ります。会場の中も、風が吹いたり、雨が降ったり、すごい。

出演者達は、意味不明の言葉を発してるんですが、それが、なんとなく、日本語みたいな発音とイントネーションなんです。全体の雰囲気も東京のサラリーマンやOLを表現してるみたい。太鼓の使い方も日本を連想させます。でも、笑い者にしてるんじゃなくて、現代人の典型として、日本人をモチーフにしてる気がする。自由に生きたい気持ちと社会の抑圧の狭間の人たちを描いてるように見えました。それに、「自分たちはアーティストで、自由」という立場から、そういう人たちを批判してるんじゃなくて、自分たちもその一人なんだ、って立場に立ってる気がした。そういう中で、どうにいかやっていこうとする人間のエネルギーを表現したって感じ。でも、観客の関心はアクロバット的なところにあって、会場になにかメッセージ的なものを共有したって感じが生まれなかったような気がします。

ただ、会場で貰ったパンフレットを見ると、メッセージぽいことは全然書いてない。やってる人たちとしては、あくまでエンターテイメントであって、すごーい、ってお客さんに驚いて貰えばいいものみたい。ニューヨークの"TIME OUT"っていう情報誌でも、サーカスみたいな紹介され方だったし・・・。

でも、その割には、全体の雰囲気は、アートっぽい。ちょっとダムタイプみたいだったりもするし。どっちにしても、そのパフォーマンスはすごい。出演者は非常に訓練がいりそうだし、出演者と観客が渾然一体になってるので、安全に遂行するには、スタッフも大変だと思う。パフォーマンス特有の緊張感が溢れています。

このグループはDE LA GUARDAといい、実はアルゼンチンから来たグループだそうです。


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