別冊宝島「ゲイのおもちゃ箱」より
1992年12月発売


  イントロダクション


 

 ゲイ・ブームだそうです。お蔭で、この別冊宝島も今年二冊目のゲイ特集です。活字以外でも、今年は色んなメディアがゲイを取り上げました。なんと10月には、同時期に2本もゲイをテーマにした日本映画が封切られました。こういう状況は、ちょっと薄気味悪いような気もするんですが、ゲイが発言する機会も増えるワケだし、僕としては歓迎しています。

 このゲイ・ブームを支えている主役は、ゲイに対して好奇心の旺盛な女の子たちです。ゲイはタイトル・ロールを演じながら、実は脇役でしかありません。だから少し心配なのは、主役が降りてしまったら、僕たちも舞台の上から消えなければならないということです。だからこのブームの続いているうちに、僕は少しでも自分たちのことを知って貰おうという気でいます。 ゲイが抱えている問題のほとんどは、ストレート(いわゆる普通の異性愛者)の社会の、ゲイに対する無知や誤解から生まれているので、機会がある毎に自分たちの言いたいことや、あり様をアピールしていくのが、その問題解決のためには大切なことだと思うからです。

 さて、前回の「ゲイの贈り物」では、ゲイが描かれたり、取り上げられたりしたものをできるだけ多く集めてみました。だいたい、ゲイは描かれたり、取り上げられたり、勝手に語られたり、研究されたり、覗かれたり、排斥されたり、非難されたりと(キリがないからもう止めるけど)、いつも何かの対象でした。よっぽどのチャンスでもない限り、ゲイが主体的に何かを語るなんてことを求められることはありません。たまにあるとすれば、自己を見つめさせられて、それを語らせられるぐらい。ホントにウットーシィ!
 
 そこで今回は、ゲイの人たちに、自分たちが楽しんだり、面白がったりしていることを自己中心に語って貰おうという企画を立てました。それも、できるだけ自分たちの生活に密着したものを、できるだけ数多くのゲイに、という企画です。この本では、その方針のもとに、僕の知合いの40人以上の人が原稿を書いてくれたり、絵を書いてくれたりしています。もちろん、全員がゲイです。(今回も、僕たちのお友達!レズビアンにも参加してもらっていますが、その頁はもちろん全員レズビアンによるものです。)

 ゲイという言葉は、もともと「賑やかだ、陽気だ、騒がしい」という意味の形容詞です。変態とか、オカマとかと同じように、「年中大騒ぎしてうるさい連中」という、馬鹿にした意味あいで使われていたのですが、アメリカのゲイたちが、逆に自分たちを積極的に捉える言葉として使い出したという経緯があります。

 この賑やかで、陽気だという性格は、ゲイなら誰でも持っているとは言えないけれど、少なくとも、自分も含めて僕の回りを見てみると、ゲイの重要な特徴じゃないかって思います。だから僕は、このゲイという言葉は結構気に入ってるんです。

 今までとはちょっと違った形で、ゲイの姿のある側面を伝えようと思った時に、真っ先に浮かんだのが「人生を楽しんでいる」というキーワードでした。賑やかに、陽気に楽しんでいるイメージ。ゲイという語源にも関連する、僕が思うゲイの最もポジティブな側面。ストレートだけで成り立っているはずの世界に、たくさんのゲイが暮らしていて、ストレートとは違う視点で、その世界を眺め、楽しんでいる。そんなイメージが少しでも伝わればいいなというのが、今回のポイントです。別に、一日中悩み苦しんでいるワケじゃないんです、当り前だけど。

 さてこのゲイ・ブームはいつまで続くのでしょうか。女の子たちによってもたらされたから、多分女の子たちの手によって幕が引かれるんでしょうね。

 ブームが来る前から僕たちは生きてきたように、ブームが去った後も生きていくんだし、関係ないわと言ってしまえばそれまでだけど、このブームのお蔭で一番利益を得たのはゲイだったと思います。ずいぶんマイナーなゲイ・ムービーでさえ見られるようになったこと一つとっても、ブーム以前なら考えられなかったことです。

 僕が欲しいと思うのは、ブームではなく、単純に、ゲイにとって面白く興味深いものを、ゲイが見たり、手に入れたりできるようになることです。そのためには、ゲイ自身が、ストレートの世界の中から、面白いものを見つけ出して楽しんでるところからもう一歩踏み出して、欲しいものを欲しいと意志表示をし、手に入らないなら自分で作り出しちゃうぐらいの元気さが必要です。もうそろそろ、そんなことを始めてもいい頃じゃないかしら。ストレートの皆さんが捨ててしまうような素材から、気の利いた一品料理を作り出してきた僕たちですもの、その気になれば満漢全席だってオチャノコサイサイですわ。
         
 ゲイがゲイに向けて、もっと色々なことを発信し、ゲイがそれを応援していく。文化というものが、作り手と受け手の合作である以上、ゲイが主役の状況を手にするには両方のパートを同時に引き受けて頑張るしかないんですよね。このゲイ・ブームをきっかけに、日本にもゲイ・カルチャーの新しい夜明けがやって来て欲しいなと安易に期待しつつ、この本の幕を開けたいと思います。


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