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「百合の伝説--シモンとヴァリエ」を見て

「ダイス」1997年9月号に掲載

 


 始まってからの15分ほどで、僕はすっかりこの映画にはまってしまった。

 懺悔室の小窓をフレームに、聖セバスチャン殉教劇の活人画を見せる監督のテイストに完全にスイッチが入り、吊されたセバスチャンを演じるシモン(ジェイソン・カデュー/超シュミだった!)の官能的な顔立ちと彼の黒い脇毛という、あまりにもセクシーな取り合わせを惜しげもなく、そして長々と見せてくれるシーンで骨抜きの状態になった。ああ、なんと美しい脇毛のシモン!

 このたった15分で、観客に、1952年現在の刑務所内の礼拝堂と1912年の北ケベックの小さな町が時空を越えて一つなのだとイメージさせ、全ての配役を男が演じる理由を納得させ、かつ映画中で最も美しく官能的なラブシーンまで入れ込むという離れ業を見せてくれるんだから、この監督の力量には大拍手。それに、場面が初めて1912年に切り替わるときの美しさ! 窓から入り込んでくる柔らかい光の中で、折り紙で作ったたくさんの白百合が輝いていて、まるでピエールとジル! それも、この15分の中にあるのよ! すごくなーい?

 監督のジョン・グレイソンは、前作「ゼロ・ペイシェンス」でエイズ問題をミュージカル仕立てで見せるといった、けっこうブッ飛んだ感覚の持ち主なので、次はどんな手で来るかと期待していたら、映画なのに女役まで男が演じるという不気味な趣向を、見ている方が照れくさくなるほどの美しい絵作りで仕上げた不思議な作品を作ってくれました!

 ヘテロセクシュアルの恋愛も、ホモセクシュアルの恋愛も、両方とも男同士で演じられているので、男の子同士の愛の「美しさ」が際だつ仕組みになっていて、僕としてはなんか気味がよかった。ヘテロの恋愛の方が「不気味」に見える映画ってそうザラにあるもんじゃないものね。これだけでも、見る価値あり(?)。

 ただ、最初の15分間で乗り切れなかった人には残りの時間での敗者復活は難しいかも。だってこれはストーリーでなく様式やテイストを楽しむ映画なんですもの。


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