「アイノカタチ」総集編 『パートナーって素晴らしい』

    バディ2005年2月号掲載


「やっぱりふたり」「アイノカタチ」と7年間続いてきたカップル連載も、ひとまずは区切りをつけ、来月号から
恋愛やパートナーシップに関する新しい連載がスタートする。そこで、タックさんに7年間を振り返って語っても
らい、パートナーシップって何が大事なのかをお聞きした。
インタビュアー:バディ編集部 ジュンちゃん




連載も長く続けたくて

ーー『やっぱりふたり』がスタートしたときのお気持ち、意気込みを教えてください。

タック:パートナーシップって一回のインタビューで簡単に答えが出せるものじゃないから、できるだけ長く連載
を続けたいって思いました。その都度出てきた要素を取り上げては、こんな見方ができるとか説明しながら、小さ
なヒントをたくさん積み上げていけば、いつかは全体が見えるかな、と。

ーー実際に連載が始まってどうでした?

タック:インタビューはだいたい初対面なので、それぞれの育ってきたバックグラウンドも含めて聞きながら、二人
の関係に焦点を当てて話を進めていくのが、難しかったかな。だから頭は常にフル回転。それに、人には言いたくな
いこととかエッチのこととかも含めて聞かなきゃいけないから、リラックスしてもらえるような雰囲気で話を聞き出
すのは、けっこう難しいものだなぁと思いました。

ーー今まで80組も出てますが、特に印象に残っているカップルは?

タック:第三回目に出てくれたカップルかな。実は、その後もう一度出てもらったことがあるんです。最初に出てく
れたときには、片方はまだ10代で、もう一人はちょっと年配。ちょっと危なっかしい感じで、これって持つのかしら
?って正直心配しました(笑)。その人達が、三年ぐらいしてまた出たいって言ってくれた。いつもなら新しいカッ
プルの話を聞くだけで、その後のフォローもできない。そんな時に、付き合い初期の難しさが気がかりだったカップ
ルが、次のインタビューでそれを乗り越えたって話してくれた時はホント嬉しかった。未だにメールとかくれるんで
すよ。「まだ頑張ってま〜す」とか(笑)。そう言えば、反対に終わっちゃったカップルも結構いたんで、理由とか
を聴けるとよかったかもね。

ーー一回くらい聞けるとよかったですね。

タック:続けていくことと同様、別れるときにも、コミュニケーションをとって、納得して別れることも大事だから
ね。

ーー本当は一冊の本で、たくさんのカップルが出てきて、いろんな角度から全部読めると、なるほど!とわかったり
するのかも。

タック:たくさん読むと見えてくるもの。それが大事なんです。

ーー昔のを読んでない人は、ぜひバックナンバーを買って読んでください(笑)


変わるもの変わらないもの

ーー7年間を振り返ってみて、ゲイのパートナーシップのありようというものが、何か変わったと思いますか? 

タック:バディがこのコーナーを連載したり、恋愛の特集を載せることで、長続きするカップルもちゃんといること
が多くのゲイに伝わったのが一番大きな変化かな。おかげで自分たちも長く付き合えるのかもと思う人たちが増えて
きた気がする。

ーー人ってじっくりつきあってみないとわからないですよね。

タック:短い関係をたくさん連ねていく面白さってあると思う。こういう人間もいるんだっていう面白さが。でも、
長くつきあって初めてわかる楽しさもある。短い関係を繰り返してると、先が見えて飽きた気がしちゃうし、すぐに
次に行けばいいっていう気にもなるけど、実はそっから先が面白い。なんの変化もない感じがしててもそのままつき
あいを続けていくと、ある時ふっと相手の新しい魅力が見えてきたり、強いつながりを持てたりする。僕っていつも
「関係は長ければ長いほどいいんだ!」って言ってるけど、それはこうやってセンセーショナルにあおることで、長
さじゃないでしょ?って反発して色々考えてもらえたらいいと思ってるからなんだ。

ーーインパクトを与えるような、ある意味戦略的なキャッチコピーだったんですね。

タック:本来なら内容こそ重要だって言うべきところを敢えて長さだって言ってきたわけ。男同士の関係って、周り
が二人をサポートしてくれるようなシステムもないし、誰も二人の関係に期待さえしない。だからモデルさえ見つか
らない。そういう、ある意味「極北の地」っていうか、ツンドラの大地で作物を育てるみたいな大変な状況なんだよ
ね。そんな環境で長く続いてるってことは、要するに、関係にそれだけの内容があったっていう証明でもあるわけ。

ーー作物を見れば土台のよさがわかる。長さには実質が伴っているわけですね。

タック:前は、周りにゲイカップルすらも見えてなくて、パートナーシップを結ぼうっていう発想すら生まれなかっ
たのが、そういうのもアリなんだ、と変わってきた。それはゲイメディアが後押ししてきたからだけではなく、ゲイ
自身の意識も変わってきて、自分たちは一緒に住んでいるっていうことを隠さない人たちも出てきたからだと思う。
これは良い変化なんだけど、男同士がパートナーシップを築いていくことの難しさ自体は何も変わっていないし、何
十年も続いているモデルを見つけるのは今でも大変。そういう意味でもあまり変わっていないとも言える。逆に言え
ば、インターネットを通じてたくさんのゲイの人と出会える機会が増えた分、ダメだったら次行けばいいやっていう
感じが、前よりも顕著になったのかも…。

ーースピードがものすごく早くなりましたよね。通信欄の時代に比べると雲泥の差。

タック:相手をいつも速いスピードで判断してると、じっくりつきあわないとわからない部分が見えにくくなる。あ
る意味、極北の時に比べてもっと難しくなっているのかも。

ーー極北が、ジャングルのように(笑)。

タック:そうだね(笑)。すごい勢いで発芽できるから、腐敗もしやすくなっちゃった。じゃあ今は何が大事なのか
ということも考えていかないといけないんじゃないかな。

ーー連載が始まった当初は、ゲイカップルというものバディでしか見れなかった。そこからだんだん種を蒔いて、時
代状況もメディアも進化して、急激にスピードが増してきたけど、じゃあそれが幸せなのかというと、実は必ずしも
プラスだけではないと。

タック:どんな状況だとしても言えることは、簡単に諦めないでってこと。僕たちは結婚とかの制度で縛られたりは
してないから、別れるのはいつだって別れられるわけ。だから、もうちょっと頑張ってみるとか、違ったアプローチ
でコミュニケーションをとってみるとかはやってみる価値ありなんじゃないかな。さっき言った次から次へと人と出
会えちゃうが故に関係作りが難しくなるっていうのは、堪え性がなくなってきたってことでもあるんだよね。


パートナーの素晴らしさ

ーーもしかしたら、周りですごく長くいい関係を続けているカップルがまだそんなにいなくて、だから「長くつきあ
ことはこんなに素敵なんだ」っていう実感とかリアリティみたいなものがまだ足りないのかな、とも思う。長くつ
きあ
うこと、パートナーシップの素敵なところをお聞かせください。

タック:やっぱり人間って孤独なものじゃない? 誰だって自分のことをちゃんと理解してくれる人がいたらいいな
ぁって思うんじゃないかな。もちろん友達もそういう部分を担ってくれるけど、友達には入り込んで欲しくない核の
部分まで理解して認めてくれる人が欲しいと思ったら、それはパートナーシップの領域だと思う。自分のことをこの
人ほどわかってくれる人はいない。そして何かが起こったときにいつも自分の味方になってくれる。そんな人がいた
ら、人生素敵でしょ? でもそこまで分かってもらえる関係を育てるのは簡単ではない。長い付き合いを続けている
人は、そういう良い関係を手に入れて、そのかけがえのない思いを強くしているから、さらにまた続けられる。長く
なればなるほど、大事なものが増えていくんだよ。

ーーなるほど。若いうちって、遊んだり、毎日を楽しく生きることに一生懸命だったりすると思うけど、年をとると、
いざっていうときがくると思う。入院したりとか、そういうときにパートナーがいるっていうのは、すごい安心だし、
助かるんだっていう実感もある。それは物理的なものだけでなく、精神的なものも大きい。仕事上の悩みを相談した
り。お家の事情のことを相談したりとか、そういうところでもパートナーって本当に大切だなって思います。

タック:まずは心の部分が大事だよね。精神的に理解し支え合えるような関係だったら、結果的に物質面とかでも助
けてあげようって形になるわけじゃない? だから気持ちの結びつきさえできていれば、何かあった時にその人たち
なりの支え方っていうのが出てくる。


うまく長続きさせるために

タック:誤解してほしくないのは、一人では不安だからとか淋しいからという理由で人とつきあっていくと、結構途
中で関係が難しくなっちゃったりする。だって人間が孤独だっていう感覚は、パートナーがいてもあまり変わらない
から。だけど二人で生きていて孤独が襲ってきた時には彼が「大丈夫だよ」って一言かけてくれる。そういうことが、
ちょっとした支えになるんだよね。でも、それは実はすごく大事でありがたいこと。当たり前だけど、そんなふうに
支えてくれる人を手に入れるのは難しいことだし、時間がかかる。

ーーそれぞれが自立していて一人でも生きられる状態でありながら、その上で、二人で支え合って生きるっていうこ
とが中身の充実したいいおつきあいをするための大事なところなんですね?

タック:精神的にも経済的にも自立ばかりを目指していると、すぐに別れることも可能っていうジレンマもあるわけ。
だからいつも自立、自立っていうことばかりを意識しない方がいい。人間ってやっぱり頼りたい時もあるし、たまに
はおんぶしてもらいたいっていう気持ちもあったりする。だけど片方が依存しているだけの関係では潰れてしまうか
ら、おんぶしたりされたりすることを相互でやり合えるような関係を目指すべきなんだよね。そうでないと一緒にい
ることの意味を見失ってしまう。その関係を双方で心地よく思えるとか、堪えられる範囲に収めるとか、そういう相
手の反応も見ていく感覚を養っていくことが大事なのかな。

ーー常に微調整というか?

タック:動的平衡って言葉がある。静的平衡っていうのは、ヤジロベーとか天秤みたいなもので、重心を押さえさえ
すればバランスが取れる。で、動的平衡っていうのは、丸い大きな板を水に浮かべて、その上に二人が乗っていつも
動いているのに平衡がとれているっていう状態。重心が常に動いてる。波が来ても、ちゃんと二人で相手の様子を見
合いながら立ってるような難しいバランスの取り方。それが関係性のありよう。だから、最初のうちはすぐに水の中
に落ちちゃうわけ。

ーー訓練をある程度積んで、慣れたりコツをつかんだりしないと難しい。

タック:そう。だから時間がかかるんだよね。でも、二人だから、片方が疲れたら、もう片方が負担を大きくして頑
張ることもできる。そして次の機会には役割を交換すればいい。こういう長い時間の中でのバランスの取り方さえつ
かめば辛いことばっかりじゃない。逆に、いつも相手に負担をかけないようにばかりしてると、かえってうまくいか
ない。

ーー頼り合うこともときには必要。

タック:うまくバランスをとってね。その平衡の取り方は、カップル毎にみんな違うから、どうやるかっていうこと
を、自分たちでその都度試行錯誤していかなければならない。これは至難の技。でも、スポーツでも何でもそうだけ
ども、難しいからこそ、達成したときに大きな喜びもあったりするわけで、例えばオリンピック選手って、日頃の訓
練がすごく大変だけど、それがうまくいったときに大きな喜びを得ることで、見合うわけじゃない?

ーー死ぬほど努力して頑張ったからこそ「チョー気持ちいい!」なんですね(笑)。

タック:トレーニングをたくさん重ねるほど、達成感が大きい。何の努力もしないでできるものっていうのは、最初
のうち面白くてもすぐに飽きてしまう。多少大変なことでも日々積み重ねていくうちに、前よりもずっとよい関係に
なれたっていう達成感を一回でも経験すれば、喜びもあるし面白さも理解できる。だから、まずは最初のその地点を
目指したらいいんじゃないかな。最初から三十年、四十年目指してたら気が遠くなるでしょ。

ーーまずは一年から?

タック:そうそう。まず最低でも一年を目指してみるといい。良い関係に育ってたら、一年くらい経つと「出会った
ときよりも自分のこと理解してもらえるようになった」って思えるはずだから。その感覚を覚えておけば、また次の
ステップにいけるんじゃないかな。

理想のカップル像とは?

ーータックさんが理想とするカップルの方がいたら、教えてほしいな。

タック:難しいな。なぜかというと、パートナーシップっていうのは、模範解答ってものがあるわけじゃなくて、自
分と相手とのかけ算で決まるものだから。僕の周りにも二十年、三十年うまくいっているカップルがいて、素敵だな
と思うけど、自分のモデルにはならない。僕にとっての気持ちのいいありようってのは、他の人たちとは違うからね。
うまくいってる状態がカップルによってみんな違う。その状態は言葉で描写することはできなくて、長続きしてるっ
ていう結果でしか表せないわけ(笑)。それぞれにいろんな努力をしてバランスをとってきて、結果的にうまくいっ
てる状態を表す言葉がないから、長さで言い表してるわけ。また長さの話になっちゃった。

ーー動的平衡をとりつつ、いかに遠くにいけるか。長さっていうのが、スポーツの記録みたいなものなんですよね。

タック:スポーツと言っても、登山やマラソンみたいにやっている間中ずっとしんどいものではなくて、どちらかと
いうと農業みたいな、毎年ちゃんと収穫する作物がありながら続けていくイメージが近いかな。最初のうちは大変で
も知識や経験が蓄積されると、少ないエネルギーで最大の効果を得られるようになる。花が咲いて実がなって、美味
しい思いをしつつ、ちゃんと長く続いていくものなんだと思う。

ーーどうもありがとうございました。










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