2丁目の上のタンコブ日記


97.02.26 水

 明日からシドニー旅行なので、足りないものなどを買いに行ったりした。

 記録のために何を持っていこうかと迷ったが、結局ビデオと35ミリのカメラにした。デジカメは枚数の制限から今回は持っていかないことにする。

 ナガノ君から借りたビデオ「人生は上々だ」を見る。舞台がシドニーのオーストラリア映画。ゲイの息子と彼を心から愛してる破天荒な父親の交流を描いたもので、最後はジンと来る感動ヒューマン・ドラマ。
 これはお勧めです。

 ドラァグ・トランプの続きを少しだけやってから寝ようと思ったのだが、やり始めたらなかなか終われず、朝までやってしまった。

97.02.27 木

 眠らないまま、パッキングを済ませ、急いで家を出る。駅までの所要時間の計算をいつもの感覚で考えて家を出たものだから、重い荷物を持って駅に着いたら成田エキスプレスの出発の2分前。死にものぐるいでホームへ駆け上がり、列車に飛び込んだとたんにドアが閉まった。ふー。

 今回のマルディグラ・ツアーはバディの主催ということもあって、同行する人たちの半分くらいは顔見知りなのだが、成田に着いたら、ジュンちゃんが青い顔をしている。パスポートが見つからないらしい。必死にバッグの中を引っかき回しているが、結局は見つからない。家に忘れてきたようだ。大きく明けたバッグの中にはカップ麺が入っているのが見えた。
 ジュンちゃんは仕方なく家までパスポートを取りに返り、一人明日の便で来ることになったのだが、この時以来、「パスポートは忘れてもカップ麺は忘れなかった人」としてツアー同行の人々の記憶にいつまでも残ることとなった。

 僕たちのグループは香港旅行に一緒に行ったジュンブ、シローと、白いご飯に味の素をかけて食べるのが好きなアケピーの4人。前にもまして珍道中になりそう。

 カンタス航空は全便全行程が禁煙。シドニーまでの9時間はヘビースモーカーの僕にはけっこう辛いものがあった。その思いはシローもアケピーも同じだったようだ。

 夜の10時過ぎにシドニーに到着。ホテルに着いて荷物をほどくやいなやオックスフォード・ストリートへと繰り出す。通りはマルディグラ・シーズンとあって夜中でも人が溢れている。昨日は全く寝てないし、飛行機の中でもページワンで大いに燃えてほとんど寝てないのだから、少し控えればいいものを夜通し遊んでホテルに帰ってきたのは朝の4時。最後まで持つかなぁ…。

97.02.28 金

 朝は8時に起床。ゲイビーチへの探検へと単身出かけたアケピーを除いて、3人でまたオックスフォード・ストリートへ。

 シドニーはニューヨークや東京と比べるとどこか田舎っぽい。おおらかで気取りがないのだ。言ってみれば、「偉大なる田舎」といったところ。
 オックスフォード・ストリートの街並みもゲイフレンドリーという点から言えば世界で一番かもしれないが、洗練といった言葉からはほど遠い。しかし、それが居心地の良さも生んでいるようだ。普段着の良さといったらいいだろうか。人々の応対からもどこか暖かいものが感じられる。

 オックスフォード・ストリートの1kmほどがゲイ&レズビアンの街になっている。ノンケの店も多いのだが、そういった店でもゲイフレンドリーであることをアピールしている。マクドナルドでも店の外には「ここは安全」という言葉にピンク・トライアングルにあしらったステッカーが貼られ、店内はレインボーカラーで飾られ、店員がマルディグラ・Tシャツを着ているほどだ。
 なにしろ、20年前に始まった 第1回目のマルディグラは2000人を集めるのがやっとだったそうだが、今や65万人を集める、なんとオーストラリア最大のイベントにまで育ってしまったのだ。

 その経済効果のもたらす力は大きい。ここが世界でもっともゲイフレンドリーな街になったのには、もともとのおおらかさに加えて、経済的側面は無視できないだろう。

 午後はミゾと一緒に、マルディグラ関連イベントとして企画されたゲイ&レズビアンのアート展示に参加しているギャラリーを廻る。
 場所が市内のあちこちに点在しているので、観光客には分かりにくく、難儀を重ねながらの札所めぐりをしている感じ。3カ所廻っただけでめげてしまい、それ以上は諦めてパディントンのジュースショップでミゾと2時間ばかりのおしゃべりタイムを楽しんだ。

 3カ所廻って見たアートに関しても、「洗練されていなさ加減」とか「大らかな田舎っぽさ」は傾向として確かにある気がした。

 夜はバディが用意してくれたウェルカム・ディナー。大阪方面からの参加者も含めて30人くらいの食事会となった。

 食事の後は「オーブリー」というバーでドラァグ・ショーを見て、その後、「カタナ」というアジア系とアジア系好きのためのパーティに行ってみた。すごい混雑で踊れるわけでもないし、景色がチョー良いというわけでもなかったのですぐに出て、ホテルへと帰った。明日のことを考えると1時間でも多く寝なければという気分で…。

97.03.01 土

 午前中はトール(小倉東氏)とミゾと一緒にニューサウスウェールズ州立美術館に「イメージ・オブ・マン」という写真展を見に行く。これもマルディグラ関連の催し物なのだ。ジョージ・プラット-ラインズのオリジナル写真を見ることができたのが嬉しかった。

 写真展の前にマルディグラのブリーフィングに出たトールの話では、マルディグラ実行委員会の代表の話の中で、メディア関係の人々に対して「このパレードを取り上げる時は必ず『シドニー・ゲイ&レズビアン・マルディグラ』と正式な名称を明記して欲しい」との要望が出されたそうだ。今やオーストラリアで一番大きな催し物となったマルディグラをなし崩し的にノンケのお祭りにすり替えられないようにという気持ちが働いているようだ。

 昼は「ドイルズ・アット・ザ・キー」というシーフード・レストランへランチを食べに行く。ここは日本人向けのガイドには必ず載っているところで美味しいけど高いと評判の店。地元の人はあまり行かないところとか。確かに美味しかったけど安くはなかった。

 夜はいよいよこの旅行のメインイベント、マルディグラのパレードを見に行く。

 パレードは1.5kmほど続くオックスフォード・ストリートを全面交通遮断して行われる。沿道には場所取りのため何時間も前から人垣ができている。
 僕たちは到着地点に設けられた桟敷席(70A$もする)での見物となる。

 この桟敷席に入るために並んでいたら、夕方の空にヘリコプターが文字を書いていた。これもマルディグラを盛り上げるための演出かと思ったら、なんと「RETURN TO JESUS」と書かれていた。アンチ・ゲイの宗教団体かなんかがやらせたんでしょうね。これもまた表現の自由ということね。

 ここのパレードはニューヨークのパレードよりもずっとお祭り色が強く押し出されている。次から次へと派手なデコレーションを付けたフロートが繰り出される。とにかく出ている人も見る人も楽しむというのがモットー。そのことがノンケの観光客も引きつけ、このパレードがオーストラリアで一番大きなイベントになった理由でもあるのだろう。

 ま、どんなのかは写真で見てください。写真の数が多いので、人によっては重くなりすぎるかも知れないので、別にしました。

<写真を見る>

 僕たちの間で一番評判がよかったのは、「フライト・アテンダントとその仲間たち」によるフロートで、機内での注意事項を説明するお馴染みのジェスチャーをダンスに仕立てた行進が大うけだった。

 パレードの後は2万人が集まるという打ち上げのパーティ。小さめの晴海見本市会場って感じのスペースを借り切って、それぞれのパビリオンがそれぞれの趣向でのダンス・パーティを繰り広げるというもの。ここには一切カメラ類の持ち込みが禁止されているから見せてあげられないのが残念。

 メインのパーティ会場は2千人が満員電車なみの混雑の中で踊りまくっていた。その熱気と匂い(ラッシュ系プラスわきが系)で気が遠くなるような状態。湿度は完全100%。温度は多分35度以上はあるだろう。身体自慢はもとより自慢できないような人までが上半身脱いでるのでヌルヌルした感触に慣れない限り、ここには居続けられない。

 午前3時には、その、これじゃもう死んじゃう!状態の中で、ゲストのチャカ・カーンが総勢20人ほどのドラァグ・ダンサーとレズビアン・ダンサーを引き連れて登場し、「I'm every woman」を披露。会場の興奮は極限状態。これで将棋倒しが起きたら、僕はここで死ぬのかも知れないと恐怖さえ感じた。実際、多くの人が救急車で運ばれたようだ。

 パビリオンの外では、涼みながらそぞろ歩く人あり、地面に座り込んで話に盛り上がっている人ありで、やっぱり大賑わい。そんな人を見ているだけでも面白い。みんなそれぞれに精いっぱい自己表現した格好をしているから見飽きない。

 各パビリオンを廻ってみたが、レズビアン中心のパーティ会場が妙に居心地が良かったのは僕がおばさんだったからなのかしら。ちょっと複雑な感じ。

 噂では朝の8時に「ビレッジ・ピープル」がゲストで来るという話だったが、結局僕たちのグループでそこまで残った人は居なかったので真偽のほどはわからない。

 パーティは朝の10時頃まで続き、その後はリカバリーと称して、街に飲みに繰り出すというのだシドニーのやり方とか。そんなんしたら死ぬわ!と、僕たちは朝の5時にパーティ会場を後にした。

97.03.02 日

 3時間ほど寝て、すぐにお土産で買い残していたものを手に入れようとまたもオックスフォード・ストリートへ。店は昨日からずっと営業していたようで、僕たちが着いた頃に閉店し始めたところも多かった。

 街にはリカバリーの連中が行き来して、朝のさわやかな空気の中を顔にラメがベタベタ付いたままで歩いている人も数多く見かける。なんか魔法が解けてしまったカボチャを見るような感じもある。

 4日間で睡眠時間はどのくらいだったのかしら。頭がボーとして、妙にハイになってる僕らは何を言っても大笑い。それで余計に疲れていく。早く普通の生活に戻りたーい。

 10時にシドニーを後にして、ゲイどっぷりの4日間に幕を下ろしたのでした。フウー。

 今回の旅行での一番の印象は、ここではゲイとレズビアンが仲良しでうまくやっているんだなというところだ。これがシドニーを、ゲイやレズビアンにとって魅力に溢れた町にしている大きな理由だと思う。

 今年で20回目の「シドニー・ゲイ&レズビアン・マルディグラ」はオーストラリアを代表する大きなお祭りになったけど、第1回目の時には参加者は2千人だったそうだ。ちなみに東京のゲイ&レズビアン・パレードの第1回目も2千人近くは集まったのだから、やり続けていけば日本だってどうなるか分からない。そう考えると、なんか元気が出てくるな。

 来年もバディはツアーの予定をしているそうだから、今から貯金して来年はぜひ皆さんも体験してみることをお勧めします。できるだけ若い人たちに経験してもらいたいですわ。

97.03.03 月

 朝の6時に成田に無事到着。家に帰って、そのまま爆睡。

 夜目覚めてから、荷解き、洗濯、部屋の掃除。日常的な作業の中で、いつもの時間が戻ってくる。シドニーは、あれは夢だったのかしらという気分。

 パレードを撮ったビデオをまとめる。とにかく根性入れて全部撮ってよかったと見ながら思った。これはいい記録になったわ。

97.03.04 火

 今日はタックスノットの展示替えの日。今月は22歳の拓斗君の作品。なんとか3点は間にあったけど、後ろに飾る3点は木曜日に持ってくるとか。「大丈夫なんでしょうね!今度遅れたら本気で怒るよ!」と少し脅しをかけておく。

 今日はブルちゃんがシドニーからまだ帰ってきていないので、僕が代理で入る。

 マルディグラのビデオを流しながらの営業。同行した太郎、龍太郎、「パスポートは忘れてもカップ麺は忘れなかった」ジュンちゃんもやってきてキャッキャと盛り上がる。

97.03.05 水

 早起きして新大久保の社会保険中央総合病院へ行く。さすがに今回の旅行で疲れたのか、持病の痔が悪化して排便時に出血してしまったので、思い切って診察を受けようと決断したのだ。

 この病院の肛門科に勤める岩垂先生というお医者さんは痔の治療では第一人者と言われている人で、以前から診察を受けるのならこの病院でと決めてあったのだ。すでに何人かの友人もここで手術をしていて、その人たちからも勧められている。

 ただし評判の先生なので患者数がものすごく、待たされること3時間。診察を受けるころには疲れてしまった。診断は内痔核を長年放置していたので、もう薬で治せる状態ではないとか。ひとまず出血を止める薬で抑えながら、ゆくゆくは手術ということになった。

 しかし手術待ちが半年くらいあるということなので、個展が終わってからすることにした。11月17日を手術日に決定。入院は長くて10日くらいとのこと。今から予約を入れたりするなんて、海外旅行と同じ感覚ね。
 
 これで20年来の懸案が解決の方向へと動き出したワケだわん。まったく僕の病院嫌いも筋金入りだったということね。

 夜は弦ちゃんの誕生日(4日だった)のお祝いで、「玄庵」で食事。春の雰囲気たっぷりの料理を満喫して、二人とも大満足で帰ってきた。

 ちなみに、そのお献立。

 前菜 春野菜の酢の物
    あん肝旨煮

 吸物 蛤真丈・うぐいす菜

 造り 桜鯛のお造り

 焼物 真魚鰹西京焼

 別皿 白魚博多黄味酢かけ
    若さぎの山椒煮

 蒸物 生雲丹茶碗蒸し

 口替 梅甘露煮

 煮物 菜の花饅頭

 神戸牛サーロインステーキ

 ご飯 えんどう豆炊込ご飯
    香の物 みそ椀

 この「玄庵」はミツオに教えてもらったところなんだけど、味付けがホントにデリケートで気に入っている。

97.03.06 木

 拓斗が残りの作品を持ってきた。これで全作品が揃ったわけだ。

 マルディグラのビデオをかけっぱなしでの営業。これって見てるだけでも結構疲れるビデオなんだわ。
 
 店はヒマだった。

97.03.07 金

 イタリアのゴウちゃんからファクスが届く。ジャケットと革靴は持ってきた方がいいというアドバイスだった。あと10日でイタリア旅行だわん!

97.03.08 土

 イマーゴと一緒にワールドのファミリーセールに行く。モール・ラックのシャツを狙って行ってみたのだけれど、いい物はほとんどなかった。薄手の春先用の白いハーフコートを買う。

 HISに航空券を受け取りに行く。

 土曜だというのに店はヒマだった。

97.03.09 日

 コスモポリタンの特集「私25歳、まだ本当の恋をしていない」のための座談会に出る。読者代表の女性の相談に伏見憲明氏と一緒に答えるという企画。終わったら妙に疲れていた。

 弦ちゃんと一緒に店の近くにできた「坊ん」というお好み焼き屋さんにに夕食を食べに行く。また一つゲイレストランができたというわけ。なかなか美味しかったわん。

 イタリア旅行中に店に入ってもらうサトシの予行演習をした。

97.03.10 月

 東急ハンズにトランクを買いに行く。でっかいトランクは使わないときの収納の問題があり、買うか借りるかでずいぶん迷ったが結局買ってしまった。

 物がドンドン増えていく。怖いほど…。

 旅行前にバディの連載を仕上げなければならない。今回は「Visibility」(目に見えること)にしようということまでは決めたが、そこから先になかなか進めない。


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