2丁目の上のタンコブ日記
97.02.11 火
新しいプロバイダーに繋ぐための設定がなかなかうまくいかないので、ヨウくんに勧められたように、遅ればせながら7.5.5にアップデートすることにした。用心のため、7.5.2も残しておいてのアップデートにする。
今まで使っていた7.5.2のシステムを他のハードディスクにコピーして、それを7.5.5にアップデートした。一応成功したようで、「このMacintoshについて」を見ても7.5.5になっていた。
しかしTCP/IPが開けない。またまたヨウ君へメールを出しておく。
ハードに足を引っ張られてはならじと、マックのアップデートは忘れて、ドラァグ・トランプ制作作業を続ける。
97.02.12 水
弦ちゃんは休み。弦ちゃんと一緒にテレビを見たいのを我慢してトランプ制作のためのフォトショップ作業に集中する。ま、僕もやればできるんだわ。
背景などはこれからだが、一応トランプの体裁を整えたものが53枚分できた。これをラフなサムネールに仕立てからプリント。一枚一枚切り放してから、テーブルに並べ、4種類のスートと順位を決めなければならない。写真を預かる時に、みんな「僕はハートのクイーンがいいな」とか勝手な希望を言ってたから緊張してしまう。だってハートのクイーンは一枚しかないのよ!
3人の中で一番美しい女神に黄金のリンゴをあげる役目を神々から押しつけられたパリスの悩みも分かろうってもの。トロイ戦争だって結局これが原因とされているくらいだから、52人の女王に順位をつけるなんて恐ろしい試みだわね…。
「何であの子がハートの9なのに、僕がクラブの4なのよ!」とか今から想像がつくわ。 おお怖!
一応全部決めたけど、ま、どういう展開になっているかは10月の個展までのお楽しみ!
97.02.13 木
ユキヤがルミエールでラッシュを買ったところ、おまけで僕のデザインしたレズビアン&ゲイ映画祭のポストカードが付いてきたって言ってた。ラッシュのおまけか…。悪くないな。
今日生まれて初めてゲイバーにやってきたという20歳の子が来店した。とにかくゲイの人と話をするのも初めてだとかで緊張しまくっていた。
もちろん男性との性交渉もないのだそうだが、母親にはカミングアウトしているそうだ。うちに来ているワタル君も未経験だが親にはカミングアウトしている。これからは、こういうパターンも増えていくのかな。
考えてみれば、セクシュアリティの自認がまずあり、家族もそれを認識していて、それから性体験という順番の方が自然だとも言えるしね。
マユゲちゃんが新潟から上京。定番のお土産は「明治饅頭」。シュンタは北陸出張のお土産に「加賀の白峰」を。
97.02.14 金
原宿ギャラリーの「アートグッズ・カリスマ宣言」に行ってみる。自分の作品搬入の際は、まだほとんどの作品が搬入されていなかったので、他のアーティストがどんな作品を出品しているのか自分の目で確かめていなかったのだ。
早川純子という作家の木口木版画と、太田三郎という作家の自分で採取した植物の種を毎日の新聞の縮小コピーの上に構成した作品が面白かった。なんの確証もないけど、かわいひろゆきという作家の作品を見ると、この人は多分ゲイではないかしらと思ってしまった。
店はけっこう忙しかった。
思うところあって、これからは頂いたお土産などに関しては一切書かないことにしましたわ。うーむ。
97.02.15 土
店の賃貸契約の5回目の更新。3年ぶりに大家さんの家を訪ねる。今年は15周年なんだわぁ…。
店のタンブラーを買いに銀座に行く。グラスなどをいつも買っているその店は月に一度の定休日だった。トホホ…。
土曜日のタックスノットはやっぱり忙しかった。
97.02.16 日
4月5日に予定している15周年パーティの会場下見にケイ、オカビー、ミツオらパーティスタッフをしてくれる人たちと一緒に行った。
その後、ケイのお宅での作戦会議。おでんをご馳走になる。
店は暇。早めに閉店してサッサと帰る。
97.02.17 月
久しぶりに、僕の皿回しの先生であり、数少ないノンケの友人である山本さんから電話が入る。この人はノンケの中では珍しくノンケだということを意識しないで(ゲイの友人に話しているのとほとんど同じ様な楽さで)話せる人なのだ。「度し難いノンケ」と彼のようなノンケがどう違うのかなどと、色々多岐に渡って話をしていたら3時間も経っていた。
長電話は僕の美学には反するんだけど、気持ちよく話せたので良しとしよう。
マックのシステムだが、新しく7.5.2からインストールし直し、順次7.5.3、7.5.5とアップグレードしていったら、TCP/IPも開けるようになった。ふー。
で、新しいプロバイダーにもつなげた! がしかし、今までにたくさん配った名刺に刷ってあるメールアドレスは前のプロバイダーのもの。TCP/IPに二つのプロバイダーを登録して切り替えて使うなんて事はできるのかしら。今のところ、メールの時とインターネットを長くやる時で二つのシステム切り替えて使うなんて面倒くさいことして対応してるんだけど、うーん、まだ気持ちの良い解決には至ってないなぁ…。
97.02.18 火
今日はオトメ・シネマの会。今月の映画選択は僕の担当だったので、恵比寿ガーデン・シネマでやっている「アメリカの災難」にした。
先月は「秘密と嘘」だったので、同じルーツ探しのテーマで、出来上がりがずいぶん違うと評判の「アメリカの災難」を選んでみたのだ。
実際、違いは大きかった。ある意味で対極にある作り方だったとも言える。この映画では過剰なほど極端に典型化された人物像が次々と出てきて、「秘密と嘘」が描き出していたリアリティは全くない。全員が記号のような役回りなのだ。しかし、笑えた。アメリカ映画ではよく出てくる「世の中って変な人がいっぱい!」的表現ばかりをつなぎ合わせた作りなのだ。
ずいぶん笑わせてくれたが、見終わってからは疲労感がどっと押し寄せてきた。
マチューの誕生日のお祝いで六本木の「Lazy Bar」で食事をする。
午前2時頃、オカビーとケイが15周年パーティの打ち合わせのために、家にやってきた。
オカビーが5年越しで付き合っていたシェーと別れたと言う。突然のことで、何と言っていいやら…。
97.02.19 水
バディの連載のための原稿を書く。今回は「ピンク・トライアングル」がテーマ。今日渡す約束だったのだけど、昨日は全然時間が取れず書き上げられなかったので、明日まで締め切りを延ばしてもらう。
15周年のパーティは会場が取れず、20日の日曜にすることにした。会場は以前僕の出版記念パーティをやったところ。あそこなら使い勝手も分かっているので安心だということになった。
新しいプロバイダーでメールのチェックをしようとするとエラーが出てしまう。なぜかしら。見当が付かない。
97.02.20 木
15周年のパーティの日取りが決まった。4月20日の日曜日、2時から5時まで。場所は東京大飯店にある「レジーニ」となった。テーマは「拡大タックスノット」。ま、早い話がタックスノットは狭いから、広いところで昔からの客も新しい客も、また来る曜日が違うので逢うチャンスがない客同士が一同に会せるような機会を設けましょうという企画。うまくいくといいなぁ。
司会はオカビー。レキが実行委員会を組織してくれることになった。
新しいプロバイダーでのメールもやっとうまくいくようになって、やっと収まりが着いてきた。ユードラの設定が間違っていたのが原因だった。フー。
97.02.21 金
眠い! 最近、ちょっと寝不足が続いている。鏡を見ると目の下に隈ができていた。
銀座にタンブラーを買いに行く。先週の土曜はウッチャリを食らってしまったが、今回は開いていた。
久しぶりに伏見君がやってきた。今年に入って2ヵ月間、家にこもりっきりで本を一冊書き上げたんだそうな。すごいスピード! 3月には出版されるのだそうだ。これも速い!
ヒロとサトシのカップルが、僕が「セルロイド・クローゼット」に関して語ったものが載っている18日付の産経新聞の夕刊 を持ってきてくれた。
笑ったのは、僕の肩書きが「ゲイ文化人」となっていたことだ。こんな言葉今まで聞いたことなかったけど、「この人は新聞に出てきて、こういう映画などについて語っても構わないゲイの人なんですよ!」というのを一語で言うにはこれぐらいしか思いつかなかったんでしょうね。 産経新聞としては苦肉の策だったのかも。
何年か前に、うちの客が他の店でタックスノットに行ってるって隣の人に言ったら、「ああ、そこって文化ホモのたまり場なんでしょ」と言われたというのを思い出した。
店が終わって、今日買ってきたタンブラーをしまおうと収納場所の奥深くを片付けたら、なんとそこには前に買ったタンブラーが何個も残っていた。まったく…。
最近人の名前はドンドン忘れるし、言葉がなかなか思いつかないし、ドジることが多いし、年を取るって大変。
97.02.22 土
昨日に続いて寒い!! 風が強く、歩いていると息が苦しいほどだ。なんだ、この風はっ!と腹が立つ。
寒さのせいだと勝手に納得したが、土曜というのにヒマだった。
マーガレット様がマルディ・グラの公式プログラムを持ってきてくれた。まだ何も調べていないので、これで少しは勉強しなくては…。来週の木曜にはシドニーへ出発だわん!
弦ちゃんは5時半には出発するというので、店は早めに閉めて帰る。弦ちゃんは今日から(日付では日曜ね)ロタ島へ5日間の旅行。
97.02.23 日
NHK教育テレビの「日曜美術館」で、世田谷美術館でやっている「デ・ジェンダリズム」を紹介していた。ジェンダーを扱っている以上、裸や性器などを避けては通れないだろうなと思って見ていたら、中国の馬六明というアーティストがパフォーマンスで全裸になった時に、ロングショットではあったが彼の性器が見え、それをモザイクしていなかった。フーン、NHKがねぇ、と妙に感心してしまった。
ヴィト・アコンチというアーティストのビデオ・パフォーマンスで、毛むくじゃらの男性がおちんちんを股に挟んで歩いたり、胸毛をロウソクで燃やすというのが紹介された。それを見たあたりからなんだかムラムラした気分が始まった。
そのうち、八谷和彦の「ひかりのからだ」という作品が紹介された。それを見るためには鑑賞者は全裸になることを要求されていて、サクラの男女が裸になり、真っ暗な部屋に入って、作者の指定通りに動いているところを赤外線カメラでの映像で見せてくれる。女性の裸よりは男性の裸の方が無難だと思ったのか男性(これがけっこうがっちり体型でおしりもプリン)の方をよく見せる。
美術館という公共の場と、真っ暗闇でうごめくガッチリ型男性の全裸という組み合わせが妙に刺激的で、思わず見ながら自らを慰めてしまった。
僕は何かというと自らを慰める方だけど、日曜美術館を見ながらするとは考えてもみなかった。
以前、深刻な農村の嫁不足というテーマのドキュメンタリーを見ていたら、35〜6歳の農業を愛している熟れた青年(嫁不足がテーマだから、もち独身)が出てきて自分の夢などを語っていた。その男の人の顔といったらホントに僕のモロシュミで、指なんか長年の農作業でゴツゴツのゴワゴワ。あんな手で身体中を触られたらどんな気持ちかしらんとか想像してたら、いつのまにか自らを慰めていた。
その時もとうとう自分は真面目なドキュメンタリーでもやっちゃうのねぇと感慨深いものがあったけど、今回のはそれに次ぐ経験だった。
まったく業が深いっていうのか…。
97.02.24 月
あちこち銀行を巡って月末の支払いなどを済ませ、税務署に行って青色申告も済ませ、床屋にも行き、なんだかいっぱい仕事をした気分。
イタリアに住むゴーちゃん(ゴー・トクガワ・ド・ブルボン)からファクスが入った。3月に行くイタリア旅行のプランを練ったものを送ってくれたのだ。うーん。今から楽しみ!
97.02.25 火
世田谷美術館に「デ・ジェンダリズム」展を見に行く。やっぱりあの「ひかりのはだか」を体験してみたくなったのだ。
「ひかりのからだ」は展示の最後に用意されていた。
受け付けの女の人に見たいと申し出ると、今何人かが順番待ちの状態ですが、お待ちになりますか?と聞いてきた。待ちますと答えると、今空いているの時間では相手の方が男の方なんですけどいいでしょうか?と申し訳なさそうに言う。そんな、そっちがいいに決まってるでしょとは言えず、構いませんと答えると、40分後に戻ってきてくださいと言われた。
いやぁ相手の人ってどんな人なのかしらんと妙に気になる。もう完全にアートを体験するというモードからは完全にズレている僕。(初めからだろうが…)
時間になって戻ってみると、あらぁ!かわいい男の子!が待ってるじゃない。ラッキ! こちらは瞳孔が開くが、向こうは白髪混じりでピアスしてる怪しいおじさんが自分の相棒になると知って、一瞬たじろぐが、よろしくお願いしますなどと笑顔を見せての殊勝な態度。
まずビデオカメラのようなものの使い方を教えてもらい、部屋の中で見えるポイントが狭いので協力しながらそのポイントを見つけてくださいと指示される。さて、それぞれに別の部屋に入ると、そこは脱衣所。八谷和彦氏はこの展示のアイデアを銭湯で思いついたと書いてあったが、念のいったことに脱衣篭までおいてある、これで体重計が置いてあったら田舎の湯治場だわ。
全裸になってメインの部屋に入る。そこはとにかく真っ暗。何一つ見えない。ビデオカメラのようなものを覗くとボーっと白い影が映る。「もう部屋に入りましたか?」と聞くと「入りました。全然見えませんね」と答えが返ってきた。入り口は別でも二人のいる部屋は真ん中が白い幕で仕切られているだけ。どうやらそれぞれの部屋の赤外線のライトが後ろから、その白い幕に向かって付いたり消えたりしているようだ。
ビデオカメラのようなものは赤外線を捉えることができる装置のようで、なおかつその像は白黒が反転して見える。要するに、白い幕に向かって装置を覗くと、自分の影と相手の影(白く見える)が交互に見えるという仕組みになっている。
「まず幕の方に来てもらえます?」と幕を手で確かめながら声をかけてみる。
「はい」と彼。そのうち手と手が触れ合う。「あ、ここにいるんですね」と彼が手を握る。
そんなことをしながら、位置を調整していくと確かに彼の裸のシルエットが浮かび上がるのが見える。と、すぐに自分のシルエットに切り替わる。僕が僕のシルエットを見ている時は彼も僕のシルエットを見ているわけで、僕が彼のシルエットを見ている時は彼も自分のシルエットを見ていることになる。
二人で「見えますか?」「見えます、見えます」などと声をかけながら動いたりしてみる。
赤外線ライトの点滅が早いので、彼のシルエットが見え初め、あらお尻のあたりはどんなかしらと視線を動かしているうちに自分のシルエットに切り替わってしまい、なんだかストリップティーズでじらされている感じ。
「横を向いてみてくれますか?」と僕。「こうですか?」と彼。「そうそう。横顔が見えます」(ウソ、もっとずっと下を見てるんだもーん)
「動いてみてくれますか」と彼。「えっと、こうですか?」と僕。「あ、踊ってますね」(どうして、こうすぐにサービスしちゃうのかしら)
初めて会った二人が暗い部屋で一所懸命自分の裸のシルエットを見せ合っている。奇妙な感覚。そしてやっぱりちょっとエッチな感じ。あら半ボッキしてきたわ。いやーん、どうしよう。
「そろそろ時間です」と外からの声に救われて、闇の中の不思議な協力関係は終わりを告げた。
外に出ると4、5人の女の子たちが順番待ちをしていた。彼も出てくる。なんだか男同士で連れ込み旅館から出てくるところを女の子たちに見られたような気分。
「どうもありがとうございました」と挨拶して彼と別れる。多分二度と会うことはないんでしょうね、僕たち。ホントかわいい子だった…。
色々他にも面白い作品もあったのだけど、この体験ほど強いインパクトを与えるものはなかった。
八谷さん、楽しませてもらいました。あなたが意図した形ではなかったかも知れないけど…。ありがとう。