2丁目の上のタンコブ日記


96.12.01 日

 今日からタックスノットは、僕の作品を展示。みんな見に来てね。

 


 久しぶりにルナちゃん(*1)が来店。ここのところバイセクシュアルの男に夢中だったそうで、その男とのなれそめから、つい最近、その男が付き合っている彼女を巻き込んでの大立ち回り(それも衆人環視のティップネスで)を演じたことまでを一気に話していった。
 相変わらず、強烈な個性を、いたるところで発揮させているようだった。

(*1)ルナちゃん/「2丁目からウロコ」の中で「スパーボールが9個も」の章で紹介されているタックスノットの有名人。

96.12.02 月

 京都から友人のシモンが訪ねてきて、新宿でお茶しながらあれこれと話す。彼と話すと話題が尽きないので、結局、場所を変えながら、7時間も話した。

 家に帰ってからは、「セルロイド・クローゼット」についての原稿にとりかかる。
 3時間ほど書いて、最後のセーブをしたとたんマックがフリーズ。しょうがないので強制再起動をかけ、最後のセーブ分をやりなおそうと書類を開けたら、何も書かれていなかった。

 ねぇ、どうしてこんなことが起こるの? だって最近は慎重になって10分おきくらいにセーブしてんのよ。こんなにコマメにセーブしてたのに、最後のセーブがダメだと全部消えちゃうなんてことがあるのぉ?
 もし、こんなことがしょっちゅう起こるとしたら、この日記も載せられないようなことが起こる可能性も大ってことよね。クワバラ、クワバラ。

 もう、何にも信じられない。結局、もう一度初めからやり直し。途中でプリントさえしてなかったから、ウンザリするような作業になってしまった。ワケわかんないから、元原稿を二つのファイルに、いちいちセーブするというシツコイやり方でやり続けた。

96.12.03 火

 弦ちゃんが店に出かけた後、ずっと寝てた。

 夜中に起きて、昨日の原稿の続きを仕上げた。

 なんとシンプルな一日だったのだろう。

96.12.04 水

 マゴマゴから借りた「松任谷由美モンゴルを行く」というドキュメンタリーのビデオを見る。ホーミーというモンゴルに伝わる特殊な唱法をユーミンが訪ねるという企画ものだ。 つい最近、NHKで放映されたものを録画しておいてくれたのだ。

 ホーミーとは、声帯を使って出した声を口腔に共鳴させ、その共鳴音をコントロールして地声のメロディとは違ったメロディを奏でるという超絶技法のことだ。僕も以前、モンゴルから来たアーティストのコンサート行ったことがあるが、目の前で歌われても、すぐには信じられないような不思議な体験だった。
 コンサートの後はしばらく風呂に入る度に、マネしてみたが、共鳴音はかすかに鳴るのだが、大きな音にすることができない。そのうち、飽きてしまったのだが、ビデオを見てたら、またやってみたくなった。
 ユーミンは「その土地に生きる歌の心をはずして、技術だけを拾得しても、それは曲芸でしかない」って言ってたけど、曲芸でいいからあんな声を出してみたい。

 CNNによると、「巡回裁判所の判事はハワイ州政府に対して、同性間の結婚を認めるように命令した」と伝えていた。ハワイ州で同性間の結婚に関して、また一歩前進があったようだ。
 アメリカの司法システムがよく分からないので、今回の「一歩前進」がどの程度の前進なのかもよく分からないのだが…。
 ハワイでは一度「ハワイ州が同性間の結婚を認めないのは違憲である」という司法判断が出たが、ハワイ州政府が控訴していたようで、それに対する判断が出たらしい。

 どちらにしろ98年の後半にハワイ州の最高裁判所でこの問題の最終判断が出るらしいのだが、それまでは同性間の結婚はおあづけ。どうなるか、実に楽しみ。

96.12.05 木

 アイランドのラクちゃんが久しぶりに来店。
 彼は会社勤めをしていた頃には、毎朝、特別興味はなくともスポーツ新聞を読んで、ノンケのお客さんとの話題作りの準備をしていたという営業マンの鏡みたいな人だったけど、ゲイバー経営者となった今も、そういった感覚を活かし続けている。
 彼の頭の中は、ハッテン場、ゲイバーに関するデータがビッシリ入ってて、お客さんのニーズに合った場所を素早く取り出してくれるのだ。特に最近流行のビデボやハッテン・ルームに関して言えば、間取りまで説明できるほどの情報量。とにかくその検索の速さには舌を巻く。
 で、ご本人はその手の場所には一切行っていないというのだ。全てお客さんから聞いた話でデータベースができあがっているとか。ウーン。

 「営業努力」。長いこと忘れていた言葉を思い出したわ。

96.12.06 金

 タケちゃんの話。
 タケちゃんは実家に住んでいるのだが、彼の部屋は入り口が別になっていて独立した形になっているそうだ。彼の部屋には母親も入ってくることはなく、彼も安心してゲイ雑誌などを隠すことなく置いてあるらしい。ある日、部屋に帰ると人が入った形跡がある。どうやらガスの点検をしたらしく、ガスの栓にかぶせてあるゴムのキャップが新しくなっていた。ということは、鍵を持っている母親がガス会社の人を案内して、この部屋に入ったということだ。彼は青くなった。
 彼は、部屋では自炊をしないので、ガステーブルは置いておらず、ガステーブル用のスペースには歯磨きとか歯ブラシとかが置いてあるのだが、ガス栓の前にはなんと愛用のMサイズのディルド(おチンチンの張り型よ)を置いておいたのだそうだ。母親もガス会社の人もディルド気づかなかったはずはない。これに触らずにガス栓のキャップを変えるのは不可能なのだから…。
 しかし、母親は未だに何も言わないとか。
 タケちゃん「雑誌くらいだったら全然気にしないんだけど、こればっかりはねぇ…」

 みなさん、ディルドのしまい場所には気を付けましょう。

96.12.07 土

 年末のお楽しみ、劇団ペンペン(*1)の芝居を見に行く。毎年年末に公演を行い、今年で8回目。縁あって、第一回目から見ているのだが、最近はチケットを手に入れるのが難しい日も出てくるほどの人気。
 今年は初めての和物に挑戦。出し物は「橋の上団十一郎一座」というオリジナル。座員が全員ゲイという旅回り一座がカツラや衣装を盗まれてしまい、それでも演じる「明治一代女」と「瞼の母」は…、という趣向。

 今年はとにかく笑わせてくれる芝居だった。去年までの芝居はゲイを描いたものだったが、今年はゲイテイストを見せるのに主眼が置かれていた。
 まだ見たことのない人は、来年はぜひご覧ください! 

(*1)劇団ぺんぺん/2丁目にあるゲイバー「ぺんぺん草」のマスターのヒロシさんが主催する劇団。出演者、裏方全てがお客さんで構成されている。毎年2月頃に本が書かれ、9カ月の稽古をして、12月に公演というスタイルをとっている。この活動は2丁目の歴史が書かれるとしたら、必ず取り上げられるはず。

96.12.08 日

 客が入ってくる。顔は見たことがあるが、誰だかわからない。多分2度目か3度目のはず。満面に笑みを浮かべて「いらっしゃい!」 でも、その後が続かない。初めての人なら、初めての人なりに色々聞いていけばいいのだけれど、以前に色々話した気がする人には、それもできない。分かったわ、降参! 
「ねぇ、前に聞いたかもしれないけど、この店どうやって知ったんだっけ?」
「あれぇ、この前話したじゃないですか。覚えてくれてないんですかぁ」
(忘れてるから聞いてんでしょうが!)
「ごめーん、最近ボケはじめてんのよぉ」
「ウロコ読んで来たんですよ」
(ああ、なんかそんなこと話したような気がするなぁ…。で、でも細部が全然思い出せない…)
「あ、そうだったよね! で、その時ってどんな状況だったっけ?」
「ほら、偶然、ずいぶん会ってなかった○○さんとここで会って、その話もしたじゃないですか。ホントに覚えてくれてないんですね」
(その、「覚えてくれてない」っていう言い方止めてくんないかしら…。でも、なんかおぼろげながら状況が浮かんでくる)
「あ、そうか、そうか。あなたがここらへんに座ってて、○○君があそこに座ってたんだよね」
「そうです、そうです」
(じゃ、今日で2度目だわ。ふー)
「やっと思い出したわ、ゴメンねぇ」

 客商売長くやってると、昨日のことと一昨日のことさえ区別がつかないようになってしまう。いつもまにか自分の脳にあまり負荷をかけないような対応を身につけてしまうんだろうと思う。新人はある意味でみんな同じなので記憶に引っかからない。入ってくるなり素っ裸になって踊りだしてくれたりすれば絶対忘れないわ!
 もう何年もこんな感じで、謝り続けてきた。 

96.12.09 月

 寝覚めると、気持ちが落ち込んでいる。ここ2〜3日前から、やな兆候があったのだが、完全に沈み始めたようだ。
 こうなると、自分をコントロールできない。落ちるところまで落ちるしかない。今日から休みでホントによかった。

 こういうことって結局は一人で解決するしかないと思っていたんだけど、店を終わって帰ってきた弦ちゃんに話してみた。面倒くさい話は嫌いなのに、彼は僕の取り留めのない話を聞いてくれた。制作上の迷い、自信の喪失、作ることの意味。
 漠然とした不安を語りながら涙が流れる。
 
 弦ちゃんは具体的に何かを答えてくれたわけではなかったが、ただ懸命に励ましてくれた。
 彼は僕の不安をそのまま受け入れてくれている。それを感じているうちに、気持ちが明るくなってきた。
 解決策が見つかったのではないのに、不安が消えていた。

 3年間の関係作りの七転八倒は、こんな形で報われたのだ。僕は心から嬉しかった。

96.12.10 火

 早起きして散歩に出た。何かを見つけたい時は散歩に出る。とにかく何時間も歩くのだ。

 途中で紀ノ国屋に立ち寄る。今必要なものを見つけられるかもしれない。こう言う時は直観に頼るのが一番。
 ウロウロしてると、「神話の力」という本が目に入る。手にとって、ざっと目を通す。分からないけど、多分これだわ。
 早速買って、喫茶店へ。読み始める。そう、これだ。何か忘れていたものを思い出すような、そんな感じがする。
 もう散歩は中止。この喫茶店で心の中を散歩しよう。

 3時間ほどかけて3分の1ほどを読む。久々にわくわくするような読み心地。元気が出てきた。

 

 


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