#12

Being For The Benefit Of Mr. Kite
/The Beatles
アルバム「Sgt. Peppers Lonely Hearts Club Band」に収録

1967年
CP32-5328

 Beatlesの活動の頂点として君臨する、「Sgt. Peppers Lonely Hearts Club Band」の7曲目に位置する(アナログではA面最後)曲。
 アルバム自体が「架空のショウ」という構成で作られており、夜にバンドの演奏が始まり、11曲目「Good Morning Good Morning」で朝を迎え、ショウの終わり、そしてアンコールと一夜の夢の様な意味合いも持っています。
 各曲もバラエティに富み(悪くいえば散漫)色々な楽しみの詰まった、まさにショウを体現し、そしてルナパーク(遊園地)的な要素を持ち合わせています。
 その中でも一番ルナティックなのが表題のこの曲。アンティークショップでたまたま目にしたサーカスのポスターをヒントにして、ジョン・レノンが作った作品。そんなので曲が出来ちゃうのがまた凄いです。
 歌詞はサーカスの広告文のような世界、そしてそのサウンドがまたルナティックな仕上がりなんですね。サーカスの様な摩訶不思議サウンドを出すため、テープスピードを半分に落した状態でオルガンを録音、再生時に倍速にしてミックスをしたり、最終部の万華鏡、月の光の中で踊る様なサーカス世界の如き効果音は、スチームオルガンのテープをバラバラに切り、それをランダムにつなぎ合わせるという荒技で作られています。サーカスという幻想の世界、それはまさに「ルナパーク」。異界の幻想体験、遊園地の雰囲気を醸し出す事がこの曲の目的。
 
 元々「ルナパーク(lunapark)」はロシア語で遊園地の意味、そしてヨーロッパでは夏の間に短期間だけ開催される移動式遊園地の事を指す事が多いです。
 アメリカでは1903年に月世界、月世界の旅をテーマ、コンセプトに施設を統一し開園した「ルナパーク(月世界遊園地)」と遊園地は基本的に異界、幻想世界を楽しむ場所として機能するものです。(それはディズニーランドしかり、後楽園にも「るなぱーく」なんてのがありましたね)
 特にメリーゴーランドや見せ物小屋、それに附随するサーカス等はまさに日の光の中ではとても見る事の出来ない世界、夜、月の光の中で機能する怪しい、そして楽しい幻想世界そのものを体験させてくれそうな気がします。

 そんな雰囲気がこの曲の中には一杯詰まっています。直接的に「月」は出てこないものの、ルナティックな雰囲気を味わうには最上の曲の内の1つ。ぜひぜひ御体験を。


付記:アルバムについて

 この作品、大上段に「ビートルズの最高傑作だ」とか「歴史的評価」って言葉を考えないで「真夏の夜の夢」的な感じや「一夜のショウ」を思って聴くとまた面白いです。
 まぁ、しかしこんだけ曲調のバラバラな曲群を「架空のショウに仕立てる」という逆転的な鶴の一声を出し、1つのアルバムに仕上げてしまったポール・マッカートニーのアイディアには恐れ入ります。またそれが「最高傑作」となっちゃうのが魔法です。
 前述の通り「ルナッティック」なアルバムなのに最高傑作として燦然と輝いてしまう、太陽と月の表裏一体、もしくは陰と陽のような希有な存在のアルバムです。