檸檬
遊佐未森

2002年 日本
1. 青空
2. 月がとっても青いから
3. 南の花嫁さん
4. アラビアの唄
5. ゴンドラの唄
6. 小さな喫茶店
7. 夜来香
8. 蘇州夜曲
9. 森の小径


 

 遊佐未森の全曲カバーアルバム。曲は大正〜戦前〜戦中〜戦後初期と現在の歌謡曲界の潮流からは(戦後初期以外は)見捨てられた感のある昭和歌謡第1期黄金時代の楽曲群がその主役です。
 所謂「懐メロ」という古臭さを助長する言葉の括りとロック以降の楽曲構造の変化、そして捻くれた見方では、戦後教育の戦前イメージ軍国主義灰色幻想がそれに加わっているのではないでしょうか。

 実際昭和19年位から終戦にかけては暗くはなるものの、それ以前、このアルバムで例えれば3曲目「南の花嫁さん」は昭和17年、大平洋戦争まっただ中。その中、こんな明るい内容の曲が作られていた事を考えると、現在の戦中のイメージがいかに軍歌(=軍国主義)だけに偏っているのかが聴いてとれ、このあたりはもっと日本の歌謡史で指摘、見直されても良い所だと思います。
 とは言っても、この歌にしてもやはり南方幻想。多少なりとも「南進政策」の影響下にあることはいなめません。この当時の流行歌を見ても、その様な歌がめじろ押し。8曲目「蘇州夜曲」にしても大陸進出(現教育化では大陸侵攻)、大陸幻想が感じられる所です。その事自体を当時の大多数の国民は支持していたんですよね、大東亜幻想です。国内の暗い世相から海外に「歌」で脱出を計った様な気もします。一様に聴いていて詞・曲ともに明るいですもんね。
 大陸・南方幻想に関しては、国策に関係なくもっと昔から持たれているもので、洋の東西問わず人間自体がそんな感じの傾向(エキゾシズム!)を持っています。戦後しばらくそんな感じの歌の系譜も続きますし。

 まぁ、これを論ずると異常に長くなるので本題に戻します。遊佐未森、彼女のカバーはそんな事を抜きにして「歌」の魅力だけを抽出した作品になっている所が特徴で、この頃の歌の持つ「言葉の力」が非常に生きています。大量の小道具・物品名を使わなくてもその情景がヒシヒシとあらわれる、想像力豊かな豊潤な歌詞、そしてそれを最大限に膨らませる楽曲が、彼女の力でこの時代にまた新しく再構成されています。2曲目「月がとっても青いから」の「アカペラ1人多重コーラス」はとても好きな感じ、やられました。
 歌う言葉を大事にする人が、言葉1つ1つに情景を持つこの頃の歌を歌ってくれるのはとても嬉しい限りで、今の人が聴いても十分にその情景が堪能出来ると思います。
 ただ1つ難を言えば5曲目「ゴンドラの唄」の3番を省略してしまっている事。3番の「なまめかしさ」が気になったのでしょうか?これがないと僕としてはと言うのがあるもので・・・。
 第2弾をできたら期待したいなあ。「宵待草」とか「影を慕いて」なんかカバーして欲しい気分。

 興味のある方は「ゲルニカ」のアルバムも合わせて聴いてみる事もオススメ。こちらの方では、より昭和歌謡第1期黄金時代の拡大解釈気味なイメージ、この当時の国策的な匂いや雰囲気がカリカチュア、真面目かつ過激な戯画として楽しめます。
 そのまま直に「懐メロ」と言われているモノをを聴いてみるのもまた面白いと思います。こちらでは再録モノがあったりするのでそれに御注意。なるべくならオリジナルを聴いた方がより、その当時を味わえるのではないでしょうか。ちなみに僕的には「昭和歌謡」っていうと僕はこの頃の楽曲が一番似合っていると考えます。