マルチ漫画家の元祖?
75年発表の唯一のアルバムが本作「闇のアルバム」タイトルとジャケット、そして彼のマンガのイメージだけで想像すると、おどろどろしいモノを想像しそうですが、曲調はまっとうな歌謡曲アルバム。しかし内容は彼のマンガを題材にし、楳図かずお自身の作詞作曲!で、漫画に見られる特有なクセが曲に表れています。
歌詞はモロに彼独自の世界なのですが、言葉使いは平易で、イメージ喚起がしやすい上に、少年時代は合唱部に所属していた、朗々とした(天然?)歌唱と所謂、歌謡曲然とした曲と言葉が気持ち良く流れる曲調が心に響き我々日本人のDNAに入り込む様に増殖。
各曲の曲想も1曲1曲アレンジも練られていて、バラエティ豊か。1はタイトル通り教会の賛美歌風、3のインド〜アラビアンな感じはへび少女のイメージぴったり。その他もシャンソンあり青春歌謡とまさに歌謡曲の見本市の様なアルバムです。
中でも9は話の物凄さとは反比例した絶望の中での希望溢れるカントリー歌謡で、変にドラマティックなモノで無い事が逆に心の中に残ります。近年ドラマ化した際の達郎の「ラヴランド・アイランド」にはある意味まいっちゃいましたね。
ボーナス・トラックでもそうなんですが、楳図かずお自身が楽しんで気持ち良く歌ってるのが耳に良く聴こえます。特にライブ録音の13曲目はほんとロックンロールしてます、荒木一郎バリの歌いっぷり!イイですね、こういう人。人生色んな意味で楽しそうですし。
才能溢れる才人の才能の一端が垣間見える作品集です。楳図ファン以外の音楽ファン、昭和歌謡の雰囲気が好きな方もぜひ。
もう一枚、昭和30年にデビューしてから画業50周年記念ベストアルバムとして去年発売された「グワシ!まことちゃん・楳図かずおワールド」も御紹介しましょう。
彼の音楽関連全盛期の「まことちゃん」期の楽曲を中心としたセレクションですが、同時に作詞・作曲家として他のアニメ作品(10〜14)や近田春夫に提供した(16・17)も収録しているのがミソ。権利関係からか、郷ひろみの「寒い夜明け」(作詞のみ、曲は筒美京平)が収録されていないのはまぁ、しょうがないでしょう。アーバンな歌謡ポップで筒美京平らしい作品です。興味のある方はベスト盤で。
まことちゃん期、音楽界的にはディスコ〜テクノ全盛期でアレンジもそれらしいものになっており、テクノ歌謡好きも聴いてみると良いと思います。企画度とテクノ度は正比例する事が実感出来ると思います。また、彼の作詞の爆裂度、ボーカルのはじけ具合も高く、このテンションはちょっと比較対象が無いので説明しにくいです。つまりは聴いてみるのが一番。
また、濃ゆいマンガフリークでも知られるローリー寺西が参加したUMEZZ名義の1996年のシングル曲(7・8)が入っていて、ローリーらしさと楳図かずおのロック魂の相性の良さと企画モノならではのメチャ気の入れようが楽しめる事でしょう。
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