「開かれたプログレ」。音楽なんてものは沢山の人に聴かれてナンボだと思うと、とても可笑しい言葉ですが、実際の所、プログレというジャンルに関してはマニアックな音楽性からそれがまかり通っちゃう所があります。それを念頭においてここで紹介するバンド「IT
BITES」を聴くと「開かれた〜」という言葉が実感として湧いてくるんですよね。
「IT BITES」登場時のプログレ状況は、大御所はポップ化、新人においては在りし日の伝統・精神を受け継ぐ(伊藤正則調)若者達が跋扈している時代です。 その中で、ハードロック/プログレの間を縫い、王政復古でない、新しい路線を打ち出したのが彼らです。プログレを基調としながらも、必要以上に情感に流されず、曲調もまた適度なマニアックさを持ちながらも外へと向う情熱に溢れているんですよね。カラッとしていると言えば解りやすいかなぁ?ジャケ写を見てもとてもプログレのイメージとはほど遠いカッコしてますし。ただこれら事が彼らの立ち位置をとても当時としては微妙なものにしてしまってたのですが…。
1stアルバムで曲はポップ、凝った構造、確かな演奏力そして新しい感覚を打ち出した柔軟な姿勢は大御所とはまた違うプログレ風味のポップ/ロックとして「精神を受け継ぐ」(伊藤正則調)なんて大仰な言葉を乗り越え、新時代を切り開いた予感がありました。
そして待望の2nd「Once Around The World」がここで紹介する本作。柔軟な姿勢はスケールアップされた上、ポップであるにも関わらず、よりハードロック/プログレ方面に傾斜するという特異な音楽性が披露されています。そしてリズム隊が前よりもしっかりして曲にメリハリがつき、方向性が明確になりました。
プロデュースは元GONGのスティーブ・ヒレッジをに迎えたたのが1〜5、本人達が6〜9。
よりハードロック/プログレ方面に傾斜しても、ポップに聴こえるのは彼らの持ち味。1、2、5はその方向性を徹底させています。前作よりギター中心の音作りがそう聴こえさせているのでしょう、鍵盤の音色やフレーズもプログレ風のベタな感触でない事もそんな印象に拍車をかけます。3は変拍子や展開の妙のプログレ的聴き所が満載ながら、それを凝った風もなく軽く聴かせます。そんな所はスティーヴ・ヒレッジの手腕なのかもしれません。彼本人は何もしなかったとの噂話も漏れ伝わっては来るのですが、曲の流れを良くするタイプの製作手腕だったのかもしれません。4は「ドラマ」期のイエスの様な躍動感が魅力的。というかモロにイエス(笑)。
6からは本人達のプロデュース。1〜5よりも凝った構造の曲が並びますが、こちらもまたベタでないのが良い感じ。コーラスパートが複雑に凝っているのもまた彼らの魅力のひとつで、演奏力による展開の妙よりも構成力による展開、印象描写と言えば良いのかなぁ、イメージ描写のような展開が繰り広げられています。
ただ7の反捕鯨ソングはいただけません。いい加減にして欲しいですね、虚夢幻想をふりまくのは。曲はイイ出来なのに詞の内容が大×。西欧人にしてみれば「科学的」という言葉も鯨に関しては政治的、もしくは感情的なモノが「科学」なのでしょう、閑話休題。
最終曲は14分55秒の大作で10ccの様なモダン・ロック/ポップ組曲です。分数に対してだけ「大作」であって、曲としては妙なひっかかりなく、とてもすんなりと聴ける所がポイント。15分近くあって重く聴かせないのも彼らの資質によるものなのでしょう。
こうして見ると(聴くと)前述の「ドラマ」期のイエスの様な雰囲気。あのアルバムも「必要以上に情感に流されず、曲調もまた適度なマニアックさを持ちながらも外へと向う情熱に溢れて」いて、感触は非常にポップ。大作と呼ばれる作品においても同様です。
この妙な感覚が微妙なのですね。僕はとても好きなのですが「どっち付かず」的印象を与えてしまったのと88年という年代から、あんまりこの作品売れませんでした。今僕が思うに、その後のドリーム・シアター等のバンドとのミッシングリンク的存在なのですがねぇ。当時としては感覚が早かったのでしょうね、ポップさが、曲調に深遠さを求めるプログレマニアにそっぽを向かれて梯子を外され別の意味でマニアックな存在に…というのは僕の想像ですが、カラっとし過ぎていたのかなぁ。とても上質なのにもったいない気がいたします。今の耳で聴くと絶対良いはず。
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