ダリオ・カステッロの生涯については,全くわかっていないらしい。1621年
と1629年に各々ソナタ第1巻,第2巻がローマで出版されているが,これ以外
にカステッロに関する情報は殆どないということだ。「ソナタ」というジャンル
は「カンツォン」から派生してきたと考えられ,16世紀の終わり頃からソナタと
名のつく曲が,例えば有名なところではガブリエリなどによって書かれているが,
ソナタばかりを集めたこれだけの規模の曲集は,カステッロの第1巻のソナタ集
までなかったと思われる。
第1巻でもそれまでのカンツォンとは一線を画する自由な楽曲形式で,音楽史
の上でも非常に斬新,新鮮な感覚が盛り込まれているが,第2巻では更に際立った
独自の作風で,現代のあらゆる音楽ジャンルを考えてもなお前衛的なものを感じる。
これは第2巻の最初に載せられた2曲の通奏低音付きソロソナタで特に顕著である。
ここに紹介する第1番はSopran soloという指定が記されており,音域的にはヴァ
イオリン以外に,最低音cのリコーダーや,移調すれば当時から独奏用として使わ
れたフルートである最低音gのリコーダーでも演奏可能であり,ヴァイオリンによ
る演奏とは一味違った魅力が引き出される。コルネットによる演奏も原理的には可
能なはずだが,録音等,筆者は知らない。
そして冒頭のメロディーを受けた展開。少し落ちついて,冒頭の緊張感を若干ほ
ぐしてくれる。短調的な旋律から転調し,一旦長調的な終止形へと至るが,これは
実は間もなく始まる新たな展開への準備なのである。通奏低音が間奏したあとゆっ
くりとソロが入り始めるが,次第に音符が細かく,速度を増していき,いつのまに
かまた短調的な音型となって,最後には32分音符が一小節続く極めてヴィルトゥオ
ーゾ的な装飾で,冒頭以上に聞き手を引きつけて,終止形へと至る。
続くゆっくりした部分は後のいわゆるソナタでは緩徐楽章に相当する部分で,直
前の超絶技巧とは対照的であるが,ある意味ではやはり奏者の個性が出る聞かせ所
といえよう。朗々とした旋律で,この曲のなかでも重要な意味を持つ部分である。
そしてそれが終わると,再びなだれ込むように速い技巧的な部分へと繋がっていく。
そして,最後にまた,ゆったりとした締めくくりの部分へと導入される。終止に
は,カステッロがこの第2巻のソナタ集で好んで用いている,半音階的な装飾音型
に続いて半終止の和声で終わる手法(筆者はカステッロ終止と勝手に呼んでいる)
で締めくくられる。このカステッロ終止には不協和音が極めて効果的なひびきをも
たらし,最後まで時代を超えた前衛的な味わいを聞かせてくれる。