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言論のテロリズム
山本栄一 著 鳳書院

感想
 この本は、ある週刊誌が起こした捏造報道事件の顛末を記録したもので、
著者は、元読売新聞社編集委員です。
報道は、ある婦人がある人物に強姦されたと、一誌で35回も、
執拗に、繰り返し行われたものでした。

 その婦人と夫は訴訟を起こしたのですが、裁判では、証拠を出すことが
出来ないばかりか、次々と証言が虚偽であることが判明し、証言は二転三転。
最後には人通りのある屋外で強姦されたなどと言わざるを得なくなるなど、
事実無根であることが露呈しました。
本書では、この事件は記者がその夫婦をたきつけてでっち上げさせた
ものであることを、さまざまな証拠や判決文を示しながら述べています。
(この夫婦が起こした訴訟は、最終的に最高裁で「訴権の濫用」
であるとして「却下」され、敗訴が確定した。
東京地裁の判決文曰く、
「このまま本件の審理を続けることは被告にとって酷であるばかりでなく、
かえって原告の不当な企てに裁判所が加担する結果になりかねない」)




 僕は学生時代に、サークルで一部週刊誌による悪質で歪んだ
報道についての展示をしたことがあり、こういったテーマには
興味を持っているのですが、その意味では、この本は
貴重な資料なのではないかと思います。
本書では、ある報道を中心に据えているわけですが、確かに
その経過と内容は、あまりにも悪質で、信じがたいものでした。
(なんらの裏付けも得ないまま、多くの政治家などがこの
捏造報道を利用した、という意味においても、
過去に類例がないと思います。)
詳しい内容は本書に譲りますが、僕は悪質な報道は、
必ず健全なマスコミの首を絞めることにつながる
と考えています。
マスコミは司法・立法・行政に続く第4の権力だとも言われていますが、
だからこそ、真摯なセルフコントロールが必要なはずです。
そうしなければ、権力による規制の口実を与えてしまいかねません。
そしてそれは、我々一般市民の不利益に直結します。



 今の一部週刊誌には、「売らんがために」平気で人権を
踏みにじる傾向があります。
「賠償金は必要経費のうちだ」とうそぶくところもあるほどです。)
現在、悪質な報道に対する賠償金は、社会からの要望を反映して
徐々に高くなってきていますが、まだまだ低いと感じざるを得ません。

 人権後進国と言われる日本。
マスコミ自身によるセルフコントロールだけに期待するのではなく、
我々一人一人が、人権軽視の一部週刊誌を買わないようにするなど、
実際の行動を起こす必要性を、非常に強く感じています。
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