あらすじ
この作品は、一人の男が、昆虫採集に出かけていった先の砂丘で、砂の穴の底に
不法監禁される話である。登場する人物は、主人公、外の世界の人々(妻、同僚など)、
砂の穴にすんでいる女、村の人々である。
男は必死になって、あらゆる手段を使って穴から逃げ出そうとするが、女はそれを
引き留めようとし、村の人々は男が逃げ出さないように監視してしている。男は、
外の世界に戻りたくて逃げだそうとするのだが、最終的に外の世界への道が開けたとき、
逃げだそうとはしなかった・・・。
感想
砂地の足跡は、風に吹かれてすぐに消えてしまう。男は同じように、普段の生活では
自分が存在したという証拠を残せないと考えた。男が昆虫に入れ込んだのも、新種を
見つけて、自分の名前をラテン語の学名に残すためであった。男は名前を半永久的に
残すことが、生き甲斐だったのだ。
この作品では、明らかに現実には存在しない、砂地での異常な生活を緻密に描写している。
作品の終盤で著者は、主人公に、普段の生活と異常な砂地での生活とでは、それほど
違いがないと気づかせる。そして「砂と昆虫にひかれてやって来たのも、結局はそうした
義務のわずらわしさと無為から、ほんのいっとき逃れるためにほかならなかった」
といわせている。
著者は、砂を掘るために生きているような生活を描き、鏡とすることで、日常生活の
無為な側面を映し出しているのだろう。
しかし、私は日常生活はそんなに無為なものとは思わない。
いや、日常生活を無為なものにするのも、有意義なものにするのも、
その人次第であると思う。
あるいは、著者は、このような形で読者に「生きる意味」「価値的な生活」
とは何か、再考させたかったのかもしれない。