海と毒薬
遠藤周作著


 この作品は友達に勧められて読んでみた短編なんですが、なかなか面白かったです。背景は戦時中の日本。まだ新米の医者と、1人の看護婦が中心に、彼らとその周辺の人たちがいかにして人体実験に参加するに至ったかを描いた作品です。

 僕は特に、人間に対して限りなくドライになった主人公の友人と、ドライになりきれず、かといって徹底して人間主義者に生きることもできず、その中途半端さ故に苦しんだ主人公の対比がとても印象的でした。

 また、研修医になってしばらくして、何人か自分の患者が亡くなり、医療の現場のいろんな側面を見てから読んだので、いろんなことを考えさせられました。自分は今、どのように「生」と「死」を捉えているのか。人間として、医師として、どうあるべきなのか。どう患者と、医療と向き合っていくべきなのか。まだまだ答えは出ません。



 この作品も、人間の弱い部分、闇の部分を描き出した、とても日本的な小説だなぁ、なんて思いました。一般の方ももちろんですが、医療に携わる人は、一度この作品を読んでみて、自分の中に潜むいろんな感情、内面を感じ取り、それについて考察してみるのも決して悪いことではないと思います。

 なお、この作品、実はかなり有名な小説で、日本軍の人体実験について語られるとき、必ず登場してきます。ということを読んだ後に知りました。(^-^;;

読書感想文メニューへ
ホームへ