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「怒りの葡萄」
スタインベック著

作品からの引用
 「人間自身が一つの思想のために苦しみ死んでゆく
ことのない、そのときを恐れよ、ということだ。
なぜなら、この一つの特質こそ、人間自体の基礎
となるものであり、そして、この一つの特質こそ、
宇宙において他とはっきりと区別される人間に
ほかならないからだ。」
 「やつは片目しかないことで自分をなでているだけさ。
何でもかんでも、その目のせいにしてね。
やつは怠け者だよ。ろくでなしだよ。
たぶんやつも、自分に利用価値があると知ったら、
気がとり直せるだろうて。」
 「誰かが、おめえを責めやしないかと、そのこと
ばかり恐がってるだ。おれはよく知ってるよ。
若いときにゃ、えらく張り切って、いつでも、
いっぱしの男でいたいもんさ。
だけど、ばかくせぇことだ。
アル、相手がおめえに飛びかかってこないときにゃ、
こっちも、のんびりあけっ放しにしとくだ。
それでいいんさ。」
 「財産があまりに少数者の手に蓄積されると、
それは奪いさられる」
 「人民の多数が飢えと寒さに迫られるとき、
彼らは暴力によって彼らの欲するものを
とるであろう」
 「抑圧は、単に抑圧される者を強くし団結させる
役割しか果たさぬ」


感想&思ったこと
 この作品は、文章に面白さを求める人には、全く
つまらないものかもしれない。特に奇跡も起こらず、
派手な演出もあまりないからだ。逆に、全体に漂う
暗い雰囲気に浸るのが好きな人には、とても面白い
作品かもしれない。しかし、そういう読み方は、
僕は非常に嫌いだ。著者も、おそらくはそういう
読み方を求めてはいないだろう。
 この作品の登場人物は、それぞれとても個性的であり、
生活臭、リアリティ、といったものは非常によく出ている。
彼らを、あえて2つのタイプに分けてみる。
一つは、権力や富を持ち、利己主義に陥って、人間性を
失い、民衆を見下すようになってしまう人々。
もう一つは、ただ生きようと必死になって、
お互いに助け合う人々。
どちらの方が、人間の生き方として崇高であるかは、
明白であろう。しかし、前者の人々は、権力を傘に着、
後者の人々を「赤」と呼び、「悪」と決めつけ、
しいたげる。
 権力や富は、人間を非人間的に、そして傲慢に
してしまう。そうした人々は、自らが、「権力」の
魔性に踊らされている、哀れな操り人形であることに
気づかない。
生きるために盗むことが、必ずしも悪だろうか。
貧しい人から搾取するのは善なのか。
 貧富の差では、人間の価値は決まらない。
しかし、現在でも、権力者はおごり高ぶり、
自らの地位を守ることに汲々とし、
人間の真価に盲目である。
 結局この状態は、人間が物的欲求に縛られている
かぎり、また、一人一人の精神的境涯が深く
ならない限り、変わらないのではないだろうか。
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