ツィパシル・ブルーフレイム

Illustration:山明

ある将校が本営に提出した企画書が事の発端である。

「彼」。陸軍直轄のTU実験部隊で、テストパイロットしていた事もある、この男が出した企画書には「次世代突撃機計画:アドバンスド・ツィパシル・プログラム」と記されていた。

もともとパイロット達に好評だったツィパシルをさらに改良し、より高機動に!より戦闘力を高めようと目された本プランは、上層部の厳しいチェックを受けることも無く、比較的すんなりとスタートを切ることとなる。

軍部からは数機のツィパシルを供与されると、また開発チームにはAGインダストリーから数名の技術者。ロケット、ジェット推進機開発メーカー数社。「彼」の率いるテストパイロット達という、蒼蒼たるメンバーとなる予定で、プラン上はとても華々しい、主力の開発計画のような扱いが約束されていたのたが…

順調に進むかと思われたこの計画も、その後上層部から提示された予算は厳しいものであった。つまるところ、軍部の予算確保の為、規定路線に組み込まれていただけだったのである。

さらに、その後の厳密な試算で、当初の見積もりをはるかに上回る開発費が計上されたことや長引く軍内部の派閥争いで後ろ盾となる筈の幹部も及び腰となったのは容易に窺い知れるところである。

そのような経緯もあったのだが、開発スタッフは落胆し挫折感を味わいながらも、2機のテスト機を作り上げることとなる。

この「ツィパシル・ブルーフレイム」ともう一機「ツィパシル・ザ・ロケット」である。

本機ブルーフレイムは、比較的軽微な改良であり、戦闘行動も視野に入れた設計とされ、ツィパシルの面影を強く残したものとなっている。2基の戦闘機用ターボジェットと大推力ロケット1基。リフト用のファンジェットを持った着脱式の「尻尾」を持ち。 起動時、車輪による安定性確保から序序に速度を上げて最終的にWIGとして地表数メートルを飛行(浮上)し、さらに高速度域に移行するシステムであった。

もう1機「ザ・ロケット」は限界性能評価の為、改良に次ぐ改良で原型をも留めない、まさにロケットのような形態へと後々変貌を遂げることとなる。ツィパシルの機体に、無理やりロケットを取り付けるという半ば強引なこの発想は、テストパイロットからは大変悪評を買い、「自殺機。特攻機。」などとあだ名され、忌み嫌われることとなる。あまりにピーキーな操作特性。予想を超える機体への負荷や、予算不足の深刻な煽りを受け、制御系のOSを開発出来なかったのが、ボディブローのように計画全体の歩調をさらに緩めることとなる中。 それでも懸命に取り組むスタッフの熱意と努力により、幸いに重大な事故も無く、又奇跡的に死傷者も出さずに数々のテストを終了した。
…したのだが。

蓋を開ければこの計画、結果は惨憺たるものであった。 しかしそれでも、後に残した貴重なデータなど功績も評価されるべきである。

目に見える唯一の成果!レコードブレイカーの役目も併せ持っていた「ブルーフレイム」が、最大推力・過負荷全力で挑んだ試験で伝説は生まれることとなる。地表付近で最大速度時速900キロ超という、すさまじい記録を叩き出した。激しい衝撃と振動に耐え。爆発の恐怖を克服した「彼」らとこの機体には、テストパイロット達から最大の尊敬と賞賛が贈られた。これ以降しばらく本機は「モンスターマシン・最速マシン」の称号を欲しいままとする。あくまで、パイロット達だけの噂話として…。なのだが…。

<「彼」>

Illustration:おやじ

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