<短編>
「もうすぐ目的地ですよ」
ガラガラに空いた機内の中で、少女のか細い声が響いた。
窓の外を見つめる瞳は、その幼さの残る顔立ちに比べて、随分と大人びて見える。
「ふぅ」
ひとつため息をこぼした少女が視線を戻した先は、食事用のテーブルに乗せられた小型端末。
カタカタとキーを打つ音と共に、画面の文字がどんどんと流されていく。
その隣で。シートを一杯に倒して横になっていた男が、ゆっくりと起き上がった。
「ぜんぜん眠れなかったぜ……」
言いながらテーブルの上に置いたサングラスを手に取る。
「3時間20分前には眠りについていたようですが?」
「4時間も寝てないって事だろ」
男は立ち上がると、そのまま化粧室へと向かっていった。
その背中を見た少女はもう一度ため息をつく。
そしてまた、窓の外へと目をやった。
視界の半分を染める青い海と、遠くに見える町並み。
その町の片隅は、燃えていた……。
01.アルフォン
*
「暑いですね……」
デッキを降りた少女は、降り注ぐ日差しに思わず目を細めた。
「こっちは夏真っ只中だからな」
言いながら男は黒いコートに袖を通す。
「ライオット様……暑くないんですか?」
呆れた様子で少女は言った。
ライオットと呼ばれた男は、ただ口の端を吊り上げると、そのまま襟元を正した。
「変な人……」
最も、そうつぶやきながらも彼の着る服が普通の店に置いてあるような代物でないことも十分に理解しているのだ。
それにしても、見ている側にしてみれば、ただ季節感も無く暑苦しい格好をした男でしかないのだが……。
少女は男と反対に羽織っていたカーディガンを脱ぐと、軽くたたんでかばんの上にかけた。
白いフリルの付いた黒のワンピースが風に揺れる。
同時に、どこからか焦げた匂いがした。
「戦闘はどの辺だ?」
ライオットは施設に配備されている兵に尋ねた。
男は一瞬、見知らぬ顔に戸惑ったが、コートの襟元にある階級証を見るなり、ピンと背筋を伸ばした。
「湾岸地区B-370であります」
「近いのか?」
「地図上ではすぐですね」
少女がすぐに答えた。
「車を貸りる。それと、1番の積荷だけ基地の方に移しておいてくれ」
ライオットは兵に告げると、施設の格納庫へと歩き始めた。
*
ガタガタと緑の車体が跳ねる。
一応舗装された道路のはずだったが、アスファルトのいたるところが陥没し、平面を失っていた。
「TUで来た方が良かったのでは?」
向かい風に煽られ、暴れる髪の毛を押さえながら少女は言った。
「わざわざ標的にされるのか?」
ハンドルを握るライオットが答えた。
シートのしたから衝撃が来た。
その先方に、巨大な影が映る。
ツィーダ。
全高20メートルの鋼の巨人。
手に持った大型機銃が前方を狙う。
頭に付いたカメラが上下し、目標を捕らえた。
その先には……。
「クンピ゛ラ2機、マッジが1機……」
少女の瞳が、遥か前方で身構える3機のTUを補足する。
車を降りたライオットは、懐からオペラグラスを取り出すと、三機の機体へ向けてピントを合わせる。
同時に少女も端末を開き、画面のサイドに取り付けられたカメラを戦場へと向けた。
「ケダブールじゃないな。テロリストか……」
「世間ではレジスタンスという事になっていますが」
「こんな辺境で暴れてるんだ。ただのチンピラだよ」 クンビラの一機が一歩を踏み出した。
手に握られているのは、巨大な鉈上の武器。
ツィーダが腰をかがめ、銃口を固定する。
ダダダダダダダダ!
銃口から放たれた衝撃が、空気を切り裂く。
クンビラは鉈を振り回しながら一気に近づいた。
弾丸は弾かれ、すでに半壊した建物の上へと降り注いでいく。
「避難勧告とか、出てますよね?」
「さぁな」
ライオットは苦笑した。
テロリストのクンビラは少なからずの損傷を負っていたが、それでも動きが止まることは無く、機銃を構えたまま立ち尽くすツィーダの前面に立った。
クンビラの顔に貼り付けられたレンズが、太陽の光を浴びて煌く。
振り下ろされた鉈が、ツィーダの左腕を切り裂いた。
「やるじゃん」
ライオットはのんきに口笛を鳴らした。
「あえてマッジを前面に配置しなかったことで、ツィーダのパイロットは油断してましたね」
キーボードを素早く叩きながら少女が言う。
「解ってきたじゃないか」
「ですが、あのクンビラも前に出すぎです」
そういった直後、後方から到着した新たなツィーダの銃撃を浴びる。
必死で鉈を振り回すものの、先ほどより近くの距離から放たれた弾丸の全てを避けきることは出来なかった。
腰の部分から鈍い爆発音が響き、黒い煙を立ち上らせる。
その間に、また一機TUが沈んだ。
先ほど片腕を落とされたツィーダだ。
マッジとクンビラ、2機の攻撃には成す術が無かった。
形成は再び逆転する。
ツィーダは迫りくる2機のTUを見つめながら、一歩、二歩と後退した。
瓦礫が、後ずさりする踵に引っかかった。
ツィーダが片腕を上げ、ゆっくりと倒れ掛かる。
それはまるで、人間が悲鳴を上げるように……。
キーを叩く少女の指が、一瞬だけ、鈍った。
実戦を見ることは初めてではない。
だが、何度見たところで慣れるわけでもない。
仰向けに倒れたツィーダを見下ろすガラス張りの頭。
ガラスの奥で、レンズがゆっくりと動く。
振り上げられる鉈。
そして……次の瞬間。
鉈を振り上げたクンビラの巨体が、ゆっくりと真横に倒れた。
ズンと響く地鳴りが体を震わせる。
「出てきたな」
ライオットはそう言ってオペラグラスを降ろすと、不敵な笑みを見せた。
遥か前方に見える、もう一体の巨人。
ナックルガードのつけられた拳を突き出した、緑色のTU。
「……アルフォン……?」
少女が呟く。
各部の形状が記憶する資料と違うが、真上に伸びた肩アーマーと細身の四肢を持つ独特の体型はほぼ一致する。
だが、思考が完全に理解を示すまで、ほんのわずかだがタイムラグが生じた。
「……まさか、最初期に数機開発されて、その後の研究は凍結された筈では……」
「今回のターゲットだ。よく見てろ」
くいと顎で前方を示すと、ライオットは真剣な表情で再び始まった戦闘を見据えた。
少女もそれに習い、再び端末に指を走らせる。
「まさかこんな骨董品が出てくるとは……」
「どうかな」
「マッジの方があらゆる点での性能が上です。重い装甲のために機動性だけは劣りますが……」
アルフォンが先に動いた。
大きく足を踏み出し、地面をける。
対するマッジはそのまま迎え撃つべく、右手に持った巨大な鎚を上段に構えた。
アルフォンの両手に、武器は無い。
いや、両肩にグリップらしきものが見えている。
アルフォンの両手が、肩から二丁の機関銃を掴んだ。
前進しながら銃口を向ける。
しかし、肩に仕込まれていた銃の大きさは、ツィーダのもっていたそれの半分の大きさしかない。
まして相手はクンビラの倍以上に厚く張り合わされた、強固な装甲を持つ。
一発だけ放たれた弾丸は、わずかに銃跡を残したのみで、地上へと散っていく。
だが、少女は些細なけん制射撃などに興味はなかった。
瞳が捉えようとするもの。それはアルフォンの前進するスピードである。
地面を蹴った脚は瞬く間に前えと飛び出し、逆の脚が地面を蹴る。
前項の姿勢をとりながら、アルフォンは瞬間の内にマッジの懐に飛び込んだ。
だがそれは、マッジの持つ鋸の有効範囲に入ったことも意味する。
マッジのパイロットも当然それを見逃していないのだが、次の瞬間に移ったものは、鎚の先が地面にめり込んだところだった。
アルフォンは瞬時に横に飛んで避けたのだ。
腰をかがめて地面に両足をつけたアルフォンは、そのままマッジへ向けて膝を伸ばした。
体ごとぶつかるアルフォン。さらに膝で追い討ちをかける。
加速した運動エネルギーが、マッジのボディを激しく揺さぶる。
膝の先に取り付けられた鉄球が、マッジの装甲を窪ませた。
だが、マッジの重量を覆すほどの威力は与えられていない。
マッジは急速にボディを反転させる。
が、そのタイミングでは既に遅れていた。
アルフォンの両腕に握られた機銃の先が、マッジの両肘にぴったりと密着していた。
鈍い銃声と共に、力を失いだらしなく垂れ下がるマッジの両腕。
既に武器を使う事は出来ない。
機銃のグリップで頭部を叩き割り、アルフォンはすっと姿勢を正した。
「見たか?」
ライオットはサングラスをかけなおすと、呆然としたままの少女を見てふっと微笑んだ。
「アルフォンの足を踏み出す速度……信じられません。最新のバランサーを搭載したところで、せいぜい早歩きが関の山ですよ」
少女は端末のデータを確認しながら、もう一度信じられないといった顔を見せた。
「早く走りながら転ばないようにバランスを取ることを考えるか、お前?」
ライオットはいいながら、わざと大きく脚を伸ばして車へと向かった。
「……バランサーへの命令伝達をカットして、直接次の脚の挙動を入力すればなんとか……」
少女が助手席に腰を掛けると、車は再び荒れた道路を走り出す。
「だが、それだけでは上半身が置いていかれて仰向けにぶっ倒れるんじゃないか?」
弾むタイヤが車体を大きく揺さぶった。
「バランサーを上半身の制御に集中させる……いや、それでは結局反応速度の誤差が出て…………そもそも、走行のみを操作したところで今度はパイロットの反応速度が……」
少女の声がだんだんとか細くなり、やがて一人だけの思考に突入する。
それが目的地へと通じるトンネルに入ったのは、殆ど同じだった。
*
「ようこそいらっしゃいました。ライオット・ライアン様」
髪の無い頭を深々と下げたのは、この軍施設の最高責任者であるトゥー・ノウ大尉。
「少尉で結構ですよ、大尉。一応はこの施設の視察という事になっているんでね」
ソファーに腰を下ろしたライオットはサングラスを胸のポケットに放り込み言った。
「はぁ……視察……」
トゥー大尉の元に事前にこのような連絡が来ていたという事は、勿論無い。
「ちなみに、これ命令書です。形だけですけど」
すっと差し出す少女の姿に、またしてトゥーの思考が鈍る。
「あの、このお嬢さんは……」
「僕の秘書ですが、何か?」
「メリル・メイルです」
メリルはわざわざ立ち上がり、深くお辞儀をした。
「これがなかなか優秀でしてね」
「は、はぁ……」
「それで、今回お邪魔させていただいてのは地下にある施設を視察するようにとのことなのですが」
少女は命令書を見ながら言った。
その瞬間。トゥーの顔色が変わる。
「地下施設……なんのことでしょう?」
「隠すことではないでしょう? ここの政府と共同で行おうとしている例のプロジェクト。議会が知らないとでも?」
ライオットはそういうとその鋭い視線を突き立てた。
トゥーの額がみるみる青ざめていく。
「……最も、こちらの政府の返答が少し遅れているようですので、すぐの視察は無理そうですが」
もう一枚書類の控えを出してメリルは言う。
「まぁ、極端に報告を急ぐわけでもないのでね。少しの間、こちらに留まらせて頂いても……」
「はぁっ! それは勿論……」
何度も湧き出す汗が、トゥーのハンカチにみるみる染みこんでいく。
「ところで、先ほどの戦闘を拝見させていただいたのですが……随分と腕の良いパイロットがいるようですね」
「は、はは……お褒めに預かり……で、のパイロットというのは……?」
「あのアルフォンに乗っていた方です」
メリルは相変わらずの淡々とした口調で言った。そして小さく
「もしかして、部下の実績を把握していないとか?」
と付け加える。
「ま、そのパイロットには個人的な興味なので、今は……」
そういうとライオットは立ち上がった。
「少し、休ませてもらいますよ大尉」
メリルも立ち上がり会釈して後に続く。
残されたトゥーは、崩れるようにソファーに腰を下ろすと、荒い息をあげながら呟いた。
「はぁ……なんだって、ライアン財団の御曹司がこんなところに……」
小奇麗な内装の通路を抜けると、物々しい警備網の敷かれた、広いスペースへと出る。
そこに並ぶのは数々の人型歩行兵器……通称TU。
それらが解体され、組みなおされ、また新しい息吹を得る。
男たちの喧騒が広大な敷地内にこだましていた。
先ほど半壊したものと思しきツィーダも、大型のトレーラーに乗って運ばれてきている。
男たちの喧騒と稼動し続ける機械の音。
そして鼻に付く油の匂いに、今まで黙っていた少女も顔をあげ、思わず眉をしかめる。
対してライオットの方は、解体され、組み上げられる機械たちを見つけては視線を釘付けにしていた。
サングラスの奥は、きっと宝物を見つけた子供のように瞳が輝いているのだろう。。
「こんな辺境にしては随分大きな工場ですね」
「ヴィンデの実験場でもあるからな。それでさ」
ライオットの目に、まだフレームのみのTUが映る。
「大型フレームだな……X3……いや違うな……新型か……?」
思わず立ち止まるライオット。そのコートの袖を、くいくいとメリルが引っ張る。
「ライオット様。例のアルフォンです」
トレーラーで運ばれてきたアルフォンは、そのまま自分から手を突いて上体を持ち上げると、そのまま膝を上げてゆっくりと立ち上がった。
「はい、どいてどいて〜」
スピーカー越しに大きな声を発しながら、アルフォンは歩いてハンガーへと向かう。
「手間のかからない機体ですね……」
メリルが呟いた。
ハンガーにセットされたアルフォンを足元から見上げ、ライオットとメリルは改めてその姿に見入った。
腹が開き、中からパイロットが顔を出す。
昇降用のワイヤーを伝って降りてきたパイロットの顔を見て、メリルは呟いた。
「女の人……?」
髪は短いが、その華奢な体つきは間違いようが無い。
格好そのものは軍から支給されている男物のタンクトップをそのまま着ていてるようだが、それは返って女性らしい体つきを強調していた。
その視線に気が付いたのか、アルフォンの女パイロットはメリルの顔へと視線を近づけた。
「どうしたの、お嬢ちゃん? こんなところに入ってきちゃ駄目よ?」
「…………」
メリルが視線だけで答える。
子ども扱いされたことが不満なのだろう。
「お前さんが、こいつを動かしていたのか?」
「何、あんた?」
女は夏だというのにロングコートを着た怪しい外見の男を訝しげな表情で見つめた。
「君に興味があってね」
「なにそれ。ナンパ?」
女は思わず眉をひそめる。
「それにしても、いい機体だな」
ライオットはアルフォンを見上げると、まだ埃にまみれた走行板に触れた。
「ナンパのくせに、なんでそっちを褒めるのよ」
「誰もナンパとは言っていませんが……」
メリルが呟く。
「けど、悪い気はしないわね。この子を褒めてくれる人もあんまりいないから」
「特に間接周りのチューンが良くされているようだが」
「見ただけでよく解るわね」
「さっきの戦闘を見ていたからな。いくら反応速度が速くても、機体が追いついてこなければ意味は無い。機構に無理が無い証拠だ」
「へぇ……本当によく解るわね。あんたメカマニアでしょ?」
「外れてはいません:けどね……」
「俺はライオット。どうだい、もう少し別の場所で話をしないか?」
そう言ってライオットはサングラスを外すと、そっと微笑みを浮かべた。
その瞳の輝きに、女パイロットは思わず顔を赤らめる……筈だったのだが……。
「残念だけど、あたしマニアとかに興味ないの。それじゃね〜」
そう言って、女は手を振りながら去っていった。
ライオットは外したサングラスを持て余しながら、次の言葉を発することが出来ないでいた。
「……フラれちゃいましたね」
上目遣いにメリルに言った。
ライオットは黙ってサングラスをかけ直す。
「あいつを口説くのは至難の技だぜ」
突然、上から聞こえた声に驚き、二人は視線を向けた。
アルフォンの肩の上に人がいる。
ボロボロのツナギを着た白髪の男だった。
男はハンガーの昇降台から降りてくる。
汗にまみれた顔を油まみれのタオルで拭いながら、今度は足首のハッチに手をかける。
「もしかしてあんた、こいつの整備士か?」
「まぁな」
装甲の向こうから巨大なシリンダーが除く。
男はベルトに括られた工具入れからハンマーを取り出すと、カンカンと三回ほど叩く。
「少し歪んじまってるな」
舌打ちをしながら、ギアの方に手を伸ばす。
゛「一人でやってるんですか?」
メリルが訪ねた。
「今時こいつを弄ってるのなんて、俺とあいつしかいねーよ」
「あいつっていうのは……」
「さっき、そっちの兄ちゃんをフッた女だよ」
「別にフラれたわけじゃねぇぞ」
ムッとした顔でライオットが呟く。しかし、そう言いながらも視線は男の手を見つめていた。
真っ黒に汚れた軍手。それに疲れた工具。そして扱う手さばき。
熟練した巧みの技が伺える。
「反対の脚も見てやってくれないか?」
「言われなくても見るよ」
「最後に膝蹴りをかました時にかなりの負荷がかかってた筈だ」
「ミナセの奴、そんな事やりやがったのか……」
男は舌打ちをすると、反対の脚へと歩き出す。
「シリンダーが足りねぇぞ……ただでさえ回ってくるパーツが少ねぇってのに」
ボリボリと髪をかきながら男は言い、反対の脚の整備に向かう。
「パーツが足りないってのは、そんなに壊れるのか、こいつ?」
「ミナセの操縦が乱暴だったのもあるけどな。最近じゃパーツが回ってこない事の方が大きいんだよ。本社の野郎どもは新型新型で頭が一杯らしいからな」
「あっちのアレか?」
ライオットの視線が大型フレームへと向かう。
「あれも軍本部からの依頼らしいがな。何作ってるのかなんて、俺にも知らねぇよ」
「よほどこっちの機体に愛着があるんですね」
「ま、息子みたいなもんだからな、俺にとっては」
そう言うと、男は首にかけたタオルを取ると、アルフォンに着いた埃を拭き取った。
*
夜になり、ライオット達は食事の為に施設内の食堂へと向かった。
本当なら特別な食事が用意されていたのだが、ライオットは自分から断って部屋を出てきたのだった。
ヴィンデ社の研究スタッフが多いせいか、通常の軍施設と比べると格段に綺麗な内装をしており、さらにいえば選べるメニューも多い。
特にメリルにとってはそれが何よりも安心したようだった。
「パエリアとコーヒーゼリーを」
「俺はそうだな……このカツドンっての貰おうか」
受け取ったトレイをテーブルに乗せると同時に、メリルは小型端末も一緒に置いた。
「……お前、本当に熱心だな」
「時間がもったいないですから」
器用に片手でスパゲティをフォークに絡ませながら、左手でキーを叩いていく。
「コラ。ご飯の時はゲームなんかしちゃ駄目でしょ」
向かいの席から声がして、メリルは思わず食べるのをやめた。
そこには先ほどのアルフォンの女パイロットが座っていた。
「ゲームじゃありません。お仕事です」
「余計悪ぃよ……」
ライオットが呟く。
最も、メリルの仕事の半分は本来ライオットがやらねばならない業務なのだが。
「とにかく駄目よ。食べてからにしなさい」
メリルは仕方なく端末を閉じると、食事を再開する。
「話を聞いてくれる気になったのか?」
「ただ席が空いてただけよ」
言いながら女は自分のサバ味噌に箸を伸ばした。
「たしか、ミナセっていうんだよなお前?」
「……調べたの?」
思わず端を止め、ミナセはライオットを睨む。
「さっき整備士のじいさんが言ってたんだよ」
「オジサンめ……」
「で、話がしたいっていうのがな……」
言おうとしたところで、メリルが止めた。
「ライオット様、お電話です」
そう言って、携帯電話を差し出す。
「なんだよ、突然……こちらライオット……もしもし?」
「貴様! 今一体どこにいるっ!?」
話し相手の声が横に要る二人にもハッキリと聞こえてくる。
その声色から、電話の主が怒っていることは容易に想像できた。
「なんだい、こっちは視察で出張中ですよ。ホワイトボードに書いといたでしょ?」
「知るかっ! 勝手に輸送機一台持ち出しおって! お陰で我が部隊の出撃だというのに、半数の出撃が遅れているんだぞ!」
「良かったじゃない。半分は温存できるんだから」
「ふざけるな! すぐに戻ってこい!」
そこまで言って、電話は切れた。
「今から戻ったって、戦闘終わってるだろ……」
「メーラー少尉のお怒りももっともですが」
メリルは電話を受け取り、ふぅとため息をつく。
「……メーラー少尉って? どっかで聞いたことある気がするんだけど……」
「知りませんか? 七幹部の一人で現在テロリスト殲滅用特務部隊の指揮を取っているプシール・メーラー少尉……」
メリルの言葉に、ミナセは思わず箸を止めた。
「あんた、なんで七幹部の一人と、あんなラフな電話してるのよっ!?」
「俺も一応、少尉なんだが……」
「見えませんし。形だけですし」
「ってことは、あんたもしかして偉い人?」
「見えませんが、一応」
なぜかメリルが答えた。
「それがなんでカツ丼食べてんのよ……しかもドンブリ全然似合わないし……」
「それはこの際、関係ないだろ……」
ライオットはカツの切れ端を口に放り込む。
「それになんで、真ん中から食べないのよ! 端っこから食べたら脂身で他の味が解らなくなっちゃうでしょ!?」
「俺の勝手だろっ!?」
「……結局、お話しする気あるんですか、お二人とも?」
フォークを回しながらメリルがつぶやいた。
ライオットも腰を落ち着け、一口茶をすする。
「単刀直入に言うとだ。お前さんを俺の部隊に加えたいんだ」
その言葉を聴いたミナセの動きが、また止まる。
「……え?」
「俺の指揮する第621独立部隊に入らないかと聞いている。待遇も悪くしないつもりだ。最も、危険な任務も多いがな」
「あたしに、ここを出ろって言うの?」
「昼間の戦闘で見せた操縦センス。そしてアルフォン。そのどちらも俺が探していた理想に近いものだ。正直、こんな辺境で持て余しておくには惜しい」
「ついでに言うと、ここの責任者はあなたの実績をまったく把握していないようですし。待遇に関してはこちらの方が遥かに条件が良いと思いますよ?」
メリルも言った。
ライオットもその言葉にうなずき、そして紳士な眼差しで答えを求める。
ミナセは黙ったまま黒飯を口に運ぶと、いつもよりも長く噛む。
「……悪いけど、他をあたってくれる?」
ミナセは箸を置いた。
「あたし、この町にもこの基地にも、かなり満足してるのよ。正直、他の連中も頼りないしね。あたしがいなくなったら、ここを守る人がいなくなっちゃう」
少し早口に言って、ミナセは椅子から立った。
ライオットは黙ったまま、また湯のみを手に取る。
その時だった。
突然、けたたましいサイレンの音が鼓膜を揺さぶった。
直後建物中の証明が赤く点滅する。
「東705区域より敵機接近中! 総員第一種戦闘配備!」
「敵っ!?」
「こんなタイミングでかよ………」
ライオットはのこった茶を一気に飲み干すと、慌てて立ち上がった。
「いくぞメリル!」
メリルは手に持ったスプーンとゼリーを名残惜しそうに置きながら、早々と走り出したライオットの後へ続く。
「ちょっと、どこ行くのよ!」
ミナセも半ば反射的に後へと続いた。
「メリル。通路は?」
「確認済みです。こっちです」
ライオットたちは格納庫へと向かう兵士達と反対のほうへ急いでいた。
「待ちなさいよ、そっちは……!」
ミナセも入ったことの無いエリアだ。
最近になって、一部のスタッフが頻繁に出入りをしているようだが、ミナセ達一般兵は近づくことすら許されていなかった。
地下へと続く通路を塞ぐ扉。
メリルは認証カードの読み取り口にダミーのカードを差込み、端末に繋いだ。
「開くか?」
「楽勝です」
そういうや否や、扉はあっさりと開いた。
ミナセは思わず呆気にとられたまま立ち尽くす。
「こいよ。お前が守りたい、この国の真実を見せてやる」
ライオットは言いながら扉の向こうへと消えた。
ミナセも慌てて後を追った。
捕まえて、連れ戻さなければ……。
ミナセは思った。
だが、そとは別に、胸の奥に前を走る男への興味も湧き上がってくる。
「あんた、何者なの?」
「さっき言ったろ? 隊長だよ」
最後の扉が開くと、そこは開けた空間があった。
眼下に広がるスペースには、円筒状の物体が何本も並べられている。
「何これ……ミサイル……?」
「それも……とんでもない化け物を積んだ……」
メリルが呟いた。
まだ汲み上げられていない弾頭の断面。
そこには……。
「核の……マーク……嘘でしょ……? 核ミサイルなんて、条約違反じゃない……」
「これが稼動するならな」
ライオットは静かに言った。
「施設事態は十分に稼動できる様ですね。あとは、あそこにあるのを処理するだけのようですが……」
「とりあえず、記録は撮っておけ。最終的な報告に使う」
「あんた達……まさかこれが……?」
「秘密裏に建造された地下施設の視察。一応、目的は達成ですね」
メリルは記録したディスクをケースに仕舞いながら呟いた。
ただ呆然と立ち尽くすミナセ。
直後、遠くから爆音が聞こえ、地面が揺れた。
「ミナセ。俺たちと来い」
ライオットはミナセの前に立ち言った。
「世界中で戦いが起きている。ケダブール。レジスタンス。そして統一国家連合議会……。どこに正義があるのか、何が正義なのか……
それを俺たちで明らかにするんだ。俺たちの正義で」
「ライオット……」
「そろそろ、上のをどうにかしないと、ここも危ないですね」
「ああ。こいつらの爆発に巻き込まれるなんて御免だぜ」
ライオットとメリルはそう言って出口へと向かった。
だが、そこには……。
「は、はは……なぜ御曹司が、こんな場所に……」
「なぁに。視察が早まっただけですよ」
「き、記録を渡してください。まだ、ここを公表するわけには……」
そう言ってトゥーはメリルの持つかばんへと手を伸ばした。
メリルは思わずかばんを抱きしめ、その場にしゃがみ込む。
……直後。
バキッという鈍い音がした。
床に倒れるトゥー。
その前に立つミナセは、両肩を震わせ、拳を強く強く握り締めていた。
「急ぐぞ」
ライオットはミナセの肩を叩いた。
ドッグに着くなり、ライオットは声を上げる。
「積荷はどこだ!」
「あっちです!」
ミナセもアルフォンの元へ駆ける。
「遅かったな」
「行けるのね?」
「あのあんちゃんが、パーツを回してくれてな」
「あいつが……?」
「言ってたぜ。こいつは愛されてるメカだってよ」
ミナセはその言葉にゆっくりと頷いた。
ベルトのロックをかけ、レバーをしっかりと握り締める。
「いくわよアルフォン!」
*
ドックを出ると、そこは既に戦場となっていた。
既に友軍の機体がいくつも横たわっている。
前方に立つ三機のTU。
それぞれバラバラの機体だ。
「ツィタデルにツィル……? 連合機……?」
状況を確認する間も無く、ツィタデルが一歩を踏み出す。
本来は拠点防衛用に開発され、マッジ同様、非常に厚い装甲を持った機体だ。
右手に持った鉈も、先ほどの戦闘でクンビラが使っていた物よりも更に大きく、先端には鋭く光る刃が幾重にも敷き詰められている。
一撃を食らえば、並みの機体なら一瞬で粉砕されてしまうだろう。
迂闊に近づくことは出来ない。だが、その重量から機動性は著しく低い。
ミナセは瞬時に二機のツィルの動き確認した。
ツィルはもともと宇宙用に開発されたものだが、地上でも稼動自体は問題ないだろう。
腕に持った武器が飛び道具なら、離れていても不利。
アルフォンは走り出した。
狙いはツィル。
ツィタデルの動きを警戒しながら、まずは飛び道具を無力化する。
幸い、二機のツィルとツィタデルの間には距離があった。
ツィタデルに装備された飛び道具はあくまで対空兵器。動き回っていれば当たる確立は限りなく低い。
ツィルの一体が、腕の機銃を向ける。
が、その動きをとった時点で、アルフォンとの位置は大分狭まっていた。
アルフォンの機銃が火を噴いた。
弾丸がツィルの銃身にあたり、狙いを鈍らせる。
「てゃあぁぁっ!」
アルフォンのつま先が高々と無い上がり、ツィルの腕の銃を圧し折った。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
ツィルの動きが止まる。
パイロットが熟練していない。
やれる!
アルフォンの拳にガードがかぶさる。
狙いは……頭? バランサー?
敵の動きを見極めて拳を放つ……直前にもう一機のツィルが砲撃を仕掛けてきた。
アルフォンは一歩後ろへ引き、何とかそれをかわした。
機銃から弾丸をばら撒き、ツィルとの距離を取る。
「こっちは大分やりそうね……」
アルフォンは右手の機関銃を肩に戻すと、今度はサイド側に取り付けた小銃……もっとも、それもTU用で実際は巨大なのだが……を構えた。
バレルが短い分、命中率は下がる。
だが……。
アルフォンは走る速度を上げ、援護を仕掛けてきた方のツィルへと向かった。
まっすぐ走れば狙い撃ちにあう。
左右に振れながら、少しずつ距離をつめてゆく。
ある程度距離を近づけたところで、アルフォンは銃を構えた。
同時にツィルの銃口も狙いを定める。
ツィルの動きは悪くない。
だが、銃身のぶれを修正している、そのほんの一瞬の隙を付いて、ミナセは動いた。
機体をへ跳躍させ、一気に間を詰める。アルフォンは、ツィルの真横を捉えると、銃口を肩の関節に突き立てた。
ゼロ距離射撃ならば、バレルの長さは関係が無い。
短い分だけ小回りが聞く利点がある。
更に、この小銃に装填された弾丸には、装甲を突き破れる程の硬度を持たせてあった。
ツィルの肩に食い込んだ弾丸は、一撃でその自由を奪った。
ツィルが一歩下がる。
アルフォンが追い討ちをかけようとしたその時、モニターの端にアラートが表示された。
ツィタデルだ。
巨大な鉈が天へと伸びる。
アルフォンはとっさにツィルの体を掴んで、ツィタデルへ向かって投げつけた。
ツィタデルが友軍を受け止める間に、アルフォンは距離を離す。
が……。
強い衝撃が走り、アルフォンはバランスを崩した。
なんとか踏みとどまったものの、左肩の装甲に被弾した。
ツィタデルの肩につけられた対空砲から硝煙が昇る。
「嘘でしょ……あんなので当てるなんて……」
そう思ったのもつかの間、モニターには迫ってくるツィタデルの姿が映し出されていた。
残った右手の拳銃の先を、ツィタデルに向ける。
バランサーを狙えば……。
殆どのTUは腰にジャイロセンサーを備えている。
機体のバランスを計算し垂直に保つための、いわば第二の脳だ。
そこさえ破壊してしまえば自立する事が不可能となり、事実上TUは戦闘能力を失う。
いくら重装甲のツィタデルといえ、ゼロ距離射撃で狙い撃ちすれば、機能を止めることも可能だ。
だが、そこまで近づくにはリーチが足りない。
相手の武器も近接用とはいえ、ショートバレルの拳銃を突き立てる前に一撃を貰うことは必至だ。
だが、その後なら……。
機体が崩れ落ちる前に一撃を食らわせれば、それでいい。
ミナセは息を呑んだ。
手のひらが汗でにじむ。
アルフォンは最後の一撃を待ち構えるかの様に不動だった。
ツィタデルがアルフォンの前に立ち、鉈を振り上げる。
同時にアルフォンもツィタデルの腰部へと銃口を這わせる。
だが、一度密着した銃口が、一瞬の内に離れた。
避けられた……?
いや、それならば敵の一撃が来ている筈だ。
「相打ち覚悟とは、いい度胸だ。恐れ入ったぜ」
ライオットの声だ。
アルフォンとツィタデルの間に、赤いTUが立っていた。
落ちてくる鉈を、赤いTUの持った銃剣が受け止めている。
白い胸に光る青い窓に、幾重にも光が走る。
直後、ツィタデルの鉈は弾き飛ばされ、遠い地面へと沈んだ。
ツィタデルは後ろに下がる。
その間に、片腕を失ったツィルが割って入った。
が、赤いTUの振り下ろした刃が容赦なくツィルの残った腕を切り落とす。
そして、振り上げた脚がツィルの胴を捉え、そのまま地面へと突き飛ばした。
「ふはははははっ!」
遠ざかっていくツィタデルから、拡声器越しに笑い声が聞こえた。
「なかなか楽しかったぞ、アルフォンのパイロット!」
その声を追って、両腕を失ったツィルと、やっと立ち上がったもう一機が背中を向ける。
「逃がさないわよ!」
走り出そうとするアルフォンの前に、赤いTUが立った。
「もう十分だ」
「だけど……」
反論しようとしたミナセだったが、ツィタデルたちはすぐさま回収部隊と合流し戦場から遠ざかってしまっていた。
赤いTUの背中が開き、中からライオットが顔を出す。
「さっきの答えだが、気が変わらないか?」
アルフォンもコクピットを開いた。
ハッチの上に立ったミナセは、髪をかきあげながら、視線を合わせずに言った。
「あたし、さっき上官殴っちゃったのよね……」
「帰りにくいな、そりゃ」
「あんたの事も殴っちゃうかも」
「それくらいじゃないと、俺の部下にはなれねぇよ」
そう言ってライオットは笑った。
ミナセも口元を綻ばせた。
*
「本当に、おじさんは来ないの?」
「まぁ、しばらくはな。本当の家族の世話もしなきゃならん」
「そう……残念ね」
二人は運び出されるアルフォンを見て少しの間、言葉を溜めた。
「ま、どうしても直らなかったら持ってくるから。その時は、元気でいてよ?」
「バカヤロウ、そこまで老いちゃいねぇよ」
「あの、そろそろ出発したいんですけど?」
いつのまにいたのか、メリルが二人の間に立って言った。
「じゃあな、ミナセ」
「ありがとう、おじさん。それじゃ、行くわね」
ミナセは笑顔でその場を去った。
メリルもぺこりとお辞儀をしてから後を追った。
「頼むぜ、ミナセ……アルフォンは俺と、お前の親父さんの誇りだ。いつか必ず……」
空港に到着すると、例の赤い機体が大型輸送機「オキュペテー」の格納庫へと積みこまれているところだった。
ミナセの乗るトレーラーも続いて格納庫へと運ばれる。
ミナセとメリルが降りると、すぐさまスタッフがアルフォンの積み替えにかかる。
その作業が行われている格納庫を見回して、ミナセは思わず動きを止めた。
ハンガーに聳える三体のTU……それは……。
「な、なによこれっ!? こいつら……」
そこにあったのは、ツィタデル-とツィル二体……そのうち片方は両腕が無い……であった。
「これって昨日戦った奴らじゃないっ!? なんで!?」
驚くミナセの後ろで、ライオットがメリルの元へと近づく。
「おう、ご苦労。整備マニュアルはちゃんと貰ってきたか?」
「はい、ライオット様。なかなか興味深いデータも取れましたよ」
「それは結構」
ミナセは振り返り、鬼のような形相でライオットに詰め寄った。
「なんなのよ、なんなのよこれっ!?」
そう叫ぶミナセの体が、ふわりと持ち上がる。
「はっはっはっ。まさか昨日のパイロットがこんなお嬢さんだったとはな」
大柄の男が、ミナセを軽々と抱き上げて笑っている。
「よかったら、ワシの嫁にならんか?」
男は満面の笑みで言った。
それを見たメリルが呟く。
「奥さんに言いつけますよ、ムッグ中将?」
その声は、いつもより少しだけ低かった。
「気をつけたほうがいいぜ中将。こいつ夕べデザート食えなかったこと根に持ってるからな」
ライオットが言うと、メリルはぷいと背を向けた。
「はっはっはっ。嬢ちゃんには適わんな」
ミナセを床に下ろしながら、ムッグ・アークはまた大声で笑った。
その時、メリルの端末からアラームが鳴った。
「だんな様からですよ」
端末を開いたメリルは呟くと、画面をライオットへと向けた。
一瞬面倒そうに顔をしかめながら、ライオットは返信のキーを叩く。
『ご苦労だったな、ライオット』
「よう親父。議会はどうなった?」
『議会の承認は得られたよ。奴ら、あの画像を見せたら何もいえなくなったよ。トゥー・ノウ大尉は慎重に事を進めたかったようだが、十分安全性は確保されていた完成された設備だったからな』
「ということは、条約改正で原子力発電が再開される事は確定的だな」
『その通り。また忙しくなるぞ』
「また大もうけだな……」
「しかし、ここの人もよく考えましたよね。死蔵されていた核ミサイルを原発の燃料にしようなんて」
「使えるものはとことん使う姿勢が大切だって奴だな。どっかの偉い人も言ってんたっけな」
「デスカー少佐は偉い人なんですか……?」
二人のやり取りを聞きながら、ミナセは両肩を震わせた。
「あんた達、あたしを騙してたの……?」
「別に、何も騙すような真似はしてないよな?」
「嘘を言った覚えは無いですね」
二人は顔を見合わせていった。
その視線の間にミナセの拳が走る。
とっさに避けたライオットが声を上げた。
「お前、いきなりなんだよっ!?」
「うっさい! ぶん殴る!」
「お前、俺は上官だぞっ!?」
「上官ぶんなぐってもいいって自分で言ったんでしょっ!?」
ミナセは瞳を吊り上げてライオットに手を伸ばした。
その余りの形相に、ライオットは慌てて駆け出す。
「また賑やかなのが増えたな」
「変な人が増えましたね」
駆け回る二人を見て、ムッグは笑い、メリルは溜息を零した。
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