August 1st,1998 at Roots Rock Festival,Nidrum,Belgium


*ライヴ・レポート*


会場はビニールを貼った簡単な塀で囲まれた空き地で、日比谷野外音楽堂の椅子をはずして、傾斜をゆるやかにしたような広さです。塀ぎわにテントが張られ、ビールと食べ物の屋台がいくつか、それにアクセサリー屋と中古CDの屋台が2〜3軒と、かなりこじんまりとしたフェスでした。

参加しているのも地元の人と、車やバイクで来て近くのキャンプ場に泊まっている人たち。年齢層は幅広くて、3〜4歳の子供からおじいさん、おばあさんまで、みんながそれぞれに夏の休日を楽しもうと集まってきている感じでした。

土曜日の開場は7時でしたが、当然のように遅れ、最初のバンドである地元ベルギーの GRASSCUTTERS が始まったのが8時くらいでしょうか。しかし、この時点ですでに雨がかなり激しく振っていたので、お客さんたちはほとんど後方のテントに避難してしまい、ヴォーカルが「ARE YOU READY TO ROCK!?」と叫んでいるのに、目の前には無人の草っぱらという悲しい状況で、気の毒になった私は思わずステージ前に行ってあげてしまいました。まあ、GREAT WHITEのために最前を確保しておきたいという下心もあったのですが。20人くらい若い 女性を中心にしたコアなファンがいて、彼女たちも前に出てきて黄色い声援を送りはじめました。

このバンド、ヴォーカルがマイケル・トランプをほっそりと若くしたような長髪ブロンドで見た目はなかなかでした。ただ、ギターが SEPLUTURA のTシャツを着て黒のレスポールを持ってたにも関わらず、曲はあくまでもポップという、「自分たちのやりたい音楽がまだよくわかってないのかなあ」という感じでした。

最初のバンドだから30分くらいかな、と思っていたのが予想がはずれ、1時間近くやって、さらにはアンコールまでやっていました。ただ、バンド自身も予想していなかったらしく、曲が用意してなかったので、本編でやったのと同じ曲をもう一度やったのが御愛敬。

次の VENGEANCE が登場したのは9時半くらい。さすがにキャリアの長いバンドだけあって、前のほうに熱心なファンが詰め掛けていました。私の隣にいたお兄ちゃんなんて、終始柵から身を乗り出し、叫び、歌い、狂乱状態。まあ、再結成した彼らのライブを見るのはひさしぶりなんでしょうから気持ちはわかりますが、ちょっとうるさかったです。

BACK FROM FLIGHT 19」のSEが流れ、ステージに走り出してきたのは飛行服にガスマスクをつけたヴォーカルのレオン(^^;)。ちょっと笑いました。私は「BACK FROM FLIGHT 19」しか聴いたことがないのですが、セットリストはこのアルバムを中心に組み立てられていたので、わかりやすかったです。

アルバムと違ってギターがひとりだけ(短髪)だったのでびっくり。ベースとキーボードはいかにもメタルという感じの長髪でしたが、ギターとドラムは短髪に普通の服装で、言われなければメタルバンドのメンバーだとは絶対に思わないようなタイプでした。

とにかくレオンがけっこう芝居がかっていて、マイクをぶんぶん振り回したり、ステージをめまぐるしく動き回ったりして客を煽っていました。客席からもレオン!レオン!という声が。最初のころ、けっこう上滑りしているような感じがして違和感があったんですが、途中からだんだんとはまってきました。声もしっかり出てましたし。でも、パラシュートクロスで作ったような巨大なサルタン帽とアラビア風の先の曲った靴(スポンジを詰め込んで50センチ四方くらいの大きさがある!)をはいて出てきたときには、「一体なに考えてるんだ(^^;)」と思ってしまいましたが。

でも、曲がいいというのは強いですね。アルバムで聴いたときよりもっとヘヴィーで、ギターの音もリズム隊も低音でぶんぶん迫る勢いがすごくかっこよかったです。客のノリも「メタル一筋〜!!!」って感じだったし。いちばん盛り上がったのは、私は知らなかった"SHE'S A WOMAN"とかいう曲をやったときでしょうか。これはなかなかロックンロールしてて、気に入りました。

最後のほうではレオンは飛行服を脱ぎ、自分たちのTシャツ(胸にDO YOU HATE HARD ROCK?と書いてある)とあちこち切ったジーンズ姿に。アンコールは2曲で、"ROCK N ROLL SHOWER"(?)と"CRAZY HORSES"、気持ちのいい終わり方でした。最初のうち少しとまどったものの、最後には体が自然に動いてしまういいライブでした。大雨でポンチョのフーードかぶってなかったら、もっと思い切り首が振れたんだけど。野外で、ろくなサウンドチェックもできなくてこれだけ出来るんだから、かなり実力のあるバンドなんだなあと感心しました。

さて、いよいよお待ちかねの GREAT WHITE です。さすがにこの時点になると後ろのほうにいた人たちも前に出てきて、雨をものともせずに騒いでいます。とはいえ、ぎゅうぎゅう前に押したりするようなことはなくて、最前にいた私も隣りや後ろの人との間には体がふれ合わないくらいの空間が常にありました。おかげで非常に見やすかったです。ステージ上のバンドからしても、前にほうに固まっちゃってうしろのほうがスカスカなんていうのより、まんべんなく人がいたほうが気持ちいいんじゃないかと思いました。

11時半くらいにメンバー登場。ジャック・ラッセルは黒と白のちょっと光りもの系の花柄長袖シャツにブルージーンズ、例によって黒白のバンダナをかぶっています。昨年のUSツアーではいつ見てもふだん着みたいなかっこうでステージに出てた彼としては、けっこうお洒落してたほうだと思う。

マークはブルーの長袖シャツに黒のジーンズ、マイケルは黒の長袖シャツに黒のジーンズ、ショーンは半袖Tシャツに黒のジーンズ、オーディは黒のタンクトップにスパッツでした。

選曲はひさしぶりのヨーロッパということを意識してか、ノリのいい曲を中心にしていた感じがしました。スローなバラードがまったくなかったのがアメリカでのショウとの大きな違いかな。というより、小さなクラブのショウと野外フェスとの違いなのかもしれません。沖縄で7月5日にやったライブでも、同様のセットでしたから。

客の盛り上がりは最初から凄いものがあって、私の隣りで見ていたオランダ人の青年は、なにしろ7年間も彼らのライブに焦がれ続け、ようやく夢が実現したとあって、もう夢中でした。途中何度も「すごい!」「信じられない!」と感動の声を上げていたのが微笑ましかったです。

意外だったのは"ALL OVER NOW"をやったことかな。これ、高音部がかなりきついので、最近のライブではほとんどやっていなかったんですよね。ライブアルバムに入ってるヴァージョンでは高音部をフェイクしてたのがショックでしたが、この夜はおおむねオリジナル通りにちゃんと歌っていました。

新曲を3曲もやったのもけっこう驚き。ソニーというメジャーレーベルと契約が出来、今度のアルバムに賭けるものがいかに大きいかということを感じさせました。どの曲も、ミドルテンポでジャックの中音域を使った大人の雰囲気の曲で、メロディがキャッチーで覚えやすいのが魅力です。これでますます新譜に寄せる期待が高まりました。

すでに周囲は真っ暗になり、雨は相変わらず激しく降り続けてはいるもの、もはや誰もそんなこと気にする人はなく、色とりどりのライトに照らされる幻想的な彼らのステージに全員が魔法にかけられたように惹き込まれていました。私もとっくにフードなんてはずしてしまい、びちゃびちゃになりながら頭を振ってました。彼らのパフォーマンスって、なんというのか派手な部分はないんだけど、バンドとしてのまとまりというか、その存在そのものの強烈さでオーディエンスをがっちりつかんで離さない、という感じです。曲のひとつひとつにメンバ ーひとりひとりの魅力が重なり合い、浮かび上がってくるんですね。

6曲目はマーク・ケンドールが歌うお約束のナンバーで、すでにUSツアーでは何十回もやってきただけにこなれ具合も十分。DOORS の原曲を知っていてもいなくても、サビの掛け合いのところではみんなで大声で叫んでしまいます。マークのしゃがれてブルージーな声もこの曲にぴったりで、個人的には今まで聴いた彼の歌の中ではいちばん好き。

大盛り上がりの"ONCE BITTEN"でいったんメンバーが引っ込むと、すかさず客席から大きな「WE WANT MORE!」コールが。おかしかったのは、日本と違ってスタッフが一応機材を片づけるフリをしていたことです。でも、このほうが本物のアンコールぽくていいですよね。日本だと、完全に「また出てきますよ」っていうのが見え見えで、そのせいかアンコールの声や拍手も少な目ですものね。ひょっとしたら出てこないかもしれない、と思わせたほうが絶対にいいと思う。でもって、コールが少なかったらほんとにやめちゃうとかね。

やがて登場したメンバーに客席からは"WASTED ROCKRANGER"なんて声もあがっていました。「だめだよ〜。それやったら終わっちゃうじゃないかあ〜」と騒ぐ私。で、始まったのが"ROCK ME"だったのでちょっと不安に・・・。「まさか、これで終わりになるんじゃ・・・」。でも、とりあえずは不安を胸の奥底にしまいこみ、夜空の下で聴く"ROCK ME"にどっぷり浸ります。いやもう、これは最高でした。ホールとかクラブだと客電を落としていても真っ暗、という感じではないでしょ? 非常灯がついてたりして。でも、ネオンも何もないベルギーの田舎では、ステージの上のライトのほかには、ほんとに明かりというものがないのです。暗闇というのは人間の集中力を異様に高めるもので、今までどこで聴いたときよりも曲の持つ「夜の世界」を感じることができたのでした。

そしてまたメンバーはひっこんでしまいました。客席からは先ほどより大きな「WE WANT MORE!」コールが聞こえます。が、なかなか現れないメンバーにあきらめかえたころ、ようやくでてきてくれました。私の予想を裏切りオーディはまっすぐドラムセットに向かいます。もし、"WASTED ROCKRANGER"をやるつもりなら、前に出てくるはず。なんだろう?

「どうもありがとう。こんなに盛り上がってくれて本当にうれしいよ。それじゃ最後に"TWICE SHY"アルバムからブルージな曲をやろう」

ショーンのベースが夜空に響き、ジャックが「アイセッ! ヘ〜エイエ〜イ!」と掛け声を煽ります。待ってましたとばかりに声を張り上げる私たち。そうか、最後に思い切り声を出させるつもりなのね。

「思いきり叫んでっ!」

「うお〜〜〜っ!」「きゃあ〜〜〜っ!」

男も女も大人も子供も叫びます。きょうは野外のせいか、この曲もそれほどセクシーな感じではなくて、ヘヴィーでノリのいいナンバーになっているような気がします。最後のブレイクをビシッと決め、今度こそほんとの「さよなら」を告げ、鮫たちは満足しきったベルギーの聴衆を心地よい疲労とともに残して去りました。

時刻は1時半になっていました。泥まみれになり、棒のようになった足をひきずりながらも、幸せいっぱいの気分で夜道をホテルへと帰ったのでした。


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