SHOH's LIVE REPORTS

U2 (March 5,1998 at Tokyo Dome,Tokyo)


ノってばちゃんと天気予報をチェックしていたのかしら。「COLD NIGHT IN TOKYO! SNOW! SNOW! SNOW!」なんておまじないをかけていたけど、終わって外に出たらほんとに雪になっていた。

U2は初来日を見ていないので、今回が3度めの来日コンサート体験となる。1回目の「LOVE COME TO TOWN TOUR」で、ボノのカリスマ性にガツンときてしまったせいか、2度目の「ZOOROPA TOUR」は不満が残る内容だった。悪魔になったり車が降って来たり、確かに変化には富んでいたんだけど、どうもそれが盛りだくさんすぎて、1回のコンサートに来たオーディエンスがいきなり見せられて理解するには複雑すぎた。

今回も大掛かりなショウだと聞いていたし、前回と同じような印象しか得られなかったら、もうU2は辞めよう、なんて思ってた。

ドームに入ってまず注目したのが噂のステージセット。しかし、これが意外というか思いのほかに地味。というか、ツアーが長く続いていたせいか、ペンキの色が褪せてきたのではないかと思うくらい冴えないのだ。マクドナルドを思わせる黄色いアーチはともかくも、その中央に位置するオレンジ色の樽のようなマークも、そのバックに四角くボード状に広がる部分の縁どりのピンクも、そしてステージ右端に転がる巨大 なレモンも、その後ろのピックにささったオリーブも、すべてが色褪せて、まるでさびれた田舎のスーパーマーケットみたいなのだ。これで私たちを魅了できるようなステージが作れるのだろうか・・・。

客入れの音楽は最初の1クールがOASIS、ASHなどを筆頭としたUK POPのヒットパレード集。どの曲を聴いても「ああ、これ流行ったよねえ」と思い出すものばかり。なかなか楽しかったし、「なるほどPOPMARTだものね」とニヤニヤできた。2クール目はエスニック系というか、ファンクやR&Bを各種とりそろえた、どちらかというと黒っぽい音楽。これは、彼らのB.B.KINGとのジョイントを考えてもわかるルーツ・ミュージックだろう。いちばん起動したのはTHUNDERが先日のライブでカヴァーしていて、ライブアルバムにも収録されていたEARTH,WIND & FIREの"DANCE TO THE MUSIC"だったかな。

そして、ひときわ音が大きくなり、会場からの歓声で迎えられたのが「スパイ大作戦」のテーマ曲。ラリー達がサントラで参加して大ヒットしたあの曲だ。これがかかれば開演はもう間近と誰でもがわかる。

そして予想通り客電が落ち、一瞬の暗闇の後にステージにライトが点った。その瞬間、さっきまでみすぼらしいとさえ思っていたPOPMARTが、燦然と輝く未来映画に登場するような舞台へと変貌した。

いやもう、これほどまでに計算されつくしたものだとは思ってもみなかった。始まる前に双眼鏡で見たPA席はまるでコンピューターのビル街のようではあったけれど、きっと以前のツアーのときみたいな電気仕掛けが多いのだろうなとしか思っていなかった。

しかし、今回の仕掛けが前回と徹底的に違っていたのは、前回は人を驚かせるためのものだったのが、今回は人を楽しませるためのものだったということではないだろうか。ピンクの縁どりで囲まれていたボード部分は、そのまま巨大スクリーンと化したのだが、それはふだんのドームコンサートで見られるような、「遠くて見えないから仕方がない、スクリーンで見よう」というのをはるかに越えた、ステージとスクリーンが一体化して、ステージがまったく見えない客にも、それを少しも感じさせず、まるですぐそこで見て、一緒に楽しんでいるような錯覚を起こさせるものだった。

ステージが写ることもあれば、まったく関係のない映像が写ることもあり、さらにはキッチュなアニメだったりコンピュータグラフィックだったりと、音楽に合わせてめまぐるしく変わるのだけれど、それがちっともうるさくない。ここまでしっくりこさせるにはかなりの打ち合わせと練習が必要だったのではないだろうか。そういう意味ではツアーの最終に近くなってから日本に来てくれたのは、私たちにとってありがたいことだったのかもしれない。

なんて、どうでもいいことを長く書きすぎた。肝心の音のことを何も書いていなかった。もちろんドームという決定的なマイナス面は否定できないけれど、それでも最大限の努力をしていたと思う。あれだけ大きな音を出して、それでいてきっちりとひとつひとつの音を見せていたのはさすがだと思う。

なによりもうれしかったのは、ボノの喉の調子が絶好調だったこと。あんなに美しく伸びる彼のファルセットを聴けたのはひさしぶりだったかもしれない。きょう、なんどか涙したのだが、それはすべて彼の声のあまりの素晴らしさに感動してだった。こんなに人を打つ声で歌える人がこの世に存在することの幸せに酔ってしまったのだ。

黒のスパンデックスのパンツ(それもウエストがほとんど寸胴なの〜)に、筋肉隆々柄のTシャツという、なんかもう情けなくて涙が出そうな衣装でも(それで「アケボノ〜」とか叫ぶし)、それでも許せてしまうのは、ひとえにこの声ゆえ。でもねえ、さすがにもう彼が女性観客をステージに上げて、ぴったり抱き合って踊りんがら歌っても、そのあと、彼女の膝枕で"WITH OR WITHOUT YOU"を歌っても、以前みたいに 「うらやましい!」とは思わなかったのも事実。客席からの「キャア!」という声もほとんどしなかったなあ。

もうひとつ違和感があったのはサングラス、というか色眼鏡。バンドのついた赤だの黒だのの水泳用のゴーグルみたいなので、よくビデオクリップでもかけてますよね。確かに今の彼のキャラクターからすると2の線は無理だというのはわかるんだけど、それにしたってねえ。一緒に行った友人は「コメディアンみたい」と言っていた。私はロビン・ウイリアムズを想像していた。

さすがに"SURRENDER" とか"NEW YEAR'S DAY"といった昔の曲になるとサングラスを外して、素顔で歌ってくれるのが救いだったけど・・・。でも、やっぱり今の彼らのああした曲をあの当時の心境で歌うというのは無理があると思う。"SURRENDER" は盛り上がりきらずに、かなり抑制されたものになっていた。ただね、私はそれ(昔と同じように若者ぶって絶叫しなかったこと)は、とてもまっとうだなと評価したんだけど ね。

私にとっての今夜のハイライトは、"STARING AT THE SUN"。エッジーとふたりで花道の突端まで出てきたボノが、ギターを肩にかけ、ふたりで歌ったアコースティック・ヴァージョン。アルバムで聴いたときから、彼の声のなんとも言えない色気を感じてはいたのだけれど、今夜の彼は神がかっていた。彼の甘く切ない声がエッジのあのギターの音にのったときの快感といったら・・・そういえば、なんの曲のときだったか、花道をあとずさりするボノをエッジがギターを弾きながら追いつめていく、闘牛のような演出があったのだけれど、このふたりの関係って意外にそうなのかもしれない、なんて思ってしまった。

"STARING AT THE SUN"でうっとりしている中、ボノが手をふりながら花道を去っていった。ひとり残ったエッジが何をやるのかなあ、とぼんやり考えていたら、エッジが「しばらくやあっていなかった曲をやろう。このツアーでも初めてやる曲だよ」と語り掛け、そして力強くギターをはじいた。うわっ! "SUNDAY BLOODY SUNDAY"だ! まさかエッジがギター1本でこの曲を歌うなんて・・・会場が大きくどよめき、そして大コーラスへとつながっていった。

「これはIRISHのための曲だよ」(へえ、そうだったんだ)という紹介で始まった"PLEASE"の最後の裏声から、次第にバックの演奏が高まって、場内の大歓声で始まった"WHERE THE STREETS HAS NO NAME"で一部が終わった。

巨大スクリーンに写る巨大おっぱいの女性(ほんとの女性かどうかは謎)の踊りに気をとられているうちに、ステージ横のレモンは銀色に姿を変えていて、それがステージ中央に向かって動き出す。ひょっとしてあの中に・・・という予想通り、ステージ中央にきて、真ん中からぱっくり2つに割れて蓋のあいたレモンの中には例のビデオクリップと同じような衣装の4人がそれぞれにポーズをとって立っていた。しかし、なんだかかっちょ悪い。昔とまったく変わっていないラリーは別として、他の3人は完全にオヤジなんだもんねえ。全身白づくめのカウボーイルックのエッジときたら、田舎の温泉旅館のエンタテイナーみたいだ。

始まった曲はもちろん"DISCOTEQUE"。どのヴァアージョンか判別できなかったけど、今までに聴いたどれよりもU2らしさを漂わせたアレンジだった。というか、表面の変化に気をとられてしまって気づかないけれど、じっさいには彼らの音楽性ってまったく変わってないのかもしれない。

悪魔のボノも少しだけ登場して第2部も終わり。もうないかなと思っていたら、なんと第3部もあった。"MISTERIOUS WAYS""ONE"と、私の好きな「ACHTUNG BABY」からの曲でしめくくってくれて、満足のいくエンディングだった。2時間30分はやってくれたと思う。開演が6時半と早かったのを、「勤め人が多いのにひどいよね」なんて文句をつけてたんだけど、こういう理由もあったのね。ごめん、責めて。

今夜のオーディエンスは、ほんとうにU2が好きな人ばかり集まっていたと思う。有名な曲での大コーラスはもちろんだけど、「ACHTUNG BABY」や「ZOOROPA」からの曲や、もちろん新譜からの曲にも大きな反応を見せていて、同じ会場にいて実に心地よい一体感を感じることのできたライブだった。こういうの、ほんとにうれしいよね。

大事なことを忘れていた。アンコールの拍手をあきらめさせるように場内が明るくなり、客出し(と言うのかしら)の音楽がかかるのが通例だが、きょう、そこで聞こえてきたのは、なんと「NEVER TEAR US APART」だった。マイケルの声が聞こえてきた瞬間、それまでボノの声に酔いしれていた自分にほんの少し罪悪感を抱いた。そして次の瞬間、この曲を自分たちのコンサートのしめくくりに持ってきた彼らの気持ちに 涙が出そうになった。


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