Thunder Live in Japan (Aug 26-Sep 1,1995)
BGMがとだえ、一瞬の間ののちにあのギターリフが小さく聞こえてくると、それだけでもう観客は始まりを察してわーっと沸き返る。そう、おなじみAC/DC の「THUNDERSTRUCK」だ。イギリスでは「WE WLII ROCK YOU」 だったとKINOさ んやWINTERさんのレポで読んで、少し寂しく思っていたのだけれど、あれはやはりイギリスだからこその選曲だったのだろう。ここ日本ではこっちのほうがずっとしっくりくる。曲が中盤にさしかかると、ステージでチューニングしているギターの生音などが混じり始め、いやがおうにも高まる期待。
やがて曲が終わると、まだ暗いステージにメンバーがばらばらと登場し、最後にダニーが現われてライトアップ。ひときわ客の歓声が高まる中、ダニーがまずはマイクに向かって「OH BABY I AHHHHHHHHH」とブルージーなひと節を歌い上げる。「ヒューヒュー」という反応に、ダニーは「うるさい客だなあ」とおどけてみせて、もうひと節。またひとしきり間をとってから「OH BABY 〜I ・DON'T・WANT・YOUR・」ときて、「みんな、踊りたいかい?!」。「もちろん!」と叫び返すと「DIRTY LOVE!」と高らかに1曲目が始まった。この曲はアンコールかな、と思ってたこちらの予想は最初っから見事にはずれまくりだが、この選曲は正解だったと思う。しょっぱなから、思いっきりハッピーなサンダー・ワールドに入って行けたもの。ダニーは例の体を横に揺らす独特の踊りを見せて、気持ちよさそうに歌っている。
ダニーの声は、アルバムで聴くより少しダーティな感じで、あんな華奢な体のどこから?と思うほど深い。私が好きなヴォーカリストは、この「深い声」というのが共通していて、ただきれいとか、高音が出るとかいうのではだめ。日本人には真似できない、喉の奥に専用の洞窟でもあるんじゃないかと思うような、響きのいい深い声、これに弱いんだなあ。
「DIRTY LOVE」で思いっきり飛び跳ねてその気になったところで、間をおかずに2曲目「STAND UP」が始まる。先日のプロモではアコースティックで、元曲が一瞬わからないくらいにアレンジされたものを聴かせてくれたのだけれど、これはほぼアルバム通り。間奏で最初のフレーズをルークが弾いたあと、ベンのギターが入るところは、実際に目の前で見るとものすごくかっこよくて、「ツインギターのバンドってほんとにいいなあ!」と実感してしまう。特にTHUNDER の場合、作曲のほとんどを手掛けているのがルークなので、ステージでもルークが主導権をとってるのかと思ってしまうけど、意外にキメの部分はベンがほとんど弾いてたりする。ルークって、おおざっぱな性格らしくて(^^;)、 わりとよく間違えたりするのよね。その点ベンはいつも安定していてうまい! だから、ルークもその辺を承知していて、ああいう分担になってるのかもしれない。
ハリーのドラムでバシッと曲が終わると、ミッキーが前のほうに出てきて、足をがっと大きく開いて、安定した体勢で独特のリフを弾き出す。ダニーが彼を紹介し「HIGHER GROUND 」へ。1、2曲目でずっと跳ねっぱなしだった客も、少しここで息をつき、一緒に歌うほうに回る。「俺はこの街で一生を終えたくない」ってフレーズは、なんとなく誰もが心の中に持ってる気持ちを代弁しているようで、一緒に歌っていてじ〜んとしてしまうところだ。今回の来日パンフの中に、ルークが花を持って階段に座ってる若い頃の写真があるのだけれど、あの少年が言ったらぴったりはまりそうだなあ、なんて。
次はさらにクールダウン。ベンがピアノに向かい静かに弾き始める。「CASTLES IN THE SAND」 だ。コーラスはルークとベン。ベンはキーボードを弾き終わると立ってギターを弾き始め、マイクのところに戻ってコーラスをつけて、またキーボードに戻るという大いそがし状態。でも、慣れているせいか、ゆったりとあわてずにこなしている。途中で入るギターソロでは、ルークがステージ中央で弾いてくれるのだけれど、最初のほうは髪で顔が見えないくらい下を向いて弾いていて、最後に例によって体をそらし、ちょっと苦しげな表情を見せる。これが女心 をくすぐるったらない。
ベンの美しいピアノで曲が終わり、客が感動でし〜んとしたところで、ダニーが「HEY HEY HEY HEY」 と歌わせて盛り上げる。お、このリズムはひょっとしたら……あ、やっぱり、あのキーボードが聞こえてきて「GIMME SOME LOVIN'」 が始まる! カヴァーとはいえ、この曲に関してはもう完全に自分たちの持ち曲にしてしまってる感じだ。客のほうも心得たもので、コーラスのところも「HEY」という掛け声のところもタイミングぴったり。バンドとファンが一体になってのパフォーマンスだ。ダニーはもう、ステージの端から端まで走っては客を煽り、 のせまくっている。すでにTシャツはびっしょり、髪もぐっしょりだが、疲れはまったく見えない。
ルークが、マイクスタンドにセットしたアコースティックギターを弾き始め、私が大好きな「UNTIL MY DYING DAY」に。2枚組「BACKSTREET SYMPHONY 」でこの曲のライブ・ヴァージョンを聴いて以来、ライブで聴きたいと思い続けてきただけに、初日の名古屋でこのイントロが始まったときには、一瞬信じられなくて固まってしまった。静かな導入部から次第にドラマチックに盛り上がっていく曲構成は、まさにライブ向き、そしてTHUNDER らしい曲だと思う。ここでもベンのギターの音色の素晴らしさには泣かされてしまう。途中、曲をいったんストップし て客の歓声を煽りに煽り、さんざんじらした挙げ句につなげていく演出も、ダニーがやると全然嫌味でもわざとらしくもなくて、素直にのせられてしまう。29日にはここで、例の「きみたちはNUTTIESだよ!」が出た。
ドラム台からハリーが降りてきてギターを肩にかけ、ステージ右側に立つと、ダニーが「LADIES AND GENTLEMAN」と紹介を始める。が、一筋縄ではいかないところがこのバンドらしいところ。ダニー「彼は、かつてはハリー・ジェイムズと呼ばれてた男だが、名古屋ではデレク、大阪ではユージン、そしてきのうはジルだった」「紳士淑女のみなさん!この人物は世界でいちばん長いパスポートの持ち主です!」「で、今夜は……?」ハリー「リリアン」(大爆笑)ハリーがなんと答えるかはそのときまでわからないらしく、メンバーも一緒になって大笑いした あと、ルークのハーモニカで「A BETTER MAN」が始まる。ルークは手ぶらでマイクスタンドの前に立ち、コーラスとハーモニカに専念。背の高い彼が腕をまっすぐおろしてすっと立っている姿は、実に実に絵になる。そしてコーラス。最初の名古屋で、彼がダニーと一緒に歌っている姿を見たとき、もう少しで涙が出そうになった(;_;)。不仲説が流れたとき(そして実際に危機があったわけだけれど)、ステージでルークとダニーがほとんど顔を見ないで演奏していた時期があったと読んだことがある。そんな時代だったら、こういう構成の曲は絶対にセットリストに入らなかっただろう。だって、この曲はダニーとルークが(実際のステージでは離れているけれど)寄り添うようにして歌うことで成り立つ曲なんだもの。
そんな感慨にふける私をよそに、ステージでは最後のフレーズの前にダニーが歌をストップし、ドラム台のところまで下がっていって腰を降ろす。「リリアン、歌えよ」とうながす彼に、いったんははにかんでみせるハリーだが、客の歓声にのせられたように最後の1小節を歌いきる。見た目と違い、軽く甘い歌声。そして、当然の性(さが)というか業(ごう)というか、最後の「A BETTER MAN」のところを「A BALDED MAN(はげ男)」と歌いきってキッチリと笑いをとるあたりは、さすがの芸人。
すっかりなごんだところに、あの独特のギターリフが! きゃあ! きのうまで聴けなかったあの曲だ! そう、「SHE'S SO FINE」! 彼らのライブでこれが聴けないとやっぱり何か忘れ物をしたような気持ちになってしまう。最後のほうでダニーがアドリブで歌うのとギターとが掛け合いのようになり、ダニーが「ONE,TWO, ONE, TWO, THREE, FOUR!」と掛け声をかけてテンポが速まる展開は、実にもうライブならではのかっこよさ。興奮して手に汗にぎっちゃった。
ここでベンのギターソロ。とはいっても、いわゆるギターソロなんてTHUNDER らしくないものはやらない。その日によっていろいろな曲のフレーズをちょっとだけ聴かせて客を沸かせるとすぐに「MOTH TO THE FLAME」 のリフがはじき出される。この曲、アルバムで聴いたときは、変わったリフで印象的だけど、ライブでは浮きそうだからやらないかな、と思ってた。でも、こういう持ってき方をするとハマるんだなあ、実に。ヤツら、ライブのコツを隅から隅まで知りつくしてる感じだ。ミッキーはドラム台の前あたりで頭を振りながら黙々とベースを弾いて いるが、サビの部分に来るとマイクもないのに大声で(こっちには聞こえないけど、あれだけ大きな口を開けてるんだからってことで)一緒に歌ってる。こういうところ、好き。
ここでダニーがルークを紹介し、「君たちも一緒に歌ってね」と「LOW LIFE IN HIGH PLACES」が始まる。この曲、名古屋からこの展開で途中の「THERE IS LOW LIFE AND IT LIVES IN ME AND YOU」 のところで、マイクを客席に向けて歌わせようとするんだけど、「THERE IS LOW LIFE」 までは大声で歌えても、そのあとが続かない。英語を母国語としない我々には、韻もふんでいないし、なじみにくい語句だから仕方がないんだけど、ダニーは絶対にあきらめないんだなあ、これが(私なんてライブの前に必死で歌詞カード見て暗記しちゃった。結局、最終日にはダニーも一緒に歌ってなんとかかっこがついてたけど)
最後のキメの部分で再び聴衆参加ヴァージョンに。「SUCH A LONELY」 のところの「LONELY」のところを、「甘く甘く歌ってね。間違ってもドスの利いた声じゃだめだよ」ってなことを言って歌わせ、みんながその通りに歌うと「(すごくよくて)涙が出そうだよ」。 次にものすごくブルージーに見事に歌ってみせてから「さあ!」とうながす。みんなが「そんなのできないよぉ」って感じに笑ってると、「なんでやらないの? こんなの誰でも歌えるよ」なんて自慢気に言うダニーが可愛い。彼ってけっこうナルちゃんだよなあ、って思っちゃった。で も、それだけの才能があるんだから、笑って許しちゃうけど。
最後をばっちり決めてみんなを気持ちよくしたところで、お待ちかね「RIVER OF PAIN」だ! この曲、アルバムで聴いているときは、テンポはいいけれどわりとバラード寄りの曲だと思ってた。歌詞の内容も失恋の話だし。でも、めちゃくちゃふざけた(といっても作りはシリアスなんだけど)ビデオクリップを見て以来、「ひょっとしたら」という予感はあったのよねえ。で、今回のライブではっきりわかってしまった。この曲は、みんなで大騒ぎして踊るための曲だったんだ。実際、起承転結がはっきりしてるから、なんの理屈もなしに体が動いてノリ にノレてしまうんだから。
あっさりと、でも気持ちよく騒ぎ終わったところにハリーの力強いドラムが入ってファンキーな「BALL AND CHAIN」が始まる。この曲の特長はいかにもTHUNDER、いかにもダニーといううねるようなリズム感。彼以外のシンガーでは、絶対にこの曲は歌いこなせないんじゃないだろうか。途中の間奏部分では自然発生的に盛り上がった手拍子をダニーが「しーっ!」と制し、ベンのピアノ・ソロが始まる。これがなんとチャイコフスキーの「くるみ割り人形」をジャズっぽくアレンジしたもの。あれって、実際にああいうヴァージョンでロック系の人がやってる前例があるのかな?(誰かが「まさかNUT ROCKERをやるとは思わなかったよ」って言ってたのが聞こえた)
ピアノ・ソロのあと、ちょっとだけダニーが「MOVE OVER」 を歌う。ここの部分の構成は日によって違っていて、別の曲がもう1曲入っていた日もあったけど、なにしろ完全にアドリブでやってるところが、この人たちのすごいところだと思う。ステージでも特に目を見交わしたり、合図をしたりしている様子もないんだけど、なんの迷いもためらいもなく曲が変化していくのだから。
騒ぎに騒いだところで本編は終わり。当然ながら客は全員、まだまだ帰らないぞっとばかりにTHUNDER コールをしながら手拍子を続ける。
アンコール1曲目は、ダニーのMCで「今夜は新曲をやるよ、次のシングルになる予定の曲だ。気に入ってくれるといいんだけど」と言ったにも関わらず、実際に曲が始まるまでは、単に新譜からの曲だから新曲と言ったのだろうと思ってた私。
しかし、しかし、ほんとに新曲だった!
UCHAさんが「WHITESNAKEっぽい」と言ってたけれど、確かにキーボードの使い方がそれっぽい。ただし、ギターが入るとまぎれもないTHUNDER 節になるところが、なんともいえない心地好さ。今までの曲の中では「EMPTY CITY」に近い、ドラマティックに盛り上げるタイプの曲だと言える。考えてみると、不評だった2ndは、ほんとはこういう曲調でまとめたかったのが、消化不良に終わったのかもしれない。
うん、カヴァデールにルークは必要だったのかもしれないけれど、ルークにカヴァデールは必要なかった、なんて言ったらあっちこっちから石が飛んできそうだけど、あえて言ってしまおう。 それに第一、ルークにはダニーという天才ヴォーカリストがいるんだから、これ以上何を望むこともないのだ。強いて言うなら「運」かな。
初めて聴いたにも関わらず反応のいい聴衆に満足気に「THANK YOU VERY MUCH!」と叫んだあと、ベンのギターがかき鳴らされ、お約束「BACKSTREET SYMPHONY」 へと突入。これを聴かなきゃおさまらないやね。みんなが飛び跳ねまくり、サビの部分では大声で歌いまくり、もう楽しくて楽しくてたまらない状態。
ここまできて書くのもマヌケだけど、絶対に忘れちゃならない功労者はハリー。彼のドラミングって、ほんとに正確で力強くて的を射てる。THUNDER のライブが素晴らしいののは、彼の存在がものすごく大きいと思う。バラードっぽい静かな曲でも、キメの部分で彼のドラミングが絶妙のタイミングと音圧で入ると、ただものじゃない引き締まり方をしてしまうのだ。今回のツアーで何度その手で「ゾクゾクッ」とさせられたことか。
さて、きのうまではここで終わりだったのだが、鳴りやまないTHUNDER コールと手拍子に応えて、なんときょうはメンバーが再び登場!
「きみたち、狂ってるよ(^_^)」とのお褒めの言葉をいただき、大喜びの私たち。「どの曲が聴きたい」という問いに、「LOVE WALKED IN」(私だ「FLY ON THE WALL」「FUTURE TRAIN」「DON'T WAIT FOR ME」 といった声があがったけど、しめはやっぱりこれ、「BROWN SUGAR」。 「嘘でしょ〜、もう体力使い果たして残ってないよぉ」という言葉とは裏腹に、顔はにこにこ体はぴょんぴょんと自然になってしまうのが恐ろしい。
この曲ではルーク、ベン、ミッキーがコーラスをつける。ベンとミッキーは1本のマイクスタンドに向かって、ビートルズのように頭を寄せ合って歌うのだけれど、お互いにどうぞどうぞとマイクを譲り合ったり、ベンが、歌うと見せかけてすっと後ろにひいてしまい、ミッキーにだけ歌わせるというフェイクをかませたりと、楽しそうに遊んでたのが印象的。中のいいバンドってすてきだなあ。
客も一緒に大声で歌うわ、叫ぶわ、跳ねるわで、最後にふさわしい大騒ぎでライブ終了。ああ、疲れたぁ。でも、しあわせ〜。
思い入れは別にして考えても、今年いちばんの、そして多分私の人生の中でも5本の指に入るくらいの、素晴らしいライブだった。彼らと同時代に生きられたこと、そしてこの瞬間に立ち合えたことを、ふだんは信じてもいない何かに感謝したい衝動に駆られてしまうほどの感動だった。ほんとに、生まれてきて、そして生きてきてよかった!