SHOH's LIVE REPORTS

Smashing Pumpkins (June 23,1998 at Nihon Budokan,Tokyo)


さまじいものを見て(聴いて)しまった、という気持ちでいっぱいだ。アルバムの通りの演奏をし、それが誉めそやされるバンドがいる。何度も録り直し、オーヴァーダビングしたスタジオでの音を、なにが起こるかわからないライブ会場で再現できるというのは、それなりの技術と努力が必要だから、確かにそれは素晴らしい。また、アルバムとは違って、かなり荒っぽかったり、テンポが早かったりしても、それがライブならではの魅力にあふれていて喝采を浴びるバンドもいる。私の好きなタイプだ。

が、今回のライブは、そのどちらとも違っていた。アルバムが打ち込みで作られていたから、当然ライブで生ドラムが入れば違ったものになるとは予想はしていたが、現物はそんな予想をはるかに超えていた。そう、彼らはその程度のことじゃ満足しなかったのだ。

オープニングはアルバムの1曲目でもある"TO SHEILA"。マイクのセッティングがいいせいか、ダーシーのコーラスがとてもクリアに聞こえる。ひょっとしてアルバム通りの曲順で行くんじゃないかと一瞬思ったが、違った(^^;)。

「やっぱり生ドラムはいいよなあ」と思っているこちらの気持ちを見透かしたかのように、ドラマーが思い切り腕を振り上げ、ものすごくへヴぃーにイントロを叩きはじめる。お腹に響くようなドラミング。ヘヴィーなのも当然だ。ステージの上には数え切れないほどのパーカッション類(^^;)。ライブ前に無人のステージを見たとき、「え、ドラムセットが3つ?!」と驚いた。よく見ると、真ん中にワンバスのドラムセットがひとつ、その右横にティンバレスと各種シンバル類、左横にはタム、スネア、ボンゴ、それにやはりたくさんのシンバル類。スタジオでの欲求不満をここで爆発させたのか、ビリー(^^;)?

ステージそのものはかなりコンパクトだ。それほど広いわけではない(とドームに慣れた目には見えてしまう)武道館のステージを、さらに左側3分の1のところでスピーカーで区切って、狭くしてある。そしてその狭くなったステージの後方いっぱいにドラムセットが並び、右端にはキーボード、その横にイハ、中央にビリー、左端にダーシーが立つ。

ビリーは黒の上着を襟元まできっちりボタンをかけ、黒のパンツ。ジェームズは黒い長袖シャツ、ダーシーも黒の袖なしシャツ(ひょっとしたら乳首が透けてたかも)に赤い模様の入った黒の皮パンツで、あのプラチナブロンドの頭に黒い角(猫の耳?)がついたヘアバンドをしている。ビリーは相変わらずツルツルのスキンヘッドで、巨大で、なんともいえない存在感。ただ、今回、キーボーディストもドラマーもスキンヘッドだったので、「どっちを見てもたこ坊主」(^^;)状態というのが、なんとも異様な雰囲気。まあ、不気味というよりはユーモラスで はあったのだが。

次の曲はキーボーディストが、まるでベートーベンのピアノソナタみたいに弾き始める。棒立ちになったファンがとまどっていると、それがやがて聴いたことのあるメロディを奏で、ああ、あれか、という感じで曲の世界に入っていく。

こういう感じで1曲ごとに趣向が異なり、そして1曲ごとにテンションが上がっていった。でも、だからといって、前回来日時のように最前近くで転げまわったり、跳ね回ったり、というふうにはならない。みんな立ったまま首を軽く振り、体を揺らし、歌詞を一緒に口ずさんでる、という感じ。いくらアレンジされてるとはいえ、元のアルバムが愛をテーマにした静かな内容だったのだから、過激な激しさにはなりようがない。アルバムが出たとき、その感想で私は「熱っぽい静けさ」という表現を使ったのだけれど、きょうのこれは「静かな熱狂」へとヒー トアップしているのかもしれない。

アルバム中いちばん激しい曲で、そのせいもあってかかかりまくり状態の"AVA ADORE"は、意外なことにラテン・フレーバーが利かされていた。右側のパーカッショニストは、なんて呼ぶのかなあ、水平に動かすマラカスみたいなにを両手で振り、左側の人はボンゴを手打ちしている。もちろん、曲本来の激しさはそのままだけど、打ち込みによる整然とした印象が薄まり、手作りのぬくもりみたいなものを感じさせた。

ここでビリーの初めてのMC。

「ありがとう。僕はダーシーだよ。ここに来られてとてもうれしい」

(^^;)。ま〜ったく、名前ギャグは前回もさんざんやったじゃないかあ(^^;)。ダーシーは聞き飽きたといわんばかりに、クールに後ろを向いてチューニングしている。

しかし、この3人の組み合わせってほんとにユニーク。イハはステージの端っこのほうで下を向いて黙々とギターうを弾いている。たまに恥ずかしそうに小さく手を振るだけ。ダーシーは、時々2階席のファンにも手を振ったりはしてサービスしているけど、たいていはクールに演奏に専念している。MCをするときも実に落ち着いている。これに対してビリーときたら、体ばかり大きいガキ大将のよう。のべつまくなしに飲んでいるミネラルウォーターのボトルを客席に投げたり、ステージの前のほうに出てきて手を振ったり、わざと低いしゃがれた声で[どー も」とか言ってみたり。この3人の個性の違いが、彼らの音楽性を一筋縄ではいかないものにしているのかも。

「WCの日本代表は残念だったね。まあアメリカ代表も御同様だけどさ」「じゃあ、ジェイムズに日本代表のための歌をやってもらおうか。俺よりは日本語マシだしさ」と無理矢理ふったときにも、イハは下を向いて左手を体の下のほうで「だめだよ」というようにヒラヒラさせただけ。一言も発しようとしなかったので、結局ビリーがあきらめて次の曲に入った(^^)。

「TEAR」では、切々たる歌唱を聴かせてくれたビリーだが、高い部分の声が多少出にくいのか、こぶしで胸をトントンと叩く場面が2度ほど。さらにはリズムをとるようにピカピカの頭まで叩いてみせたのには笑ってしまう。お茶目なやつ。

「この曲はきょう来てくれたみんなに捧げるよ」

ビリーの言葉で始まったのは"TONIGHT,TONIGHT"。ビリーもイハもアコースティック・ギターを持っている! もちろんプラグインはしているけれど。キーボードがジャズ風の色をつけていて、パーカッションの多さがアコギ・ヴァージョンなのにも関わらず壮大な雰囲気を盛り上げ、いやもう実に聞きごたえのあるアレンジだった。ダーシーのベースもとても野太くて根性の座った音だ。ちょっと腰を落とし気味に足を開いて弾く姿は、同性ながらほれぼれしてしまう(*^_^*)。

武道館じゅうのファンが熱狂したのは"BULLET WITH BUTTERFLY WINGS"。いやもう速いわ重いわ(^^;)。人間の限界を超えてるんじゃないかと思うほど。あれ、ドラマー(というかパーカッショニスト)が3人もいたから出来た技ではないだろうか。ビリーの唸るようながなり声の迫力もすごく、暴力的とすら言えるほどの緊張感に満ちた音に、一瞬MARILYN MANSONを思い出してしまった。

アンコールで登場したダーシーがマイクに向かってこう言った。

「私たちにとって今日のショウはとても特別なの。だって、ずっと憧れてきた会場、日本武道館で初めて演奏するんですもの。だからスペシャルな曲をやります」

そして始まったのはCHEAP TRICKの"I WANT YOU TO WANT ME"。席に置かれていたウドーのニュースペーパーにビリーがCHEAP TRICKの武道館記念コンサートで飛び入り演奏した(なんとリック・ニールセンのかっこで!)という記事が出ていたので、予想はしていたのだが、それでもああいうポップな曲をメンバーが演奏をしているのを聞くとけっこうびっくりする。一緒に歌おうみたいな素振りまで見せるんだから(^^)。

キーボードが"SUMMER TIME"を弾きはじめた。ホテルのラウンジバーみたいでちょっとダサイかなあ、と思ってしまったが、そのあと曲の主旋律が流れ出し、ビリーがギターを肩から下げて、でもまったく手をふれずに歌い始める。体をうしろに大きくのけぞらせたり、手を広げ、かと思うとその手 を顔に当てて訴えかけるように歌う。まるで前衛的なパフォーマンス・アーティストのようだ。静かに歌い上げる彼のヴォーカリストとしての表現力は素晴らしく向上したと感じさせた。決して上手な歌手ではないし、声質自体もそれほど魅力的というわけでは ない。むしろ「変な声」だと思うのに、それがここまで聴く者の心を撃つなんて・・・。やがて他のメンバーも加わり、交響曲のようなクライマックスを見せた。

全部終わったあと、イハとダーシーがそれぞれマイクに向かって挨拶し、手を振りながら引っ込んでいったのに、ビリーだけはいつまでもステージに残り、右、左、上のファンに手を振っていたが、とうとうステージから飛び降りてしまった! ものすごい歓声(嬌声?)が起こり、ファン達が前に殺到する。トシヨリの私はそのままの席で見ていたが、ビリーの姿は見えなくても、人波の動きで、彼が中央から徐々にステージ左寄りのほうに移動していくのがはっきりわかった。1階席からも身を乗り出して握手を求めるファンがいて、いやもう大騒ぎでした。いかにもビリーらしい去り際といえる。警備の人はうんざりしてたけどね(^^;)。

武道館から外に出るまでの人混み渋滞の中で、前後左右からいろんな感想が聞こえてきた。「知ってる曲2つしかなかったよ」とボーイフレンドに文句を言ってる女の子。そりゃキミ、ちゃんと新譜を聴いてこないからでしょ(^^;)。 「もっとちゃんと"ADORE" を聴いておけばよかったなあ」そうそう、きょうのライブはそれがいちばん重要な課題だったよね。「新譜からの曲、なにをやってるかよくわからなかった」そうね、1回や2回聴いただけだと、あそこまでアレンジされていては判別不能だったかも。

私個人に関して言えば、ふだんのライブで予習なんてあまりしていない。ミュージシャンというのは曲を知らない人間にもきちんと楽しいと思わせて初めて、本物だと言えると思ってるから。まあ、めんどくさい、時間がない、という本音もあるけどね。ただ、今回のアルバム"ADORE"に関しては、やめられない止まらない状態になってしまい、ほとんど毎日のように聴いていた。だからこそ、よけいにライブが楽しめたのだと思う。あのライブは、そういうファン(メンバー自身がまずそうだったんだと思うし)のためのものだったんだなあ、と改めて思った。 それでいて、ライブのあとにも同様に、いやさらに感動しながらアルバムを聴くことが出来たことも驚きだった。

今またヘヴィーローテーションに入っている"ADORE"を聴きながら、一体この人たちは次に何をしてくれるのだろうと思う。なんにせよ、次に彼らが動き出したとき、きっとまた凄いものを体験させてくれるだろう。

1. TO SHIELA
2. BEHOLD! THE NIGHT MARE
3. PUG
4. TEAR
5. ONCE UPON A TIME
6. CRSTFALLEN
7. AVA ADPRE
8. DEPHNE DESCENDS
9. THRU THE EYES OF RUBY
10.PERFECT
11.TONIGHT TONIGHT
12.BULLET WITH BUTTERFLY WINGS
13.SHAME
14.FOR MARTHA
-ENCORE-
15.I WANT YOU TO WANT ME
16.1979
17.BLANK PAGE


1998 I INDEX I Sの目次へ I TOP PAGE