Roots Rock Festival(Thunder) (August 2nd,1998 at Nidrum,Belgium)
この日のラインアップは以下の通り。WALTER LAVENT'S R'n'B AGENCY(オランダ)
BIG DEAL(ルクセンブルク)
FRED & THE HEALERS(ベルギー)
B.J.SCOTT(アメリカ&ベルギー)
OMAR & THE HOWLERS(アメリカ)
THUNDER(イギリス)>
1時開場が予想通り遅れて1時半に始まったらしく、2時頃に会場入りしたら最初のバンドが演奏を始めたばかりでした。すらっと背の高い短髪のベーシストを除けば、見事におじさんで固めてある(^^;)。ギターを弾きつつ歌うおじさんが LAVENTさんらしい。私が入っていったときにちょうど "CAN'T GET ENOUGH"をやっていて、「あ、けっこういいじゃない」と思ったのですが、"WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS"はちょ っと悲惨だったかも。バンド名の通り、R&B寄りの曲のほうが得意らしい。でもまあ、オープニングのバンドだから、こんなもんでしょう。
会場にはゆうべ完全な泥の海と化した所に干し草をまいて、座れるようにしてあり、若者のグループ、子供連れ、御近所同士のおばさんたちが、思い思いのかっこで寝そべったり座ったりしてステージを見るともなく見ています。でも、曲が終わるとちゃんと拍手を送っているのが礼儀正しい(^_^)。若者グループの中にはもうかなりビールを飲んでいい気持ちになり、ふざけて取っ組み合いをしたりしてるのもいましたが、決して荒れている感じではなく、あくまでも休日のビーチみたいな雰囲気。
私も草の上に腰をおろし、こんなだったら THUNDER が出るまでこうしていてもいいなあ、なんて思いかけました。が・・・最初のバンドの演奏が終わり、次のバンドの準備が始まったあたりから異様に寒くなってきました。タンクトップ、長袖Tシャツ、ダンガリーシャツ、半袖Tシャツを着た上から裏付きのジャケットを着ていたのに、です。このままじゃ風邪ひいちゃうなあと思い、いったんホテルに戻り、もう1枚Tシャツを重ね着。5時くらいまでホテルで時間をつぶしました。
戻ってみるとちょうどセッティングが終わったところで、女性3人と男性4人くらいの大所帯のバンドが登場。歌ってギターも弾いている女性が B.J.SCOTT で、コーラスをつけてる2人の女性は地元ベルギーの人たちのようでした。B.J.はちょっとハスキーでブルージーな、なかなか魅力的な声をしています。リズム感もいいし、跳ねる感じの曲をジャンプしながら歌ったときなど、かなりいい反応を受けていました。が、そのあとにアコギでメッセージソングみたいな歌を歌ったり、かと思うと JEFFERSON AIRPLANE の "SOMEBODY TO LOVE" をカヴァー(これは彼女の声にはすごく合っていましたが)したりと、とっちらかった感じがあったのが惜しいと思いました。
彼らの途中くらいから、予想通り雨が降り始めました。しかも、どんどん激しくなっていくものだから、ステージ前にけっこう集まっていた客もだんだんと後退してテントの下に避難していきます。ステージから見てるといやなもんだろうなあ。私も今からポンチョを着るのもなんだと思い、いったんテントの下に。が、あとからあとから入ってくる人に押され、しまいには奥のほうまで押し流されてしまいました。
そろそろ次のバンドも始まるし、前のほうに行っていようかと決心。誰もいない最前列で中央より少し左側のルーク寄りに場所をとり、次のバンドを待ちます。きのうの VENGEANCE と違って聞いたこともないバンドなので、客のほうも期待していないのか、ほとんどテントから出てきません。これだったら場所とる必要もなかったかなあ、と後悔しかけたところでメンバー登場。うっわあ、見事におじさんばかりだ。中央に立つのはオーソン・ウェルズみたいな髭面でギターを胸の上のほうに下げた太ったおじさん。その左側にはイギリスのパブでくだ巻いてそうな小太りで頭の薄くなったおじさん。手にはハーモニカを持っています。あとはベーシストとドラマー。
しかし、最初の曲が始まったとたんにぶっとびました。かっこいい〜(=^^=)。もろブルーズロック。胸の上のほうでギターを弾くおじさんの姿にB.B.KINGがだぶって見えました。声も味があって、実にハマってます。ハーモニカのおじさんも、さすがハーモニカ一丁で出てくるだけあって、並みじゃありません。う〜む、一体どこからこんなバンドをみつけてきたんだろう。曲は聴いたことがあるのもないのもひっくるめて、どれもみんな自然に体が動いてしまうような気持ちのいいグルーヴ感をもっています。
最初のうちまばらだったステージ前も、だんだん人が集まってきて、子供を肩車したお父さんやお母さんが多いのは、やはりこういうのを好む年齢層ということなんだろうなあ。中にはすっかりいい気分になって、柵をよじ登り、ステージ前の板の上を踊って横切ってくおばさんまで登場。これはさすがにセキュリティにひきずりおろされました。
雨もポツポツ程度になり、最終的にはかなりの人数を集めて OMAR & THE HOWLERS のステージが終わりました。すご〜く得した気分。
体も暖まり、雨もあがって、まさに THUNDER を待つばかりという体勢になりました。最前に出てきたのはさっきと違ってティーンエージャーが多い。でも、私の左側は子供を連れたお母さん。いずれにしても、きのうと同様、押されるような混雑ではまったくありません。むしろ日曜の夜だけに、帰ってしまった人も多く、きのうより人は少ない感じです。
昼間サウンドチェックが出来なかっただけに、セッティングにはかなり時間がかかりました。予定の10時半を過ぎても始まる気配もありません。大勢のスタッフがステージの上をうろうろし、ギターを鳴らしたりマイクをチェックしたり照明をテストしたりしています。どうもルークのギターの調子が悪いらしく、白いレスポールを持ったギターテクが何度も行ったり来たりして、いろんな人と相談しています。
そしてようやく11時をすぎたところでメンバーが登場しました。待ちかねていたオーディエンスから歓声が上がります。
ダニーは黒の半袖Tシャツに白のジーンズ、ルークは黒地に白の星模様の長袖シャツに茶のレザーパンツ。ベンは白の半袖Tシャツにグレーっぽいパンツ、クリスは黒のサテンっぽいシャツに黒のジーンズ、ハリーは黒の半袖Tシャツにスパッツ(だったと思う)。
オープニングは日本と同じ"WELCOME TO THE PARTY"。ノリのいいこの曲で、すぐさま聴衆の心をつかんでしまいます。きのうのGREAT WHITEのあとで見ると、THUNDERってフロントの4人が実によく動きます。ダニーの動きはジャックと違って体操のお兄さん風であまりHRっぽくないんだけど、ルークやベンのほうはもうまさにHR! ステージを走り回り、交差し、ギターを高く掲げ、と見てるこちらは目を離せません。
ダニーはしきりと「ジャンプ!」と煽るのですが、こちらの聴衆はあまりジャンプしません。なにしろ地面がすごいぬかるみなので、下手にジャンプすると泥だらけになってしまうのと、きょうの聴衆はきのうより年齢層が高いように見えるので、そのあたりが原因なのかも。その代わり手拍子はメンバーがしてみせると、すぐに素直に従います。このあたり、すれてなくてとっても純朴。
「みんな楽しんでるかい? 僕たちはTHUNDERだ。濡れてる? あんまりひどくじゃないといいんだけど。ちょっとここで静かな曲をいくね」
スローな曲になると、私の右隣りの少年(多分15歳くらい)は煙草に火をつける。おまけに目の前のセキュリティに1本すすめたりしている。生意気〜。
フェスの客なんてのは静かな曲になると退屈して、勝手におしゃべりしたりする人もいるんじゃないかと思っていたが、少なくとも前のほうにいる客にはそんなのはいませんでした。みんな黙って、うっとりとダニーの声に聞き惚れています。そうさせるだけの力が彼らの音楽にあるとも言えますね。
ついこの間の日本公演ではやらなかった"GIMME SOME LOVIN'"で、ひさしぶりに「3、2、1、HEY!」が出来てうれしかった。やっぱりライブではああいうのが楽しいです。ベルギー人たちも、みんな楽しそうに腕を振り上げ「ヘイッ!」と叫んでいます。
しかし、つくづくダニーのステージングというのは凄いと思う。言葉が通じない所でも、最小限シンプルな英語とあとは身振りだけで、その場にいる全員をのせてしまうんだから。これはもう生まれ持った才能なんでしょうね。THUNDERのライブの素晴らしさって、もちろん演奏力の確かさ、タイトさもあるけれど、それプラス、このダニーの才能が大きく関係しているんだと、改めて思い知らされました。
"ONLY ONE"が終わると、ダニーがステージ袖に向かって叫びました。「エドガー、出て来てよ」
このフェスティバルの主催者であるエドガー・ヴルツ氏が登場。ブルース・ディッキンソンに似た小柄な男性です。このフェスティバル会場の2軒隣りの家に住んでいます。いわゆるプロモーターが適当な田舎の村を探して興行を打ったというのではなく、ロックが大好きな男が自分の村でフェスティバルをやってやろうとしたって感じ。こういうのっていいなあ。
照れながらも出てきたエドガーの肩を抱き、ダニーが紹介しました。「このフェスティバルのプロモーター、エドガーだよ。彼は難しい仕事を見事にやりおおせた。彼に盛大な拍手を!」エドガーのことだったら多分ダニーよりよく知っているであろう村人たちが大きな拍手を送りました。
「彼が好きな曲をやろう」
"LOW LIFE IN HIGH PLACES"の最後の部分は例によって、ところどころ歌をストップさせては客に叫ばせるという演出だったけれど、日本でよりはかなりあっさりしていました。でも、個人的にはこの程度のほうが曲のよさを損なわないような気がして私は好き。
"LOVE WALKED IN"では予想通り、客がいっせいに歌います。これ、ちょっとうるさくてかないません。特に私のうしろにいた男性がものすごい調子っぱずれなのに大声なもので、せっかくのダニーの声がかき消されちゃって悲しかった(;_;)。
アンコールではセキュリティまでが一緒になって客を煽り、手拍子をしています。こういうの日本では見られない光景ですね。それでいて、客の安全に問題が起こりそうなときには毅然として止めに入るのですから、こういうのが本来のセキュリティの姿だと思いました。
"DIRTY LOVE"の途中にROLLING STONESの"SATISFACTION"をはさみこむ趣向も日本公演と同じで、ベルギーの観客も大熱狂。ダニーが「僕が手拍子を打つからみんなはジャンプしてね」という過酷な要求(^^;)にも素直に応じて、最後の力をふりしぼってジャンプをしています。私もこれでもう終わりと思うので、ここぞとばかりに日本人の意地を見せて飛び跳ねました。
「叫んで〜!」きゃあ〜!!! 「叫んで〜!」きゃあ〜!!! 「叫んで〜!」
最後に思いきり叫ばせてすべては終わりました。「ありがとう。みんな素晴らしかったよ!」いえいえ素晴らしかったのはあなた達です。
きのうよりは少し早め、とはいえ12時は過ぎていました。振り返るとさすがに人は少なくなっていて、残っている人たちもテントの下でさらに飲もうとしている連中以外はどんどん出口に向かっています。やはりきのうとは雰囲気が違うかな。明日は仕事ですものね。私も明日はまたバス、電車、飛行機と乗り継いでの長い家路が待っています。ホテルに帰って素敵な夢を見ながら眠ることにしましょう。
時間とお金をかけて、こんな遠くまでたった2つのライブを見るために来てしまった私は、普通の人から見ると狂気の沙汰なんだろうなあ、と思いつつ、でも、この喜びを知らずに生きている人って可哀相とこっそりほくそえむのでした。
SET LIST |