SHOH's LIVE REPORTS

Metallica (May 6,1998 at Nihon Budokan,Tokyo)


ETALLICAのライブを見るのは3回目かな? 前回来日は確か日程が合わなくて見ていない。ここ2〜3作のMETALLICAについてはそれほど熱心に聴いているわけではないが、肯定的にみていた。確かに進歩しているんだ、という手応えがあ ったと思う。

さて、で、武道館初日。彼らにとっても武道館でやるのは初めて、ということで、外国人ミュージシャンの武道館に対する思い入れを考えれば、きっと張り切って出てくるだろうとの期待通り、喜びを素直に表現してくれた連中だった。ジェイムズだったか、中盤あたりで「長い長い時間のはてにようやく武道館でできる」みたいなこと言ってから「カンパーイ!」なんて水を飲んでたもの(^^;)。

噂には聞いていたが、客電をつけたままのオープニングは、最初は「なんだか締まりがないなあ」と思った。けじめがないというか、だらだらした始まり方に感じたので。が、"SO FUCKING WHAT?"の途中でぱっと暗くなってライティングが始まった途端に私自身のテンションが一気にあがった。「なるほど、こういう効果を狙ったのか」と納得した次第。ただし、もう少し改良の余地はあると思う。出て来るとき、もう少しメリハリをつけるとか。アメリカでの公演が8月だそうだから、その頃までにはかなり練り込まれたものになっているのだろう。

ステージセットはごくごくシンプル。「RELOAD」のジャケットに使われていたオレンジと赤の炎のような絵が描かれたバックドロップだけ。しかし、これも。ステージの途中、"ONE"のあたりだったか、ライティング効果によって人間あるいは亡霊の顔のように見せている個所があって、意外に練り込まれた結果のシンプルさなのかも、という気がした。このあたりは1回見た程度では判断できない。

フロントに立つのは3人だけなのに、なぜかマイクスタンドは5本、ステージの端から端までの間に等間隔に並んでいる。これはすぐに理由がわかった。ジェイムズもジェイソンも、決して1個所にじっとしてなんかいない。次々に位置を変わっては移動した先のマイクに向かって歌うのだ。全員が黒ずくめ、スリムなジーンズで、相変わらずすらっとしたシルエットがかっこいい3人が、こうして立ちはだかるようにして歌ってる姿は、本当にかっこいい。

2曲目"MASTER OF PUPPETS"でいきなりMETALLICAワールドに引き込まれた。重い、重い、腹に響くこの重低音。これぞヘヴィーメタルという音のキモチよさに、しばし茫然。リズム・セクションが響く反面、ギターとヴォーカルが少し聴きにくい気もしたが、あまり気にならない。ここから4曲目の"SAD BUT TRUE"までは、とにかくMETALLICAの真骨頂という気がした。速くはないけれど、とにかくヘヴィーでキレがいい。ラーズのドラムがこんなにカラダに心地よいということをずっと忘れていたなあ。

が、続くカークのソロでちょっとトーンダウン。なぜか私が見たことのあるMETALLICAのライブでは、カークのソロがいつもイマイチで、「彼ってひょっとして下手?」と思ってしまうことが多かったのだが、今回もそんな気分にさせられた。曲の中にとけこんでいるギターサウンドはいいんだがなあ。どうもソロで弾いてるときに華がない。

"THE MEMORY REMAINS"では、あの「らーらららー」コーラスが観衆から・・・始まる前にジェイムズも「歌う用意はできてるかい? 君たちの助けが必要なんだぜ」などと言っていたのだから、当り前と言えば当たり前なのだが、かなり意表をつかれた。ビデオクリップの老婆のイメージが大きすぎたせいもあるらしい。ライブでも老婆が出てくると思ってたわけではないのだが(^^;)。

"BLEEDING ME"のあとでいったんメンバーが引っ込み、ジェイソンがひとりでドラムセットの前の段に座り(ヒラッという感じで足を横に流して優雅に座ったのがとても印象的だった)ちょっとだけソロを弾く。そこにカークが登場して椅子に座り、ギターが加わる。一緒にいた友人の話だとバイオリン奏法なるものらしいが、これまた下手でハラハラしてしまう。どうなるのかと案じていたらジェイムズも登場、彼も椅子に座って"NOTHING ELSE MATTERS"が始まり、ほっとした。みんな座っているので「お、これが噂のアコースティックか」と色めきたったの だが、違った(^^;)。

ジェイムズの歌が巧くなったというのは誰もが認めるところで、"BLEEDING ME"でもその真価をうかがえたのだが(エンディングの澄みきった声の伸びといったら!)、"NOTHING ELSE MATTERS"ではコブシを回し過ぎるのが個人的にはあまり好みではない。もう少しあっさりと歌ってくれたほうが、こういう曲の場合は映えるような気がする。

むしろ次の"UNTIL IT SLEEPS"は、少しくらいくどく歌ってもガッチリ受け止めてくれるタイプの曲だ。ビデオクリップがかなり凝ったものだったので、すっきりしたステージを見るだけでは少し物足りない気はしたが、曲そのものはやはり傑作だ。しかし、そう冷静に考えていられたのはそこまで。

次の曲のイントロが聴こえてきた途端に、みんなが腕を振り上げ「ウォッ!ウォッ!ウォッ!ウォッ!」と叫び始める。"FOR WHOM THE BELL TOLLS"だ!う〜ん、これってほんとにかっこいい!なぜか私はMETALLICAというとこの曲をイメージする。変わり者かも(^^;)。

再びカークのソロが入り、"WHEREVER I MAY ROAM"へとなだれこむ。しかし、このあたりは音のバランスの悪さがちょっとうらめしかった。これと前の曲では特に、ジェイムズの声をもっとよく聴きたかった。吠えるように歌ってほしかった。

そして"ONE"。この曲は確かにライブ映えする曲だと思うのだが、あまりにも売れ過ぎたために、私自身にとっては聴き過ぎ、見過ぎ状態。いまさら、という感じになってしまった。演奏も粗かったように思う。パイロはなかったものの、ライティングはかなり凝っていてドラマチックだっただけに、音のほうのスカスカ感が残念に思えた。

ひとり浮いてしまった私の性根を入れ替えるかのように始まったのが、"OLD SHIT MEDLEY"と呼ばれる初期2作からのメドレー。これは凄かった。いきなりヘドバンの嵐、そしてサビの部分でのフィストバンギングと掛け声。武道館に集まった観衆の中には最近ファンになった人たちも多かったのではないかと思っていたが、この瞬間を見る限りでは全員が初期からのファンであるかのように見えた。この十数分のおかげで、翌日、翌々日と首が痛くて動かせなかったのだから、いかに激しかったかわかろうというもの(^^;)。

こういう激しい曲をまとめてメドレーで処理してしまうことがいいことなのか、聴く前には疑問に思っていた。いわゆるヒットパレード的なものにしてしまい、みんなが聴きたがり叫びたがるサビのところだけくっつけてしまうというのが、あまりにも安易で軽薄な気がしたのだ。が、実際にこの耳で聴いてみて、「やっぱりこれしか方法はなかっただろうなあ」という気がした。限られた時間の中に自分たちの「現在」と「過去」をすべて包含し、古くからのファンも新しいファンも同様に満足させるためにはね。ここで本編終了。

大歓声と拍手に迎えられて登場したメンバーは、今度こそアコースティック・セットに入る。ラーズのドラムセットもちゃんと前にもうひとつ据えられている。"LOW MAN'S LYRIC"をしっとりと歌いあげ、次の曲に行く前の音出しでカークが聴きなじみのあるフレーズを弾くと、すかさず誰かが「エリック・クラプトンかよ」と茶化す(でも、ほんとにクラプトンだったよね)。さらにジェイムズが今度は"STAIRWAY TO HEAVEN"の一節を。ラーズが立ち上がって腕を振り回し、喜ぶ観客を煽る。「俺はジミ・ヘンドリックスが好きなんだ。かっこいいよな」と、 とぼけてみせるジェイムズ(^^;)。なかなかリラックスしてていい感じだ。一昨年のDEF LEPPARDのアコースティック・タイムを思い出してしまった。

と、ここまでは正直言って油断していた。いまやどんなバンドもセットの中頃にアコースティック・コーナーを持ってくる時代だし、「へえ、METALLICAまでやるのか」とは思っても、特に期待はしていなかった。適当に流して、なごんでおしまい。いい休憩になったね、みたいなもんだと思ってた。が、次の"THE FOUR HORSEMEN"と"MOTORBREATH"を聴いてびっくり。「知的興奮」という言葉がなぜか頭に浮かぶ。これは生半可なもんじゃない。これほどセンスのいいアレンジは想像もしていなかった。あまたあるトリビュート・アルバムにも、これほど元曲の よさをいかし、さらにまったく別の名曲に仕立てあげた例は少ないと思う。感動した。これこそ王者の風格というものだと思った。

感動のうちに1回目のアンコールが終了。すぐにまたメンバーが登場する。残りわずかの中には当然あれとあれが来るだろう、との予想通り、"CREEPING DEATH"と"ENTER SANDMAN"が。いや〜、"CREEPING DEATH"はかっこいい〜!まわりはみんな大声で歌い、拳を振り上げながら「ダイ!ダイ!」とわめいていた。

それに引き換え、意外なくらいさめてしまったのが"ENTER SANDMAN"。大好きな曲だし、友人たちのアマチュアバンドがセッションでやっただけでも胸がわくわくしたものなのに、一体どうして? きっとこれも"ONE"と同様、旬を過ぎてしまったんだろうなあ。あまりにも最盛期に盛り上がり過ぎたために、燃え尽きて草一本生えない状態になった感じ。とはいえ、まわりはものすごく盛り上がっていたのだから、これまた私の局地的見解なのだろう。

メンバーは楽器から離れ、ピックをまき、ドラムスティックを投げている。脇にスリットが入った黒いトランクス一丁のラーズは、まるで海水浴ではしゃぐ子供のようだ(^^;)。

まさかこれで終わるなんてことないよなあ、と思って拍手を続けていると、ジェイムズがギターを再び肩から下げた。歓声が上がる。メンバーはステージ中央に集まり、なにやら相談している様子。あとから聞くと、この最後の曲は3曲日替わりだったそうなので、ここで「きょうはどれにしよーか?」なんて決めてるのかもしれない(^^)。

そしてラーズがドラム台に戻り、「ダダダダッダダダダッ」と聞いたことのあるフレーズを叩き出した。あれ?これはMETALLICAの曲じゃないんじゃ(注)・・・まさかカヴァー?といぶかった次の瞬間に"BATTERY"が始まった。場内はもう興奮のるつぼ。最後だからもう首がちぎれてもいい、という勢いでヘドバンが始まる。この曲でしめくくれたら、もうなんの文句もない。いや、欲を言えば"WHIPLASH"も聴きたかったんだけどね(^^;)。

今度こそ本当に最後の別れを告げ、メンバーは去っていった。ジェイムズ、ジェイソン、カーク、そしてラーズとメンバー全員がマイクに向かい、それぞれにメッセージを残していったのも彼ららしいと言える。そのラーズのメッセージ通り、「5年のうちにはまた戻ってくる」ことを祈って、次なるMETALLICAがどんな姿で現れてくれるのか楽しみにしていようと思う。

(注)ライブ後、友人と「あれ、なんだったっけ?」と言いながら口ドラムをしてみて気がついた。WHITESNAKEの"SLOW AND EASY"だった。そう、亡きコージー・パウエルがいた時代のだ。あれはラーズなりの、コージーへの追悼だったのだろうか。

SET LIST

1.SO FUCKING WHAT?
2.MASTER OF PUPPETS
3.KING NOTHING
4.FUEL
5.THE MEMORY REMAINS
6.BREEDING ME
7.NOTHING ELSE MATTERS
8.UNTIL IT SLEEPS
9.FOR WHOM THE BELL TOLLS
10.WHEREVER I MAY ROAM
11.ONE
12.RIDE THE LIGHTNING〜NO REMORSE〜HIT THE LIGHTS〜SEEK & DESTROY〜FIGHT FIRE WITH FIRE〜RIDE THE LIGHTNING
- ENCORE 1 -
13.LOW MAN'S LYRICS
14.THE FOUR HOSEMEN
15.MOTORBREATH
- ENCORE 2 -
16.CREEPING DEATH
17.ENTER SANDMAN
18.BATTERY


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