これはもう伝統芸だよなあ、とステージを見ながら納得した。バンドもオーディエンスも何が起こるのかすべて承知。それでいてなおかつ興奮できる。感動できる。いやもう参りました！って感じ。今回はけっこうステージセットがドラマチックだった。曲に合わせてバックドロップが頻繁に変えられていたし、ライティングも凝っていた。なんといっても楽しかったのは、途中で出てきたでっかいエディと、最後に出現した風船式のエディ。特に最後のは出てくると知らなかったので、最初、何かが間違えて天井から落ちてきてしまったのかとドキッとしたが、それがだんだんと大きくふくらんでいって、ドラム台を口の中に入れたエディの頭と、ステージを両端からつかむようなエディの手になったときは、「お〜っ！」とどよめいてしまった。
それにしても、今回は客が入ってたなあ。最終日だったせいもあるだろうが、なんと立ち見まで出ていた！ 子連れ客が多かったのも印象的。昔からMAIDENを聴いてきたファンが大人になり結婚し子供ができて、ふだんはライブとは御無沙汰していても、やっぱりこれだけは！という思いで駆けつけたのだろうか。
ヤニックは相変わらずハイパーおじさん。走り回るわ、くるくるギター回すわ、エディとふざけるわで、ひとときもじっとしていない。さすがに自分のソロのときは一応止まって弾くのだけれど、終わるやいなや走り始める。
"Lord Of The Flies"の頭でギターテクから渡されたギターでイントロを弾き始めたものの、音がまったく違っていて「あれれれれ〜？」という顔ですぐに弾きやめてしまい、ステージ袖に走っていった。で、正しいギターを受け取ると、間違えたギターテクの手をひっぱって前に連れてきて、お尻を蹴って見せる。これにはみんな大笑い。ミュージシャンによっては、こういうミスがあると青筋立てて怒っちゃって、会場までシーンとしちゃうなんてこともあるのだけれど、ヤニックの場合は失敗も微笑ましいパフォーマンスのひとつに変えてしまった。えらい！
スティーブはファンからもらったらしいサッカー日本代表のユニフォームを着て、相変わらずアグレッシブに弾きまくっている。前回はブレイズの歌が不安定になると隣りに立って一緒に歌うという、まさにプレッシャーかけまくりの気配りを見せていたが、今回は時差ボケでテンポが狂いがちのニコに張り付き状態(^^;)。いやはやチェックの厳しいバンマスがいると、メンバーのみなさんも大変ね。
で、そのブレイズ、前回よりはまともに歌えるようになったとはいうものの、ステージパフォーマンスはまだまだ。必死の形相で立ったまま、というのは緩和されはしたが、動くといっても万歳のように両手を振り上げて客席を煽るだけだもんなあ。もうちょっと自分をかっこよく見せる工夫をしないと、あれだけのバンドのフロントマンとしてはもたないかも。
ただ、今回気づいたのだけれど、IRON MAIDENにヴォーカリストって必須条件じゃないと思う。彼らの曲はどれも、演奏だけですでに歌ってるし、口ギターをしてるだけで気持ちよくなれる。おまけに途中で必ず客が参加できるようなリフレインやコーラスが盛り込んであって、しかも英語ができなくても大丈夫な工夫（ウオ〜ウオ〜だけとか）がしてあるので、全世界どこにいっても通用する。
客は、ステージのメンバーの動きに魅了され、豪華なステージセットに興奮し、カタストロフィ１００％の演奏に陶酔し、そして一緒に歌うことで昇天する。ヴォーカリストはその舵取りができさえすればいいのだ。
ハッタリを効かせてMAIDENのメタル世界に入りこみやすくし、ノセ上手に客を一緒に歌える方向に導く。それがMAIDENにおいてヴォーカリストが期待されている役割だと言ったら、極論すぎるだろうか？ 実際、ディアノだってブルースだって、たいして巧いヴォーカリストじゃなかったもんね（うわぁ）。
でも、それとは裏腹に、一度でいいからジェフ・テイトが入ったIRON MAIDENを聴いてみたいという、とんでもない妄想が私にはある。歌がなくても(^^;)あれだけ感動できるMAIDENの曲に、超絶ヴォーカルが入ったら、いったいどんなふうになってしまうのか・・・まあ、無理だろうなあ。
SET LIST
(SE)「ﾛﾐｵとｼﾞｭﾘｴｯﾄ」第２組曲・第１楽章、"ﾓﾝﾀｷﾞｭｰ家とｷｬﾋﾟｭﾚｯﾄ家"
1.Futureal
2.The Angel And The Gambler
3.Man On The Edge
4.Lightning Strikes Twice
5.Heaven Can Wait
6.The Clansman
7.When Two Worlds Collide
8.Lord Of The Flies
9.2 Minutes To Midnight
10.The Educated Fool
11.Sign Of The Cross
12.Afraid To Shoot Strangers
13.Hallowed Be Thy Name
14.The Evil That Men Do(BR> 15.Fear Of The Dark
16.Iron Maiden
-ENCORE-
17.The Number Of The Beast
18.The Trooper
19.Sanctuary