SHOH's LIVE REPORTS

Extreme (July 11,1995 at Budokan,Tokyo)


んなこと感じているのは私だけだろうし、口に出すのも顰蹙ものだと思うけれど、あえて書いてしまう。EXTREME って、家でアルバム聴いてると退屈なのに、どうしてライブはあんなに楽しいんだろう!(白状してしまうと、私、彼らのCDってほとんど持ってない)

満員にはちょっと足りない武道館、客電が落ちると2階のほうから波のように歓声が降りてくる。う〜ん、なかなかのノリだね。 初めにドラマーに照明があたり、パット、ヌーノと登場して最後にゲイリーが飛び出してくると、ステージがようやく明るくなる。ほんとにシンプルなセット。というか、セットらしいものは何もない。バックドロップすらない。アクセントと言えるのは、天井からコードで低い位置まで吊り下げられている6つのスポットライトだけ。

1曲目の「GET THE FUNK OUT」、2曲目(曲名忘れた)、3曲目の「KID EGO」 と昔の曲がたて続けに演奏される。どの曲も激しくアレンジされていて、全然違う曲に聞こえたりする部分もあるくらいだけど、それがすごくかっこいい! ゲイリーの声がとてもよく出ている。

ゲイリーは、ひきしまった上半身を強調するような黒の薄手の長袖Tシャツに、ウエストを紐で結ぶタイプの黒のだぶだぶパンツ。マイクスタンドを自在に操り、ドラム台の上に飛び乗ったり飛び降りたり、ジャンプしたりと、一時も止まることなくステージ上を動き回っている。

彼の踊りは、デビューしたときからハードロックバンドでは見たことのない、どちらかというと黒人ミュージシャンのそれに近いバネのある動きが印象的だったんだけど、今回見た感じではさらにキレがよくなって、ぴたっ!ぴたっ!とポーズが決まる様は、まさに快感。あれは絶対にダンス・レッスンを受けているな。それも、かなり本気で。

モーリス・ベジャールという、バレエの世界では有名なベルギー人の振付師がいて、彼のバレエ団は、実力があって、なおかつ美形の男女のダンサーが揃っていることで知られているんだけど、そこのダンサーを思い出してしまう。途中から頭を黒いスカーフでぴったりと包んで現れるので、よりいっそうその印象を強めているのかも。

ヌーノは、濃い赤紫の長袖Tシャツの上に、藤色の半袖Tシャツ、色の褪せたブルージーンズというシンプルな装い。ゆるくウェーヴのかかった茶髪は、黒髪だとアクが強く見える彼の顔をソフトに見せている。これは成功ね。途中から上半身裸になって登場するんだけど、右腕が青く見えるくらい刺青でいっぱいだったのには驚いた。彼って前からあんなに刺青してたっけ?

パットは、ピエロ柄のツアーTシャツの上に黒のベルベットっぽい光のある黒シャツを重ねて、黒のスリムジーンズ(左のお尻が見えるように切り込みが入っている)。は前より少し茶色っぽくなっていて、髭をはやしているので、ちょっとおっさんくさい。

新しい(とは、もう言わないのかな?)ドラマーは、きたなっぽい長髪に上半身裸で、グレン・ダンジグみたい(あれほど鍛えてはいないけど)。

最初の3曲でいきなりノリノリになったものの、「あれ? 新譜からの曲で構成するんじゃないのかな?」と思った矢先、きょう初めてのゲイリーのMCが。

「WELCOME TO THE PUNCHLINE!」

それまでは、割合平坦な感じで明るくしていたステージもすっかり暗くなり、なるほど、ここからが本編。彼らが連れていってくれるアナザー・ワールドなのか。

ここで特筆したいのはライティングの素晴らしさ。あんなにシンプルで、しかも普通のコンサートに比べるとはるかに光量を抑えていて、あれだけの効果を上げているのはすごい、と思ってしまった。この前RADIOHEAD を渋谷公会堂で見た時は、「クラブのライティングをそのままホールに持ちこむなよな。暗くてなんにも見えないじゃないかぁ」と不満たらたらだったんだけど、今回のEXTREMEの場合は、全然違う。ちゃんと計算されつくした暗さ。これがお金をかけたのとかけないのとの違いなのか、エンタテイナーとしての自覚のあるアメリカン・バンドと、純粋にアーティストとしての自分しかないブリティッシュ・バンドの違いなのか、それは私なんかには何とも言えないけど、見ながら「へえ」と思ったこと。

さて、なにしろアルバム聴き込んでいないから、曲名ほとんどわからない。パンチライン・ワールドに移っての1曲目だけはさすがにわかる「HIP TODAY」。天井から下がっているライトをゲイリーが手で揺らすのが、なんとなくお芝居の世界っぽくていい感じ。

でもって、次の曲が圧巻だった。印象的なベースのリフが延々と続くところにヌーノのギターがからんで、何とも言えない雰囲気のある曲。ライティングも、例の天井からの6灯がほの暗い光をステージに落とす以外は、ゲイリーに赤、ヌーノに緑色のスポットが当たっているだけで、まさに曲のイメージそのまま。途中でベースとギターが、まるでツインギターのハモリみたいに掛け合うところで、背筋がぞくぞくしてしまった。パットって、あんなに上手なベーシストだったっけ?

ライブ全体を通して感じたことだけど、たった4人(しかもヴォーカリストはほんとに歌だけ)だけとは思えない厚みのある音で、これって、やはり曲作りの妙なのかなあと思ったりして……。あと、いまさらだけど、ヌーノとパットのコーラスの精妙さ。ただ単に美しいハーモニーをつけるというのではなくて、掛け合いで歌う部分では、実にインパクトのある、スパッとした入り方なのよね。

さらに言わせてもらえば、私は本来インストルメンタルがまったく苦手な人で、ギターソロなんてのも好きじゃないんだけど、ヌーノだけは別だなあ。「MIDNIGHT EXPRESS」は最高! 聴いてて思ったんだけど、彼ってギタリストにしては珍しく、リズム感がいいんじゃないだろうか? 彼の弾くギターの音は、時にメロディを奏で、時にリズムを刻む。そのバランスが絶妙。ふつうだったら「感動した」って書くところなんだろうけど、なぜか「驚異」という言葉が頭に浮かんでしまった。

前回のライブは、ホーンセクションなどバックの助っ人がいっぱいで、どちらかというとエンタテインメントとしての楽しさを満喫させてくれた「ショー」だった。それが今回は、メンバー4人だけがギターとベースとドラムと声だけで、バンドとしての妙味を思い切り見せてくれた「ライブ」だったと言えるんじゃないかなぁ。

おなじみの「MORE THAN WORDS」も 今までとは違うヴァージョン。ダブルネックを抱えたヌーノとゲイリーだけを残して、ドラマーとパットが袖に引っ込むと、たった1灯だけついたスポットの光の輪からわざと外れた位置に立ったゲイリーが、静かに歌い始める。彼の声はほんとうに艶っぽくなったと思う。声だけで歌詞をわからせてしまうような、切々たる響きだ。やがてヌーノのコーラスが入り、観客の大合唱を誘い、そこからすぐに「HOLE HEARTED」につながる展開もすてき。

余韻が残るステージで、なにやら一生懸命にゲイリーに耳打ちするヌーノ。そして、ゲイリーのMCでQUEEN に捧げると宣言されて始まったのが「NAKED」。

本編最後は「DECADENCE DANCE」。やっぱりいい曲だなあ。もう武道館じゅうノリノリで、メンバーもすごく楽しそうで、最後のところ、ステージ中央で向い合って弾いていたヌーノとパット、ピックをはじき上げておでこで飛ばそうとしたのだけれどヌーノは失敗(^^;)。 とっても楽しそうに笑っている笑顔がすてきだった。最後のフレーズで「ちんちろりんのカックン(わかる?)」ってメロディーを弾いて終わらせたヌーノは、うやうやしくパットと握手をしたのでした。

アンコール1曲目はCHEAP TRICK の「SURRENDER」。このあたり、向こうのミュージシャンの武道館に対する、ある種の思い入れを感じてしまう。ゲイリーのMCも、あえて「TOKYO」じゃなくて「BUDO-KAN」という呼び掛けだったし。


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