Enuff Z'nuff (September 16,1998 at Club Citta Kawasaki,Kanagawa)
時間を巻き戻したい! 1998年9月16日午後7時、もう一度彼らのショウが始まるあの時点に戻りたい!
予想はしていたことだが、待って待って待ったバンドの単独公演がたった1回きりというのは、あまりにもむごい話だと思う。見たいもの聴きたいものが山のようにあるのに、私自身のキャパシティはあまりにも小さい。すべてを記憶の襞に刻み付け、永久保存したいと燃えるような思いでみつめているのに、肝心の部分がするすると指の間からこぼれていってしまう。ステージの上の彼らを眼で追いながら、「このまま時が止まってくれたら」と何度思ったことか。
というわけで、16日の分はまともなライブレポートが書けると思っていたけど、もうメロメロ。結局ドニーの一挙手一投足を目で追い、耳で追うだけの2時間弱だったとしか言えない。
断片的に覚えていることだけ書き留めておこう。
ぼろきれみたいな絞り染めの布きれにZ'NUFFとだけ書かれた小さなバックドロップ(あとから聞いた話ではこれは全体の半分でENUFFと書かれた残り半分はアメリカに忘れてきてしまったんだとか)。
袖から叫ぶ「Alright Kawasaki! Please welcome the band from fuckin' Chicago! Enuff Z'nuff!!!!」の声に押し出されるようにリッキー、モナコ、チップが登場し、チップがまだ暗い会場に向かって叫ぶ。「くんにっちわ〜〜!」はずむようなでかい声だ。歓声が上がったところにドニーが登場。
「Let's get High! We wanna New Thing!」
照明が当たる。うわあ、きょうは黒いラメ入りの長袖シャツだ。下は黒の革パンツにメタリックなベルト、ブーツと日比谷と同じ。サングラスもしている。黒ずくめの服装にピンクのレスポールがものすごく映える。しかし出てきていきなりシャツのいちばん下のボタンを一生懸命かけようとしてたのはなぜ? ステージに出るのが間に合わなくてはめ忘れたのか?
サングラスをしていると、不思議に日本人の長髪ミュージシャンみたいに見える。でも、外したとたんに、あの透き通るような青い眼のおかげで、ものすごく神秘的になってしまう。抜けるように白い肌といい、男にしておくにはもったいないぞ。本人もそのあたりはよ〜く知ってるらしく、流し目の加減が思わず「杉さま〜!」と叫んでしまいそうになるほど決まっている。
チップはとろんとしたシルクっぽい長袖シャツに正面に布製の大きな花がついた帽子をかぶっている。おちろん彼もサングラス付き。私はきょうのために昔持ってたはずのピースマークのペンダントを探し出して身につけてきたのだが、ふと見上げるとチップの胸元にも同じようなペンダントが。わ〜い、おそろいだ(^_^)。
長い足をイッチニイッチニと踏みながらベースを弾く姿がとっても楽しそう。見ているほうも思わずにっこりしてしまう。ヴォーカリスト以外のメンバーがコーラスをつけるときって、ふつうのバンドだとたいてい前(客席)を見ながら歌うものだが、チップはずっとドニーのほうをみつめている。
モナコは日比谷のときと同じ白の革ジャケットを着ていたが、さすがにこれは暑くてすぐに脱いでしまった。下には銀ラメのタンクトップ。体つきが貧弱なのでまるで似合わない(^^;)。リッキーは上半身裸でトレードマークのような首に黒いスカーフ。
"KISS THE CLOWN"では客席とのかけあいをしながら、ときどき両手をギターから離して両脇に広げ、シナを作るように腰を振る。このしぐさがまたなんとも言えず色っぽい。←完全にイカレてる(^^;) それにしてもすごい汗! 腕を振ったり頭を振ったりするたびに、雨のような汗が周囲2メートルくらいに飛び散る。あんなに痩せているのにあんなに汗かく人って珍しいかも。いやでも、あれだけ汗をかくから痩せているのかな。
「次は新しい曲だよ。新譜は買ってくれたよね。ありがとありがと」
"AIN'T IT FUNNY"、これ、いいよねえ。ちょっとふざけたように低い声を出すところも、高い部分でファルセットになる所もどっちも捨て難い。「ドニー」と呼ぶ声が多い。男性もたくさんいる。
3声の美しいコーラスをきかせる「TAKIN' A RIDE」で少し静かになったところで、またドニーが観客を煽るように「you all alright we all alright」と煽る。"WE'RE ALL ALRIGHT"の最後に"FROM ME TO YOU"の1フレーズをアカペラっぽく歌ったのにはびっくり。BEATLESだったら、いつどこでもどんなふうにでも出来ちゃうのね。
「長い間日本に来たかったけど、とうとうここに来ることができた。愛しています」
"ROCK N' WORLD"の最後の部分では、けっこう長いギターソロにドニーもからんでステージを暴れまくる。
「どうもありがとう。故郷の歌をやるよ、シカゴの小さな町だ。ブルーアイランド」チップが」紹介した。
「僕とチップが最初に日本に来たとき、アコースティックで演奏した曲」
"RIGHT BY YOUR SIDE"では1回目のサビの部分でドニーがマイクを客席に預けてしまった。しかし、それに見事にこたえ、信じられないくらい大きな、そして美しい歌声を聴かせたファンたち。ドニーもこれにはものすごく感動して、「Oh! How sweet!」と囁いた。
しかし、この曲の間、暇になったモナコはなんと熱唱するドニーの横で手品を始めてしまったらしい。らしいというのは、私はドニーしか見ていなかったので、あとから友人の話を聞いて初めて知ったことだからなのだが、見ていた人はみんな、かなり興ざめしてらしい。そりゃそうだ、誰も彼の手品なんか見るためにお金を払ってるんじゃないって(・_・)。
そのせいかどうか、次の曲に行く前にドニーが「ジョニー? ジョニジョニジョニー?」と何か意味ありげに声をかけた。かけられたモナコのほうは、ちょっとビクビクしていたので、多分、あれは叱責の一種だったんじゃないだろうか(^^;)。ドニーを怒らせると怖そうだよね。
リッキーのドラムソロ、最初にスティックを落としたので笑ってしまったのだが、チップがインディアンの踊りをしながら引っ込んでいったのといい、その後もずっと手で叩いていたのといい、最初から予定の行動だったのか? それにしてはあの落とし方は真に迫っていたが。
このドラムソロは、たいていのドラムソロがそうであるように、特にどうということはなかったけど、やはりドニーの喉のことを考えると必要な部分なんだろうな。実際、ソロが終わって登場したチップとドニーはしっかりお召し代えをすませていたし(^^;)。
ドニーは日比谷で着ていたサイケなシャツだったが、チップはなんと黒のキャミソール。襟ぐりと細い肩紐に白のラインが入ったリブ編み綿ジャージーで、いかにも「安物!」って感じのシロモノ。チップ、日本に着いて早々に荷物を紛失した(のちにみつかった)らしいので、ひょっとしたらそのときに急遽購入したものなのかも? おまけに前に出てきてはキャミの下に手を入れて胸をさわってみせる(^^;)。
"DAY TRIPPER"で始まり、途中に"PLEASE PLEASE ME"と"SHE LOVES YOU"をはさんだ"BABY LOVES YOU"は、いかにもズナフ節というポップで楽しい曲だ。ライブでは特に映える。
モナコは袖にひっこんだときに、「下手」と書かれた白いガムテープを胸に貼って出てきた。多分ステージに貼って「かみて」「しもて」を示すものだと思うが、彼がつけていると「へた」と読めてしまう(^^;)。
ドニーがピアノの前に座った。「僕が大好きな曲なんだ」というチップの曲紹介で始まった"INNOCENCE"。私にとってのハイライトはここだった。ドニーの絶唱・・・高い部分でのシャウトなんてまさに「魂の叫び」という感あり。「感動」の一語。さらに"LOSER OF THE WORLD"、"JEALOUS GUY"とドニーの真骨頂とでもいうべき曲が続き、私はクラゲ状態に成り果てた。
今でもときどき、あのドニーがあの声を出すというのが不思議に感じられることがある。昔、まだよくバンドのメンバーがわかっていない頃は、チップがあの声を出しているんだと思ってた。それほど顔に似合わないドスの効いた声なのだが、ただそれだけじゃなくて「色」や「艶」がある。野外ではその微妙な部分がどうしても飛んでしまいがちだったが、この夜は堪能できた。
髪が汗で額に貼りついてしまい、それを無造作に指でかきあげる姿もひたすら美しい。夢中になってくると腰を浮かせ、マイクを引き寄せながら歌う。まさに歌の世界に入り込んでいる。彼にとって歌うってことは、こういうことなんだ。
途中で飲んだ水のボトルを無造作に傍らに置くと、はずみで倒れてしまった、もちろんドニーはまったく気づかない。が、すぐにチップが気づいて直してあげる。そのさりげなさに、ふたりの関係の長さ、深さを見たような気持ちになったのは私だけではないだろう。母親が子供の失敗をごく当たり前に始末するようだったのだ。思うにチップ&ドニーの組み合わせというのは、天才肌でまわりの細かいことになど気が回らないドニーをチップがさりげなくフォローするという形で続いてきたのかもしれない。
ところでこの日、どうもバンドには時間制限が設けられていたらしい。8時30分近くになったころから、ドニーが頻繁に腕の時計を見るようになってきた。本編終了のときも「もう時間だよー」って感じのMCが入った。これ、すごーくいやだったなあ。目の前で思い切りうっとりさせるような歌を歌って、こっちがとろけてしまいそうなときに、いきなり右手を持ち上げて時間を見るんだから、興ざめしてしまう。それも一度じゃなく何度もだったんだから(・_・)。
アンコールの拍手をしながら袖のほうを見ると、なにやら髪が異様に多いシルエットの人物が、ギターを肩から下げて待機している。あれ? 誰だろう? と思って見ていたらドニーの紹介で登場したのは、なんとスティーブ・スティーブンス! え〜? どうして〜? 彼をフューチャーしての"MONY MONY"では、ギターから解放されたドニーが思いきりステージを暴れまわった。まるでビリー・アイドルが乗り移ったかのように、ステージに膝をつき、胸を反り返らせて歌ったりしている。素肌に着た革のベストがめちゃめちゃかっこいい!
そしてとうとう最後になってしまった。おなじみ"REVOLTION"は確かにかっこいいけれど、でもでもとうとう"MARY ANNE LOST HER BABY"をやらなかったよ〜(;_;)。スティーブのファンには悪いけど、彼さえ来なければ絶対にやってくれたと思うと、恨む気持ちを隠せない。
場内アナウンスが始まって片付けが始まっても、誰も帰ろうとはしなかった。後ろからの圧迫もまったく軽くならない。もちろん私も隣りにいた友人たちも、このままじゃ絶対にいやだと本気で思って叫んでいた。あんなに本気でアンコールを願ったのは初めてだったかもしれない。もはやあの時点で"MARY ANNE 〜"をやってくれるだろうとは思っていなかったが、このままさよならするのはいやだという思いに駆られていた。ステージ前で写真を撮っていたカメラマンたちも、いったんは帰ろうとしたものの、あまりの拍手の激しさに様子をうかがっている。この勢いだとひょっとしたらもう一度出てくるかもしれないと思ったのだろう。
そして、とうとうメンバーが登場した。しかも浴衣姿で(^^;)。チップなんてキャミソールの上に着ている。きっとこれがチッタでのドレッシングガウンなのだろう。みんなシャワーを浴びたあと浴衣に着替えて休もうとしていたのだろう。が、拍手がいつまでたっても鳴り止まないので出てきてくれたのだ。
すでにアンプのスイッチなどは切られてしまっているから、演奏しようにも出来ない。私たちもせめてもう一度顔を見て、挨拶だけでも聞ければいいと思っていた。が、なにげなくピアノのほうに歩いていったドニーがちょっと鍵盤を叩いてみて、「あ、音が出るや」といった感じでにっこりと腰を降ろした。そして(なぜか)かぶっていたカウボーイハットを脱いで歌い始めた"GOODBYE"。まさにこの時のためにあるような曲。メンバー全員がコーラスをつけている。なんて美しい別れの曲だろう。
慣れない浴衣姿で裾を気にしながらピアノに向かって歌ってくれたドニーの姿を見ていたら、「もうこれでいいわ」という気持ちになれた。あそこで出てきてくれなかったとしたら、しばらく泣いて暮らしたかもしれない。
心からの拍手に送られて、メンバーは去っていった。ドニーの「2か月後に会おう!」という謎の言葉を残して。
SET LIST
- NEW THING
- HEAVEN OR HELL
- KISS THE CLOWN
- AIN'T IT FUNNY
- TAKIN' A RIDE
- WE'RE ALL ALIGHT
- ROCK N' WORLD
- BLUE ISLAND
- RIGHT BY YOUR SIDE
- TIME TO LET YOU GO
- BABY LOVES YOU
〜RICKY'S DRUM SOLO〜
- INNOCENCE
- LOSER OF THE WORLD
- JEALOUS GUY
- FLY HIGH MICHELLE
- WHEELS
- BABY YOU'RE THE GREATEST
- COME TOGETHER
-ENCORE 1-
- FREAK
- MONY MONY
- REVOLUTION
-ENCORE 2-
- GOODBYE