Bon Jovi Final Live In Japan (May 18-20,1996)
PART 4
感動の渦に巻き込まれてぼんやりしてるところに聞こえてきた"BLAZE OF GLORY"は、なにやらとっても穏やかに聞こえる。スクリーンにビデオクリップの映像が流れるのを、ぼーっと見ながらしばらくの間、一度死んだ自分の復活を待った。
やっと元の調子にもどったかな、と思えたところでジョンがギターをもってマイクの前に立ち「ここでちょっと楽しいことをしよう」と言い出した。なんだろう? 掛け合いのあるあの曲かなあ、なんて思ってるところに我が耳を疑うようなお言葉。「THIN LIZZYの"THE BOYS ARE BACK IN TOWN"だよ!」
きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
うそ、うそ、うそと叫んだけれど、始まったのはまさにあの曲。今年のお正月、フィル・ライノットの没後10周年記念コンサートを見るためだけにダブリンまで行ったとき、内心ジョンが来てくれることを期待していた。でも、結局、ジョー・エリオットは来たけれどジョンは登場しなかった。コンサートそのものは楽しかったのだけれど、それがとても心残りだっただけに、いまここで、あの曲が聴けるなんて夢を見てるんじゃないかしら? BON JOVIがカヴァーしているからと興味を持って聴き始め、本気でハマってしまったTHIN LIZZY。その元々の曲をいまこうして初めてBON JOVIの演奏で聴くことができた。
メンバー紹介を最後につけて曲が終了したとき、息もたえだえに椅子の上に倒れてしまったの無理はないでしょ?
興奮しきった気持ちを鎮めるように"THIS AIN'T A LOVE SONG"が始まった。きのうまでやらなくて、聴きたい聴きたいと思っていた曲なのに、最初のほうはあまりにも驚きと感動が続きすぎたもので、わかがわからなくなっていてボーッとしてしまう。2フレーズくらい聴いてからようやく我に返った。あわててペンライトを出してきて、頭の上で振り始める。
肉眼では細かい表情まではわからないから、ここいちばんというところではついつい横のスクリーンを見てしまうのだけれど、そういうときのジョンの表情ってほんとにほんとに美しい。自分がどうすれば美しく見えるかと知りつくしていて、それを最大限に利用しているのだけれど、それがちっとも嫌味に見えないところが本物のスターなんでしょうね。
彼の場合、ナルシシズムみたいなものはこれっぽっちもなくて、ただただファンを喜ばせ、感動させようという意志がそうさせているように思えるからかもしれない。
特に今回は映画に出演した直後ということもあってか、彼の表情にちょっと妖しい色気が感じられて、思わずゾクゾクっとしてしまった。
アカペラの"BECAUSE THE NIGHT" に続けて演奏された"DAMNED"では、リッチーのコーラスがわざとか間違いか、アルバムとは全然違う音程になってた。それでも平気でつなげていっちゃうところがすごいよね。
このあと、"THESE DAYS"のピアノの調べにのせたジョンの長いMCが涙ものだった。きょうが日本でのツアーの最後で、これが終わるとヨーロッパツアーに出て、しばらく戻ってこられないこと。今回日本のファンが温かく迎えてくれたことをとてもとても感謝していること。
そう、このツアーが終わったら、あと4年はツアーをしないと言っている彼らだから、今夜が終わったら当分は会えなくなってしまう。
そして……「夢を持ち続けようとがんばってる人たちに捧げる」と言って曲が始まった。この曲、最初にアルバムを買って聴いたときには、わりとありふれたバラードだと思っていたのだけれど、聴けば聴くほどに深みが増していって、いまでは大好きな曲になってしまっている。その曲をこんな場面にもってこられて、これが泣かずにいられようか。最後にジョンがハーモニカをとりだして吹き出したときには、胸が詰まって何も考えられなくなっていた。
ああ、そしてアカペラで歌い出したこのメロディは……今回のツアーでは最後の曲になってしまってる"LIVIN' ON A PRAYER"。最後のサビのところをファンが大声で歌いきると、ジョンが低い声で「どうもありがとう」と丁寧に挨拶した。客席からは悲鳴とも歓声ともつかない声が上がっている。みんなこれが最後だとわかっているから、大好きな曲を一緒に歌える喜びと、これでお別れしなくてはならない悲しみが混じり合って、どうしていいのかわからないでいるんだと思う。ビデオクリップで憧れていた爆裂するパイロに興奮しながらも、心の中で「いやだいやだ、終わっちゃいやだ」と叫んでいる。
メンバーが引っ込み、ステージが暗くなっても歓声と拍手はなりやまない。なぜか花火も上がらない。夜空を切り裂くようにレーザー光線が交錯している。どうしたんだろう?
みんなが期待と興奮の極地に達したとき、ステージに人影が現われた。ギターを抱えたジョンがマイクに向かって「まだ家に帰る気にはなれないだろう?」と語りかける。静かなギターのつまびきで始まったのは"NEVER SAY GOODBYE"。
なんて心憎い選曲なの。みんな腕を空高く挙げてゆっくりと頭の上で揺らしている。ジョンの切々と歌う声にリッチーの声がハモり、夜空に吸い込まれていくようだ。アコースティックを弾くリッチーのギターソロがとても繊細で美しい。今まで、これほどまでに美しいシチュエーションでこの曲が歌われたことがあっただろうか。
これで終わりかと恐れていたのを笑ってしまいそうになるほど、当たり前の風情でメンバーは位置につき、次の曲が始まった。きのうは掛け声のとこが今いち盛り上がらなかった"SOMETHING TO BELIEVE IN"。この曲、「ヘイヘイヘイヘイ」という掛け声を客席からかけることで成立する曲なんだなあ、ってことをきのうWOWOWの放送で見ていて初めて気がついた鈍い私。
でも、きょうの客はそのへんもちゃんとわかっていて、ジョンやリッチーが腕を振り上げるのに合わせて一生懸命声を出していたのがうれしかったなあ。最後に長く長く掛け合いを続けて、その繰り返しでだんだん頭が麻痺して恍惚としてきちゃった。
で、その痺れたところに渇を入れるかのように激しく"HEY GOD"が始まった。この曲も、アルバムで聴いてたときには気がつかなかったけど、ものすごくヘヴィーでかっこいい。ジョンの動きも激しくて、タンバリンを叩きながら頭を振り回しているのを見て入ると、どこか具合が悪くならないかと心配になるくらい。でも、それに合わせて踊っているうちにこちらまで頭をぶんぶん振り回していて、そのうちに何もわからなくなってくる。ステージと客席の興奮が一緒になって、ぐんぐんぐんぐん熱気が上がっていって沸点に達したところでバシッ!と演奏が終わった。「今度こそさようなら」と言ってメンバーは去ってしまった。花火がドカンッドカンッと上がり、サッチモのしみじみとした"WONDERFULL WORLD"が流れた。最終日とあって、今までの倍くらいの量の花火が上がるのを放心状態で長めながら、素晴らしく充足した満足感と、「次に彼らに会えるのはいつになるんだろう」という哀しみとの両方をかみしめてしまったのは私だけではないだろうな。
アルバムよりずっと感動的だと思った"IT'S HARD TO LETTING YOU GO"、 薔薇の冠をかぶったジョンの映像がスクリーンに登場する"MY GUITAR LIES BLEEDING IN MY ARMS"、そして、初日にいきなり聴いて涙を流してしまった"I'LL BE THERE FOR YOU"(このとき、始まる前にジョンとリッチーが向かい合ってギターの音合わせをしたんだけど、そのときなにかをジョンに話しかけるリッチーと、それを聞いて笑うジョンの姿がそれはそれは美しくて、そのままフリージングして額に入れて飾っておきたいと思ってしまった)、そしてそして、きのう目の前まできて私をみつめ(←勝手に決めてる)、手を差し伸べながら歌ってくれた"ALWAYS"。
こうした曲が聴けなかったのは残念だったけど、きょうのセットリストは今回の横浜3日間の中では最高のものだったと思う。一緒に行ったBON JOVI初心者の友人が、曲もろくに知らないのに一緒になって腕を振り上げ、ジャンプしてしまい、終わったあと「ものすごく充実した3時間だった」と感動して言ってたくらい。これってすごいことだと思う。
ツアーを今後4年はやらないかもしれないってこと、そして日本でライブをするのもしばらくはないだろうということなどが、彼らの中に何らかの感情を呼び覚ましたんだろうなあ。
至福の3時間をありがとう! >ジョン、リッチー、ティコ、デビッド、ヒュー
そして……必ず必ず帰ってきてね。私たちはいつまでも待っています。