Aerosmith (March 14,1998 at Yokohama Arena,Kanagawa)
スティーブンは、若草色に白のプリントの透ける生地の長上着。こういう材質って豹柄と同様、いかにもスティーブン・タイラーというイメージでよい。この上着の後ろ裾を両手でもち、頭の上に天蓋のように掲げて、ギターソロを弾くジョーの頭の上に後ろからさしのべたときは、まさに一幅の(ちょっとエロチックな)絵のようだった。来日公演最終日ということもあって、スティーブンはかなり疲れていたように見えた。"LOVE IN AN ELEVATOR"の間奏部分で、ビデオクリップと同じようにステージに仰向けに寝転んで手足をばたばたさせるのだけれど、そのあとふだんだったら腹筋と背筋を使ってピョンと飛び起きるのが、この日は腕をつき、さらに少しよろけてから起き上がった。これを見て、ファンとしてはドーム2日ではなくて武道館7日間を望むけれど、体力的なことを考えるときついんだろうな、と悟る。
"FALLING IN LOVE"が終わるとスティーブンは、「ありがとう」のあとにいきなり「FIREFLIES(蛍)!」と叫んでセンター席右後方を指差した。一体なに?と思って振り返ると、後ろのほうにピンクの蛍光ライトを振る集団が。あんなに大勢、集団で来ているのだろうか? それにしても、なぜ今? ふつうはバラードのときにライターの代わりに使うものだと思うのだけれど。
今日の"SAME OLD SONG AND DANCE"は完璧といえる出来だった。途中のひとりブルースみたいなスティーブンの歌も、トムのベースの跳ね具合も。満足しきったように「トム・ハミルトン・オン・ベース!」と叫ぶスティーブン。
さて次だ。
「たくさんのファンレターをもらってるんだ。いろんな曲のリクエストもね。で、この曲は多分初めてのはずだ」
そういって始まった"SEASONS OF WITHER"。会場中からため息とも歓声ともつかない声が上がった。アルバムで聴くより数倍いい。スティーブンの声がずっと力強いし、演奏もよりヘヴィーになっている。トムが日記に「今でも"NOBODY'S FAULT"をやってるなんて信じられない。しかも、鉛(LED)よりヘヴィーになってる」って書いてたけれど、彼ら自身も昔の曲を今の力で再生させることを楽しんでいるのだろう。
実は、この"SEASONS OF WITHER"に「蛍」という歌詞が出てくるのだ。そして、例の蛍光ライトは、どうやらスタッフからセンター席後方のファンたちに事前に配られていたらしい。これは私の推理だが、多分この"SEASONS OF WITHER"をやることに決めたとき、「蛍光ライトを振ってもらうってのはどうかな」なんてアイディアが出たんじゃないだろうか。で、ステージから見てちょうどいい位置の席にいるファンに配った、と。ほんとうは"SEASONS OF WITHER"が始まる前あたりで振るようにスタッフがきっかけをつける予定だったのが、ちょっとした手違いで1曲早めに振らせてしまったか、あるいはスティーブンが1曲間違えてMCをしてしまったか、どちらかではないだろうか・・・?
"TASTE OF INDIA"は、きょうは文句のない出来だった。これまではセットリスト全体の中で浮いてるような気がしていたのだが、PAのせいだったのかも。ところで、この曲で上のパートを歌っているのはサポートのキーボーディストだ。近くで見るまで気がつかなかったのだが、実にもう精密なハモり。シャウトなんてスティーブン本人の声かと思ってしまうほど、よく似た声質なのだ。もちろんオーディションをして、そういう人材を選んだのだろうが。
それだけにチェックは厳しかった。コーラスが大切な個所にくると、わざわざキーボードの前まで来て、顔をみつめ合い、口元を見ながらタイミングを合わせている。そのうえ、ちょっとでも気に入らないと指を上げたり下げたり、読唇できるようにあの大きな口をさらに大きくあけて叫んだり。細かいったらない。「PERMANENT VACATION」のメイキングビデオで、ジョーイが泣きそうになるまで駄目出しをしていた完璧主義社スティーブンの姿がそこにはあった。才能に加えて、音楽に対するああいった真摯な姿勢があったからこそ、どん底から這い上がり、こうしてドームを満員にできるだけの人気を維持し続けていられたのだと思う。
この日の"PINK"は、スティーブンが呼びかける前にお姉さんが出てきて、帽子とサングラスとハーモニカだけ渡した。ピンクの羽根はなし。なんだ〜、せっかくピンクの服を着てきたのに〜。サングラスをかけたスティーブンはみんなに向かって叫ぶ。
「このサングラスの色は?」
「ピンク!」
「え?なに?」
「ピ〜ンク!!!」
「わっはっは。ミスター・クレイマー!」
ドコドコドコっとジョーイがバスドラを踏みつけ、スティーブンのハーモニカが始まる。この導入はかっこよかった。「オン・ザ・ギター! ミスター・ブラッド・ウィットフォード!」
"LAST CHILD"でのブラッドのソロも、この日がいちばんうまくいったと思う。
スティーブンのハーモニカで始まった"ONE WAY STREET"。これがもう最高だった。アルバムで聴いていたときには、これほどかっこいい曲だとは思わなかった。スティーブンはふだんとは違う、男っぽい中音域の声で歌っている。声だけ聴いていると、イアン・アストベリー(THE CULT)みたい。ブルース・フィーリングにあふれる演奏も素晴らしく、これはぜひライブ・ヴァージョンをなんらかの形で発表してほしい。
曲の途中でこっちのサイドウォークに来たトムは、前方に5歳くらいの可愛い女の子を発見。お尻のポケットにさしていた葉巻のようなものを、わざわざ手渡しであげていた。父性愛をくすぐられたか(^^;)?
ジョーのコーナーは、ちょっとした変更があったみたいだ。「この前ここでやってすごく楽しかったから、きょうもやってみるね」とジョーのMCが入って"RED HOUSE"をやったのだが、予定では"FALLING OFF"だったみたい。始める前にちょこちょこっと打ち合わせと音合わせをしていたから。それにしても、それだけですぐに変えられてしまうのだから、キャリアだわねえ。
「ベイビー、ベイビー、ベイビー」「ミスター・ベース・オン・ザ・ギター!」
スティーブンがトムを紹介する。確かにトムがギターを持っている。あれ、ではベースは?と見ると、ジョーがトムのピンクのラメのベースを抱えている。渋いジョーが派手派手のベースを持っている姿はけっこう笑える。演奏陣が音を合わせようとちょっとざわざわする。
「行儀よくしろよ」
ギターが"JUMPIN' JACK FLASH"のイントロを弾き始めた。スティーブンがすかず最初の1節を歌う。
「I was born in a cross-fire hurricane」
が、ちょっと歌詞に自信がなかったようだ。最後のほうは少し鼻もげら語になり、「だったと思うよ」なんて終わらせて"SICK AS A DOG"が始まっちゃった。残念。連中のSTONES、もう少し聴きたかったなあ。ジョーは途中でベースをスティーブンの肩にかけ、自分はギターをとりにいく。9日だったかな、ピックを渡すのを忘れていて、あとからあわてて持っていったのが微笑ましかった。
「みんながこうしてるの大好きだよ!」
スティーブンが腕を振り上げてみせる。どういう展開になるのかと思ったら、「さあ、やって!」と叫ぶなり始まってしまった"MAMA KIN"が! 憎い憎い、この進め方。会場は熱狂の嵐だ。が、最初のほうでスティーブンは歌詞を忘れ、ジョーたちのコーラスだけがむなしく響くのであった(^^;)。
"CRYIN'"でスティーブンが私のいるほうのサイドウォークに出てきて、アリーナ席のいちばん端に身を乗り出していた女の子を抱きしめ、軽く頬にキスをした。このときの回りの女の子たちの反応といったら・・・(^^;)。さらに、そのままステージ中央に戻るように歩き出したと思ったとたんに倒れ込む。すべて曲の起承転結に合わせた動きで、言葉も出ないほど(実際には「キャアー!」と叫んでしまったけど)タイミングよくかっこいい。そして、サイドウォークのモニターの上に置いてあったハーモニカをとりあげると、ほんの一瞬試し吹きをして、ハーモニカソロに入った。吹いている間、じーっとこちらをみつめる。私の周囲半径5メートルくらいの女性は全員、自分がみつめられているという錯覚にとらわれ、呼吸も忘れて立ち尽くした。
「してほしい」
いきなり言うから何かと思えば、
「こんにちわ」
あれ? なにか間違ってない?
「エヴリバディ!」
は〜い(^^)/゙
「イチ! ニ! サン!」
な〜んだ、これが言いたかったのね。
「ゴー!」
会場からいっせいに声があがる「1! 2! 3!」
それをきっかけに"DUDE"が始まった。タイミングぴったり! う〜む、ファンがああいうふうに叫ばなかったらどうするつもりだったんだろう? いやいや、彼らはそんなこと考えもしないのだろう。自分たちとファンとのつながりを確信しているのだもの。
アンコールで登場したスティーブンは、「君たちのことよく見えるよ。君も、君も、君も。キャア〜!(頭をかきむしってみせる)ってやってただろう?」
客席が近いものだから、スティーブンはうれしくて仕方がない。もっと前のときも、曲の途中で前のほうの客に向かって、「そんなに腕組みして突っ立て見てないで、ほら、こんなふうに腕を振り上げて踊りながら見てくれよ」というのを、すべてジェスチャーで言ってみせてた。しかし、あんな前のほうの席で腕組みして見てるファンがいるというのは信じられないなあ。ひょっとして会場整理員に言ってたのか?
「HERE COMES, HERE COMES(来たぞ、来たぞ)」"FULL CIRCLE"が始まった。
最後のフレーズは、スティーブンが歌いながら手回しのオルゴールの柄を回すのだけれど、そのときなにげなくジョーがそばにきて、向き合う形でオルゴールを支えた。それほど重そうでもなかったから、スティーブンひとりでも充分持てたんじゃないかとは思ったけど、でもこういう演出(?)が似合うのはこの2人くらいしかないという気もする。スティーブンはもちろんだけど、クールなジョーにも体のどこかに少年が住んでいるように見えるんだもの。
たとえばこのシーンをルークとダニー(お、いきなり)とか、キースとミックとか、あるいは想像するのも恐ろしいけどジョー(エリオット)とヴィヴィアンなんて組み合わせで再現しても、不気味なだけよねえ(^^;)。
"SWEET EMOTION"でショウが終わるのは何かものたりない、という気がしていたのだが、この日は"DAZED AND CONFUSED""BLUE CHRISTMAS"のあと"SWEET EMOTION"には戻らず、ジャムセッションのような形で盛り上げて終わったせいか、こういう終わり方もいいか、という気持ちになった。もっとも、自分自身が完全燃焼していたせいもあるかもしれない。
ただし、ジョーだけはまだまだやる気があったようで、なぜかいつまでもギターを弾いていた。その音を伴奏にスティーブンが「アイシテマ〜ス、ヨコハマ!」と叫んだ。
「日本は、ほんとうに俺たちによくしてくれた。みんなわかってるだろうけど俺たちはまた戻ってくるぜ! どうもありがとう! 神の御加護を!」
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