● Mail Magazine 日々のあわわ 2001年10月01日(月) 第29号
〜○。今日のあわわ〜〜○。〜○。〜〜○。〜○。〜〜○。〜○。〜
恋愛小説家
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ライターという商売がら、これでいいのか、と思うこともあるのですが、私 は、現代の作家の小説をほとんど読んでいません。一番、最近、読んだ現代の 作家の作品といえば、「ハンニバル」くらいでしょうか。好きな作家というと、 ジェイン・オースティン、マルセル・プルースト、井原西鶴、アントン・チェ ーホフとかなり昔に鬼籍に入った方ばかりです。本を読むのは好きですが、小 説以外の本、たとえばプルーストに関する本のように、脈絡なくその時々で自 分が興味をもった事柄についての本が多いです。
では、作家のインタビューの仕事が来たらどうするか、というと、編集部が 用意してくれたものや、図書館などで手に入るだけ集めて、まとめて読んだり しています。作家が、インタビューに応じてくれるときは、新作の宣伝のため だったりするので、その新作だけを読んでいればいいのかもしれませんが、予 備取材として過去の記事や作品にはできるだけ目をとおしていきます。過去の 記事や作品のことは、取材のときは話に出てこないことが多いのですが、新作 を知っているという以上の予備取材があるとないとでは、自分の心情も、イン タビューの充実度も違うような気がします。これは、作家だけでなく、ミュー ジシャンや俳優、監督などでも同じです。ライターはだいたい、そういう予備 取材をして本番のインタビューに臨んでいるのではないでしょうか。
さて、いくら作家の予備取材とはいえ、まとめて本を読むのは大変じゃない かと言われたことがあります。私は、現代の小説は読まないにしても、もとも と本を読むのは好きで速いということもあり、それほど大変だと思ったことは ありません。また、いままで取材させていただいた作家がエンターテインメン トを得意とする方がほとんどだったので、読みやすくおもしろい作品が多かっ たのです。仕事のためとはいえ、得した気分でした。
しかし、いままで一度だけ、困惑というか、大笑いというか、なんともいえ ない複雑な思いにかられたことがあります。ある女性タレントをインタビュー したときのことです。そのタレントさんは、女子アナウンサー出身で、最近で はワイドショーなどにコメンテーターで出ています。エッセイも執筆していて、 何冊か本も出しています。今思うと、タレント女子アナのはしりといえる人か もしれません。インタビューの資料として、担当の編集者が彼女の本を集めて 私のところへ送ってくれました。で、その本の中に、短編小説集があったんで すね。私は「小説も買いてるなんて、多才だなあ」と思い、まず、小説から読 みはじめました。ところが、その小説がすばらしいというかとんでもないとい うか、なんとも大笑いな代物だったのです。
それは10編くらいの短編小説からなっていたのですが、まず、登場人物が、 みんな美人でインテリで異性にもてもて。また、主人公にほれる男性というの が、みんなハンサムで華やかな仕事をしていて金持ち。男は身勝手で女は献身 的という性格もステレオタイプでジェンダーバイアスがばりばりにかかってい ます。出てくる小道具もブランドまみれです。お話はというと、うぬぼれやの 大スターに取材に行ったら迫られて、それを突き返すと、さらにほれられたり しちゃうとか、恋愛もののステレオタイプ。10編の中の一つか二つがそうい う話なら、まあいいのですが、すべてがそれだと、この人の引き出しはずいぶ ん少ないんだなあと思ってしまいます。しかも、その主人公たちには書き手で あるタレントさんの姿がいつもちらつきます。いや、ちらつくというよりは、 彼女そのもの、私はこんなにインテリですてきで男性にもてるのよと、なんだ か自慢話を聞かされているようです。
では、エッセイのほうはというと、恋愛とブランドに関するものがほとんど で、これも、意見を言っているようでありながら、実は自慢話と説教。「男性 にもてるには、女性は〜でなくちゃならない」という、その「〜」の部分には 自分のポリシー=自慢話が入ってて、おしつけがましいです。そのタレントさ んは実際に、インテリですてきでもてるのでしょう。それはよく分かったから、 もう勘弁して下さいと泣きたくなります。
エッセイも小説も書き下ろしではなく、いろいろな女性誌に連載されたもの をまとめたそうです。女性誌の編集者たちは、こんな稚拙な自己満足小説やエ ッセイの名を借りた自慢話を担当していて、具合が悪くならなかったのでしょ うか? また、読者はどう思ったのでしょうか? それとも、編集者も読者も こういう話をおもしろいとか、ありがたく押しいただくような心の広い人たち なんでしょうか? そんなこんなで、エッセイも小説も読んでいて、笑いで顔 は引きつるしお腹が痛くなりました。
しかし、こんなふうに思うのは私だけかもしれない。私に本を集めて送って くれた編集者はどう思ってるのだろう、ひょっとすると、感動して大ファンに なっているかもしれないと気になりました。日時の確認のために編集者が電話 をくれたときに、思いきって私は「作品は読まれましたか?」と聞いてみまし た。すると、編集者は声をくぐもらせつつ「ええ」と言います。「お気に召し ましたか?」とさらに私が聞くと、編集者は「あなたはどうでしたか?」と聞 き返してきます。私は、編集者もこの作品を気に入っていないのだなと分かり ました。そこで、私は正直に「大笑いしました」と答えました。すると編集者 の声がいきなり明るくなりました。
「よかったあ。実は私もなんです。私、本送った時にお手紙つけましたよね」
たしかに、本の包みの中には一筆箋に「今回の資料です。日時はまた追って 連絡します。よろしくお願いいたします」とありました。
「最初、その手紙に『気持ち悪くてゲロ吐きそうになるかもしれませんが、 仕事だと思ってがまんして読んでください』って書こうと思ったんです。でも、 私がそう思っても、あなたは感動して気に入るかもしれない。私の感想をおし つけちゃダメだと思って、事務的なことしか書かなかったんです」
「書いてくれてもよかったのに。ゲロは吐かなかったけど、笑いすぎてお腹 は痛くなりました」
「すみません。つらい思いさせて」
「仕事でもなければ、こういう作品を読む機会もなかったでしょうから、貴 重な経験をさせていただいて、ありがたくおもっていますよ。ホントに楽しみ ました」
「そういうふうに言ってくれると、ほっとします」
インタビューはどうだったかというと、こちらはスムーズにいきました。ふ だんから喋り慣れている方らしく、上手に応対してくれて、話す内容もきちん とまとまっていて、おもしろかったです。礼儀正しく、印象もよい人でした。 ただ、「小説をもっと書いてみたい」とおっしゃられたのは気になりましたが。 エッセイ以外にも、文章でもっと表現してみたいということらしいので、がん ばってもらいたいと思いました。
〜○。あわわ後記〜〜○。〜○。〜〜○。〜○。〜〜○。〜○。〜
先日、バックナンバーの確認をしていて分かったのですが、「日々のあわわ」 は昨年の9月10日に第1号を出していました。
ということは、いつのまにか1年たったんですね。早いものですね。
改めて、みなさん、いつも読んでくださって、ありがとうございます。
次回は10月14日(日)を予定しています。
これからも、どうぞ、よろしくお願いいたします。
真魚
e-mail:92104094@people.or.jp
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