日々のあわわ

● Mail Magazine 日々のあわわ 2000年10月08日(日) 第3号

〜○。今日のあわわ〜〜○。〜○。〜〜○。〜○。〜〜○。〜○。〜

フィレンツェの風に抱かれて(笑) その二

〜〜○。〜○。〜〜○。〜○。〜〜○。〜○。〜〜○。〜○。〜〜○。

 映画番組でポール・バーホーベン監督の新作「インビジブル」を 紹介していたときのことです。「インビジブル」は、透明人間にな った男性が、人に姿が見えないのをいいことにやりたい放題、人間 考えることはみんな同じなのね、バーホーベンってほんとうに欲望 むき出しの人間を描くのが好きなんだなあ、という作品です。その なかでふつうの人間が透明人間になっていく過程がありました。ケ ビン・ベーコンの体の筋肉や血管などが次々に、まるで皮を向くよ うにむき出しになっていき、最後に肉体が何もない透明人間になっ ていきます。そのシーンを見たときに最初に思ったのが「これって ラ・スペコラ博物館で見た人体模型にそっくりだなあ」ということ。 そうしたら、SF&ファンタジー映画雑誌「スターログ日本版 6 号」に「インビジブル」の透明人間になる過程はラ・スペコラ博物 館の人体模型を参考にした、というバーホーベン監督のコメントが ありました。やっぱり! さすがバーホーベン、「ショーガール」 で女を裸に剥きまくり、「スターシップトゥルーパーズ」で人間を ぶちぶちに切り刻んだ人は目の付け所が違いますね。そうです。す けすけの人体模型ならスペコラに勝るところはありません!

 

 ということで、フィレンツェの話の第二段は私の超推薦スポット、 ラ・スペコラ動物標本博物館です。以前、美術雑誌などで紹介され たのを読んだときから決心していました。フィレンツェに行ったら、 絶対にウフィッツィとスペコラは見逃すまいと。

 ラ・スペコラ動物標本博物館は旧市街からポンテ・ヴェッキオ橋 を渡ったアルノ川左岸、ピッティ宮殿の横にひっそりとあります。 私が参加したツアーにはスペコラの見学は予定されていなかったの で、自由行動の日に出かけました。前々日、ツアーについてくれた フィレンツェ在住の日本女性ガイドさんに「スペコラに行こうと思 っている」と話すと、彼女は美しい眉を顰めて「えっ、あそこは標 本オタクの行くところですよ」とばっさり。でも、実際に訪ねてみ て彼女の言ったことの意味がわかりました。たしかにすげー数の標 本! 動物標本博物館の名の通り、寄生虫から人間まであらゆる動 物のはく製や標本がおいてあります。といっても、人間の模型は本 物ではなくて、ろう細工なのですが、私の目当てはこのろう細工の 人体模型でした。

 いくつかの部屋を通って、寄生虫や昆虫や鳥や馬やゴリラなど夥 しい標本を見た後、最後の最後の部屋が人体模型の部屋です。優れ た職人によって18世紀に製作された人体模型は臓器や神経、筋肉、 血管などをすばらしく精巧に再現してあります。神経と血管だけの 全身像や腎臓や生殖器、乳房などの内臓ひとつひとつの断面の模型 などなど。つい最近まで医学のテキストにも使われていたというの も納得の緻密な細工です。

 全身像が何体かありますが、それぞれ、内臓や筋肉むき出しにし ながらポーズをとってたりするのが、なんだかほほ笑ましいです。 神経と筋肉だけの全身像はのけぞって「ある朝、気がかりな夢から 目を覚ますと、あれ、俺、筋だけになっちゃった。ビックリしたな あ、もう」と寝覚めの伸びをしているような感じだし、ガラスケー スに横たわる美しい女性像はお腹を開いて、臓器をむき出しにしな がらも腕をおりまげて、三つ編の髪をもてあそぶかのように手にし ています。女性像の表情が物憂げなのは、内臓がはみでているから でしょうか?

 人体模型の部屋の隣に、ろう細工の説明をしている小さな部屋が あり、ろう細工の地獄絵図のジオラマが展示してありました。天国 よりも地獄絵図の方が腕のふるいがいがあるのは、美術全般に共通 しているようですね。

 ラ・スペコラはあまり観光客も来ないようで、私が入館したとき にはスケッチに来ている女子学生がいたきりでした。人体模型を見 ていると、修学旅行で来たらしい子供たちがやってきて、部屋に入 ってくるなり悲鳴をあげてましたが、それ以外は物言わぬ標本だら けの静かなところです。日本人観光客であふれかえり、一大観光都 市になっているフィレンツェなのに、スペコラだけは、まだまだ知 る人ぞ知るという場所のようです。

 それでも、現地の人たち以外に、スペコラに興味を持つ人はいま す。さきほどのバーホーベンもそうですが、写真家の荒木経惟さん もフィレンツェ滞在のさいに、短い日程だったのにもかかわらず、 スペコラの人体模型を撮影しており、雑誌「噂の真相」の連載「包 茎亭日常」に写真を載せていました。

 そんなところなので、フィレンツェに行って時間があったら、ぜ ひ、スペコラを訪れてみてください。たぶん、あなたの脳裏にダビ デ像や「ヴィーナスの誕生」と同じくらい忘れえない映像をやきつ け、トルナブオーニ通のフェラガモで買い物するよりもよいお土産 話ができるでしょう。好んで聞いてもらえるかどうかは、分かりま せんが。

 

〜○。あわわ後記〜〜○。〜○。〜〜○。〜○。〜〜○。〜○。〜〜○。〜○。〜〜○。〜

 「羊たちの沈黙」の続編、「ハンニバル」ではフィレンツェが舞 台になる章があり、おなじみ人食いレクター博士がフィレンツェで 大活躍します。「ハンニバル」は映画化進行中で、4月にフィレン ツェのヴェッキオ宮殿の謁見の間で記者会見をしていました。原作 ではレクター博士はフィレンツェのあちこちの名所に出没しますが、 スペコラには行っていないようです。博士なら人体模型を好きそう なのに、せっかくアルノ川左岸に居を構えているのに。でも、彼く らいになると人体のことを知りつくし、味わいつくしているから、 いまさらただの模型には興味は持てないのかもなあ、などと、勝手 に想像しています。

 さて、次回の発行は10月22日(日)を予定しています。

 では、次もよろしくお願いいたします。

                            真魚

                   e-mail:92104094@people.or.jp

〜〜○。〜○。〜〜○。〜○。〜〜○。〜○。〜〜○。〜○。〜〜○。〜○。〜〜○。〜○。〜

--------------------------------------------------------------------------------------

このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』 を利用して

発行しています。http://www.mag2.com/ (マガジンID: 0000044074)

--------------------------------------------------------------------------------------

メールマガジン登録
日々のあわわ

メールマガジン登録

電子メールアドレス(半角):

メールマガジン解除

電子メールアドレス:

Powered by Mag2 Logo


過去帳の表紙へ戻る

目次へ戻る


 表紙へ戻る  ご意見、ご感想はこちら