2000年3月2日に東京オペラシティリサイタルホール
で初演された二胡とサヌカイトによる
悠久の時の歌について、当日のプログラムより転載します。
「悠久の時の歌〜二胡とサヌカイトに寄せて〜」
作曲 川崎 絵都夫
臼杵さんからサヌカイトの為の曲の依頼を頂いたのは去年の後半でした。
お話しを聴かせていただくと、二胡の姜 建華さんとの共演になる、との事
で、喜んでお引き受けしました。
姜 建華さんとは10年以上前に、映画「ラストエンペラー」のお手伝いの
現場で初めてお目にかかりました。その後も何度かご一緒そましたが、多くの
方々と同じように私もまた、姜さんのむせび泣くような二胡の音色と、たくさ
んの事を語り掛けてくる音楽性に魅了されています。
また、サヌカイトに関しては芝居の仕事で、無理を言って使わせて貰った事が
有り、有る程度は経験が有りました。これまたその神秘的と言って良い響きに大
変魅力を感じています。新国立劇場の開場記念公演で、鵜山仁さんの演出による
「リア王」の音楽を担当した時、稽古を見たり美術プランを見せて貰ったりする
内に、三木稔先生の曲で非常に印象的に使われているサヌカイトの響きが、思い
浮かびました。
老いたリア王の深い哀しみ。自分が本当の人の気持を見抜けなかった故とは言
え、受ける非道の数々。それが人間にとっては普遍的なもので有り、現代の我々
にも全く同じように痛感される心の動きである事に、強い印象を受け、自然にサ
ヌカイトの響きが浮かびました。
借りてきた数本のサヌカイトの音を稽古場で録音し、自宅のサンプラーに取り込
み作曲し、その響きは芝居の冒頭や、リア王放浪のシーンなどで圧倒的な効果を
上げました。
…というような訳で、気の遠くなるような時の流れを経て、今楽器として我々の目
の前に有るサヌカイトと、アラビアに起源を持ち、中国三千年の歴史の中で育まれて
きた二胡。この二つの楽器の出会いに、胸ときめかせる想いで一杯です。
サヌカイトの幻想的な響きに包まれて歌う二胡。
二胡の支えを得て、燦きの歌を奏でるサヌカイト。
両者が一つになり共に、又自らを主張しながら激しく歌う。
そんなイメージで作曲を進めました。
二つの、大変個性的な楽器の競演をじっくりとお聴きください。