小樽の植物

松木 光治


 道南の植物として小樽での、特別なものは無いが、気のついたものを少し述べてみよう。先ず天狗山だが、頂上まで車道が出来てから昔の野生の草や樹の観察が十分できなくなった。(標本は小樽博物館)

@ロープウェーの出発地点から左側の沢にはまだ野生の姿が見える。

○ツマトリソウ(褄取草)
Trientalis europaea L.
サクラソウ科
 妻でない。婦人和服の長い裾の歩行の時に、つまむ褄の事である。端取草とも書く。一見離弁花らしく見えるが実は合弁花で5〜7裂しているにすぎない。
○ギンリョウソウ(銀竜草、幽霊茸)
Monotropastrum globosum H.Andres
イチヤクソウ科
 腐生植物で笹藪の陰の薄暗い所に生える白い草で、植物だが葉緑素が無い。然し花も大きく種子も出来る。葉は鱗状で茎に沢山へばりついて葉の役目はしない。
○ベニバナイチヤクソウ(紅花一薬草)
Pyrola incarnata Fischer
イチヤクソウ科
 イチャクソウでない。可憐な穂状花序を一本出して肉紅色の花を下向きに10個位咲かせる。本州なら高山植物として珍重される。コイチヤクソウは別属である。
○エゾノバッコヤナギ(蝦夷婆柳)
Salix hultenii var. angustifolia Kimura
ヤナギ科
老婆を方言でバッコという。バッコヤナギとは別。ヤナギの類は花が区別点であるが、枝の樹皮をむいた時の木部肌の隆起線の有無が大切で、この柳にはそれが無いから区別出来る。葉脚基部不整が多い。
○アツモリソウ(敦盛草)
Cypripedium Yatabeanum Makino
ラン科
 極く稀に雑草の下に見られる。萼は3個で3個の花弁の下方のひとつが大きな袋状になっている。萼花弁みな紅紫色だが稀に白色のもある。袋は唇弁である。源平時代騎馬武士が背に布を負っていて、戦斗の時背中から馬の頭部まで包んで敵矢を防ぐが、平常馬が走った時風に背中の布が膨らむ。この布を母衣という。これにこの花の唇弁が似ているので此の名が出たもの。以前天狗山でクマガエソウを見た人があったという。これと同属だ。
Aオタモイから赤岩にかけて

○ヒカリゴケ(光蘚)
Schistostega pennata (Hedw.) Web. et Mohr.
ヒカリゴケ科
 赤岩の頂上から海方面に断崕を鎖で20mも降ると、岸壁の裂け目の暗い奥に光る植物を見るが、夏の或る時季だけであるが、此れは蘚類で、発光するのではない。胞子が発芽した絲状体に、見る人の背後から入った日光が反射して戻って来るのを見るのである。知床半島のは大きい洞窟だが、こちらはホンの岩裂にすぎない。
○オショロソウ(忍路草)・バシクルモン
Apocynum venetum var. Basikurumon Hara
キョウチクトウ科
 忍路の特産ではない。本道の日本海沿岸から東北地方の日本海沿岸で新潟県辺り迄の海浜に産する目立たない植物である。1m以下の草で小さい淡紅色の花が茎端に沢山咲く。バシクルモンとはアイヌ語で“鴉の草”の意といわれる。
○エゾヒナノウスツボ(蝦夷雛の臼壺)
Scrophularia Grayana Maxim.
ゴマノハグサ科
 忍路の兜岩の岩裂に生えている。北日本の海岸や樺太の海浜に生える。礼文島にもある。花は小さく赤褐色で目立たない1m以下の草である。葉が大型で尖頭心型で仲々魅力的な植物である。
○ピレオギク・エゾソナレギク(蝦夷磯馴菊)
Chrysanthemum weyrichii (Maxim.) Miyabe
キク科
 赤岩山道の頂上の岩にへばりついている低い白色の可憐な菊である。ピレオという地名は樺太50度近くの西岸にある。奥尻島でも見た。頭状花は10〜13個位輪状に並ぶ。
B札樽国道

○キクニガナ(菊苦菜)・チコリー
Cichorium inthybus L.
 キク科
朝里の国道で唯1株だけ見た。淡紫色の可愛い花。ノコンギクの花の先端は尖っているのに、これは横一直線だから注意して見れば解る。欧州原産の帰化植物でやがては殖えるだろう。若葉は食用に、根はコーヒー代用になる。苫小牧の路傍でも見た。
○タンポポモドキ(蒲公英擬)・ブタナ(豚菜)
Hypochoeris radicata L.
キク科
 20年程前に北大舘脇教授から朝里国道を注意すると出会うかもしれないと教えられ2〜3本見付けて喜んだ事があった。それが今、どうだろう、小樽市内全域に拡がって、物凄いひろがりようだ。俗名は豚の餌にしかならぬ意。此の花の冠毛が風に飛散するのを俗人がケサランパサランと呼んで不思議がって居た。葉の両面とも硬い黄褐色の毛を密生している。欧州原産の帰化植物である。花茎分岐する。
○エゾタンポポ(蝦夷蒲公英)
Taraxacum hondoense Nakai
キク科
 商大から旭展望台への道で2ヶ所で見た位で仲々見つからない。普通は見られぬ。市内いたる処で見るタンポポはみなセイヨウタンポポである。注意する処は花の外側の総苞でこれが外側へまくれ下がっているのに、エゾタンポポはみな直立しているから判明する。冠毛は蕚である。
○オクトリカブト(奥鳥兜)
Aconitum japonicum Thunb.
キンポウゲ科
 アイヌ語ではシュルク、中国ではブシ(附子)又はウズ(烏子)。全体が有毒だが特に根が猛毒である。アイヌ仲間では銭函附近のが強いというので噴火湾浜のアイヌが川を逆上り山を越え川伝いに銭函附近に降り、物々交換でここのトリカブトの根を得た話が残っている。私が八雲アイヌの酋長から話では根を噛ると口から体中に痺れがひろがり窒息して死ぬと語った。若葉をニリンソウ採集の時混入していたので事故を起したりする話が新聞に出る事がある。紫色の花の上方の帽子形をしたのは蕚だが雅楽人の冠に似ているから伶人草の名が生じた。種類も多い植物である。葉の分裂状態が分類の目標になる。
○エフデギク(絵筆菊)・コウリンタンポポ(紅輪蒲公英)
Hieracium aurantiacum L.
キク科
 数年前入舟三丁目の雑草中に1本見た。翌年は沢山殖えていたが今は1本も無い。欧州原産。鮮紅色で1輪差にして見事である。葉茎ともに剛毛が密生しているのをロシア人の肌の様だとして俗にロスケタンポポと云った。

ボタニカ11号

北海道植物友の会