北海道植物データ処理システムの開発について(その3)

日野間 彰


(前報* より続く)

5.データ処理システムの作成
(1)データ処理内容の検討
 一般にデータベースの処理手順として“検索”、“照合”、“計算”、“出力”といったものが考えられ、それぞれの組み合わせによって様々なユーザー要求に応えられるシステム作りをめざすものであるが、ECPLANTではユーザーとその要求内容が限定されていることから、ひとつひとつの処理項目に応じて検索方法、演算内容、出力形式等を検討することとした。
 検討の対象とするデータ処理内容については、これまでのの植物調査におけるデータのとりまとめ方法を参考として、以下に掲げる6項目を選んだ。なお、これ以外にもデータ処理できる項目は多いが、そのようなものについては個別にプログラムを作成することにより対応することとした。
   ・植生調査票の作成
   ・素表の作成
   ・群落組成表の作成
   ・出現植物目録の作成
   ・植物分布図の作成
   ・類似度計算処理によるクラスター分析
 以下に、それぞれの項目について簡単に解説する。
@植生調査票
 植生調査票とは本来、調査現場において使用されるフィルドノートのことを指し、通常は図6(前出)に示すような様式のノートが用いられている。
 ここでいう植生調査票は、フィルドデータファイルに収められている調査スタンドのデータを図6に示す様式に近い形で再現して出力されたものを意味する。植生調査票を作る目的は、調査スタンドでの原データの内容を確認することにある。
A素表
 素表は、複数の調査スタンドのデータをひとつの表にしてお互いを比較するために作成される作業用の表である。素表は群落組成表を作成する前段階の作業である群落の区分と識別種の抽出の過程で使用される。
B群落組成表
 群落組成表は、いくつかに区分された植物群落のそれぞれについて、群落の内容を説明するために作成される表であり、通常は、同じ群落に所属する複数の調査スタンドのデータをひとつの表にして示す。
C出現植物目録
 出現植物目録は、特定の植物調査資料あるいは特定の地理的範囲内の既存の植物調査資料から、当該資料において出現の報告されている植物種をすべて抽出して分類学的に整理し目録としたものである。
D植物分布図
 植物分布図は、ある特定の種類の植物の北海道内における分布状況を、既存の資料から検索して作成したメッシュ地図である。
E類似度計算処理によるクラスター分析
 複数の調査スタンドのデータの中から、種組成の類似性を表わす指標である類似度を使って類似性の高い調査スタンドを選び出し、いくつかのグループに区分する計算である。この計算により階層的クラスターであるデンドログラム(樹状図)の作成や非階層的クラスターの作成ができる。
(2)出力形式の設計
 出力形式とは、検索や計算処理された結果を、目に見える形に表示または印字する場合の形式である。出力形式はプログラムによって指定されることから、プログラムの作成の前に設計しておく必要がある。出力形式については、処理条件設定データによりさまざまな形での指定が可能なように設計したが、ここでは標準的なものについてのみ紹介する。
@植生調査票
 植生調査票の出力形式は図6(前報参照)に示す様式に近い形で再現するという観点から、図8に示す例のとおり設計した。標準的に、植物名は原典のまま表示される。

A素表
 素表の出力形式については、群落の区分の検討における作業のやり易さを勘案して、標準的に、調査スタンドについては出現種数の少ない順に並べ、植物については正和名を用いて階層の高い順・出現頻度の多い順・積算優占度の大きい順に並べることとして図9に示す例のとおり設計した。

B群落組成表
 群落組成表の出力形式、すでに広く用いられている様式を参考とし、標準的に、調査スタンドについては出現種数の少ない順に並べ、植物については正和名を用いて識別種を先に並べ次にその他の種を階層の高い順・出現頻度の多い順・積算優占度の大きい順に並べることとして図10に示す例のとおり設計した。

C出現植物目録
 出現植物目録における植物名は、標準的に、正和名と正学名を用いて伊藤ほか(1985,1987,1990)における分類の並びの順に整理することとして図11に示す例のとおり設計した。
 また、複数の出典から出現植物目録を作成した場合で、出典別に出現の状況を見たい場合のために図12に示す例のような出典別出現植物目録を設計した。

D植物分布図
 植物分布図は、ある特定の植物の分布の状況を1:25,000地形図を1メッシュとする北海道地図上に示すように設計したものであり、その例を図13に示す。なお、植物分布図上に示された情報の原典を地図番号から調べることのできるよう、原典の一覧表も出力できるように配慮した。

Eデンドログラム
 デンドログラムについては、出力機器の能力の限界を考えて、図14に示す例のような設計とした。

(次報へ続く)

ボタニカ11号

北海道植物友の会