オオバクロモジとシロマダラ

夏油温泉でのウオッチング

村野 紀雄

 

 1993年秋、ついでがあって、かみさんと岩手県駒ケ岳山麓のブナ林の観察会に参加した。
 10月24日(日曜日)、観察会の集合場所は北上市郊外の入畑ダム。北上、盛岡、湯田、宮古などから50人ほどが集まったが、暴風雨のため当初予定の観察会は中止なり、その代わりにそこから10キロほど移動して夏油温泉の国民宿舎で、畏れ多いことに私たちのために有志による交流の会がもたれることになった。
 会が始められる前に一時間ほど、それぞれ温泉で身体を暖めてくることとなり、私は露天風呂に向かう女性グループについて雨の渓流に出た。渓流沿いに幾つもの露天風呂がある。それぞれ、温度や泉質が違い、まったくの露天のもの、小屋がけで、渓流側にしきりのないものなどいろいろある。それらを縫う小道は雨の中に紅葉を散らしてすてきな観察路になっている。
 ブナ、エゾイタヤ、ヤマモミジ、カツラ、オオバクロモジなどの枝振りや色合いは雨もやの中で風情があった。ブナは大木がまだあったけれど奥山でのの伐採はかなり進んでいるという。岩手でもそれを危ぐするグループがいくつか生まれ、クマやクマゲラも生存できる壮大なグリーンベルト運動が始まっている。そのブナの実のなりが悪く今年は里にでてきて殺されるクマが多いという。本道のブナとヒグマも同じ様な傾向だ。
 オオバクロモジは、道南でよく見ているのに初めわからなかった。弾性のある黒い小枝を折って、鼻に持ってくるとよい匂いのすることからそれと気づいた。黒い実が幾つかついていた。
 紅葉をたのしみ、いくつかの湯槽に手を入れてみたりして、かみさんたちは比較的大きな半露天の温泉にはいることを決めた。
 そして、みんなではいれば恐くないとか言って、かみさんを含む女ども4人が脱衣場に押し入る。
 あとで聞けば、湯槽には数人の男どもが待ちかまえていたが、湯槽の中心部を自然と彼女たちに譲って、というより片隅に追いやられて目をそらし続けたとか。
 時は雨の秋、落葉は湯槽の中にも入ってくる。彼女たちはお湯の中の落葉を足指で引っかけあげ、それを壁板に張り付けて、きれ込みが多いからハウチワだとか、北海道と同じイタヤカエデだとか品定めをし合ったという。かなり面白かったらしい。
 私はひっそりと静かな隣の建屋の温泉に入り、高い窓に木々の揺れ動くのを眺めていた。
 入浴が済んで、国民宿舎に戻る途中、両側に湯治客の宿舎が並んだ道で一人の男性が中腰になって路面を眺めている。なんだなんだと寄ってみると、胴の細い蛇がとぐろを卷いている。白い模様のあるかわいげな蛇なので、髭剃り用のプラスチックケースに収容し、ためつすがめつ観察する。
 はじめアオダイショウかシマヘビの幼生かと思われたがどうも違う。旅先でもあるので、湯田町在住の友人に預け、種名の確認とその後の現地放逐を託した。
 それから1月、岩手で1931年に平泉で見つかって以来のシロマダラということで、東北の何紙かに紹介され、今、岩手県博物館で大切に飼育されている。
 シロマダラは名の如く胴体に白いまだら模様がある。特に頭部後半の鱗は陶器のように白い。アオダイショウなどと同じナミヘビ科に属し夜行性でトカゲなどを食べるというが、身体が細いので本当にトカゲを食べられるのだろうかと思うぐらいである。ちなみに北海道にもいるけれども、最近では1989年に黄金湯温泉で一匹見つかっている程度の珍蛇である。
 そこで、みなさん、温泉に行ったら草花以外にも目を光らせて欲しい。珍蛇が見つかるかも知れない。

 

ボタニカ10号

北海道植物友の会