デビューシングル『Angel Walk』のB面の『赤いベスパで』に次のような一節がある。
「今日一日をあなたのためにとっておいたの。」
そんなセリフで心くすぐる、
君はフィービー
二人に二度目のサマータイム
……
そもそも、「今日一日……」というようなセリフを普通は思いつかないし、
思いついたとしても、それを違和感なく言わせられるような場面を、そうそう設定できるものではない。
それ以上に重要なのは「フィービー」という単語のことである。
この曲が出たのは映画「サタデーナイトフィーバー」がヒットして、
fever という単語が、風邪の熱だけではなく、一般的な熱狂の意味もある
という認識が定着してから3年ぐらい後のことで、
当時は、"employer"に対する "employee" の様な関係で、"fever" に対する"fevee"かな、と思い込んでいた。
もちろん、"fevee" という単語は辞書ではみつからないが、それなら彼女の造語かも知れないし、
彼女にはそう思わせるだけのバックボーンがある。
私が真相が推測できるようになったのは、この曲をはじめて聞いてから2年ぐらい後、
サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を読んでからである。
この小説の中に主人公の妹として、フィービーという少女が出て来るが、この少女なら、確かにあのようなセリフをいいそうな雰囲気を持っている。
またこの小説の知名度というか、女子大生に受けそうなタイトルからして、彼女がこの小説を読んでいても不思議はない。おそらくこのフィービーが念頭にあって、いつか曲のなかで使ってみたいと思っていたのではないか。
それにしても、この曲を初めて聞いたのが大学1年の冬、
「ライ麦……」を読んだのが大学3年の冬、真相がわかるまで2年がかかった。
しかも、もし「ライ麦……」を読まなかったら、いまだに真相を知ることはなかっただろう。
たった1曲でさえこうなら、LP1枚のなかにどんな秘密が隠されているかわからない。
後日談。
「フィービー」=「ライ麦……」を、個人的に「フィービー予想」と呼んでいたが、本人の直接回答で正しいことが明らかになった。
Subject: Re: 赤いベスパで
Date: Wed, 19 May 1999 16:17:59 +0900
From: "micco's web" (mitsuko-komuro@ibm.net)
To: mishima (kc2h-msm@asahi-net.or.jp)デビュー当時から私のことをご存知なんですね。
「赤いべスパ」には驚きました。ありがとう。本当に今となっては幻の曲ですね。
質問に答えると、フィービーという名前は、その通り「ライ麦畑」のフィービー
です。主人公が世界でただひとり愛した他者、フィービーは実際の世界には存在
し得ない無菌状態の心を持っていたのだと思います。