読書記録

1997(平成9)年7月〜12月



<凡例>
冊数タイトル出版社
読了日著者初版
評価コメント

<ジャンル分け>
理工系 人文系 文学 社会・実用書 未分類

No. 67
1997/12/26
小説TRIPPER 1997冬季号 週刊朝日別冊
  1997/12/7

「女探偵の読み方」「女性作家による女探偵短篇競作」 「文庫本特集 海外ミステリー/現代SF」等につられて買った。
浅田次郎の連載『天国までの百マイル』の続きが、ものすごく気になる。

 
No. 66
1997/12/19
The Tragedy of Y
Yの悲劇
創元推理文庫
Ellery Queen
エラリー・クイーン
1959/09/04

私が今回買ったのは第105版だが、この版数の多さが人気を物語る。
「本格推理の最高傑作」という歌い文句にかなり期待したが、 読んでみるとそれほどでもなかった。

  • 「F」の不可能性
  • 「十角館」の犯人の意外性
  • 「虚無」「匣失」の足元が音をたてて崩れ落ちるような崩壊感
等には、遠く及ばない。
というようなことを云ってはいけないのだろう。
これらは全て、「Y」を陵駕することを目的として書かれたのだから。

 
No. 65
1997/12/17
生命現象のダイナミズム ヒューマンサイエンス3 中山出版
石井 威望/小林 登/清水 博/村上 陽一郎 編集 1984/9/25

シリーズ中もっともページ数が多く、かつ technical term が多用されているため、
読了までかなり時間がかかった。

「意識・生命・座禅−−現代人のための精神医学」平井富雄
「生命と寿命」古川俊之
が印象に残った。特に後者の、生命を設計思想から解明しようという試みはおもしろい。

 
No. 64
1997/12/08
深夜の散歩 ミステリの愉しみ 早川書房
福永 武彦/中村 真一郎/丸谷 才一 1997/11/15

ミステリの書評というのは難しい。
何よりも、内容に触れることができない、というのが最大の制約であり、
簡単な感想だけなら、どこが面白いのかわからないし、
あまり詳し過ぎるとネタばれになってしまい、
Webで書評というか読書感想を公開している人は皆、その辺を苦労している。

そういう意味で、この本はミステリの書評の書き方の見本となる。

とにかく、全編、強烈におもしろい。
これを読んだら、普通の書評など読みたくなくなる。

 
No. 63
1997/12/03
情報システムとしての人間 ヒューマンサイエンス2 中山出版
石井 威望/小林 登/清水 博/村上 陽一郎 編集 1984/9/25

題材は、脳の情報処理とコンピュータ。
コンピュータ・人工知能の部分の対談で、俗信がいろいろ出てくるのが気になる。

 
No. 62
1997/11/30
ミクロコスモスへの挑戦 ヒューマンサイエンス1 中山出版
石井 威望/小林 登/清水 博/村上 陽一郎 編集 1984/09/25

先日、会社の資料室から、本の置き場所確保のための、旧資料廃棄の案内があり、
書籍、雑誌計200冊程のリストが添付されていた。その中には一度読んでみたいものもあったので、
「捨てるのなら下さい」というメールを出して、10冊程もらった。
そのうちの5冊が、このシリーズの全5巻である。
(他は、流体力学&カオス&フラクタル&ソリトン関係が4冊、六法全書1冊)

1984というのは、この本で取り上げられている話題がまだ出始めの頃で、
このような時点で、専門的な概念を一般にわかりやすく説明するというのは、
(その概念を説明するための道具立てが未整備の状態なので)ひじょうに困難を伴うことが多い。
ということを考え合わせると、このシリーズはかなり成功していると思う。
取り扱っている題材は、ホロンとしての人間、生命・生物等。

こういうのを読むたび、イリヤ・プリコジンの著作は読んでおきたいと思うが、
本屋に行くと忘れてしまう。

 
No. 61
1997/11/20
類体論へ至る道 初等数論からの代数入門 日本評論社
足立 恒雄 1979/12/15

昔読んだ本の再読。夏休みに実家から発掘してきたものの第1段である。

さすがに、昔読んだ時に比べて内容が簡単に思えた。
しかし依然としてわからない部分はわからない。

  • 11章 ヒルベルトの理論 〜 フロベニウス置換、ヒルベルトの理論
  • 12章 イデアルの分岐・分解、類体論とは?
のあたりは、今読んでも難しい。

 
No. 60
1997/11/12
本格ミステリ・ベスト100 1975→1994 東京創元社
探偵小説研究会[編・著] 1997/09/25

読書ガイドとして最適。ただし作品選出にあたって時期を限定したために、 (冒頭にも書いてあるとおり)森博嗣、西澤保彦、清涼院流水等は紹介されていない。

ミステリの紹介は、ネタばれにならないように気を使う。
いくら「以下ネタばれあり」の注を表記しても、同じページ内に記述されていれば、先に目が行ってしまうこともある。
だから、最初から話題にするべきではないと思っている。
「十角館」の紹介で、あれを云ったらおしまいである。佳多山氏の解説はかんべんして欲しい。
東野 圭吾の「放課後」では、幸いネタばれ表記に気づいたので、そこで読むのを中断できたが。

ところでこの時期で、小峰元の古代ギリシャ哲人シリーズが入っていないということは、
あれは社会派ミステリに位置づけられているのか。

 
No. 59
1997/11/12
放課後 講談社文庫
東野 圭吾 1988/07/15

もともとこの作品は特に注目していなかったが、上記60の中でネタばれがあり、 かつ、この作品は面白そうだったので、上記60を読了するため、 あえてネタばれ部分は読まないで、先にこれに手をつけることにした。

前半はずっと、こういう感じなら高校の数学教師も悪くないかな、と思いながら読んだ。 坊ちゃんの現代版と云えなくもない。しかし、結末のほろ苦さ……。

普通に読んでいたら、犯人は絶対わからないだろう。
(と書くと、これがヒントになっていろいろ穿った読み方をするかもしれないが、 それでも、わからないと思う。よってネタばれにはならないと判断し、あえて書く。)

これもドラマ化して欲しい。女子高生の目立つ役に内田有紀とか、 主人公役はSMAPの誰か(稲垣あたり)。高原陽子役は、絶対、佐伯日菜子
……にすると、トリック無しで、いきなり呪い殺してしまうかもしれない。
ミステリーではなく、ミステリアスというやつか。

わたし、あなたを、絶対に許さないわ。
ベールゼベブ ルキフェル アディロン ソエモセル ……

 
No. 58
1997/11/10
銀河英雄伝説[7]怒濤篇 徳間文庫
田中 芳樹 1997/11/15

イゼルローン奪還と老兵の死。

なんと、解説が川原泉(しかも「最も愛するキャラクラーはユリシーズ」……)。
「ユリイカ8月臨時増刊 総特集 宮崎 駿の世界」に寄せた諸星大二郎のコメントと並んで、 ファンへの粋な計らいといったところか。

次の第8巻は、いよいよあの事件……。

 
No. 57
1997/11/06
The Art of Fiction
小説の技巧
白水社
David Lodge
デイヴィッド・ロッジ
1997/06/15

『交換教授』『どこまで行けるか』の著者であれば、このような題材について何かシニカルな知見を示してくれるのではないか、 と期待して読んだが、内容は意外と正統的で教科書としてひじょうによい。
なんとなく触発されて、小説を書いてみたくなってくる。

アメリカの作家だと思っていた(ドナルド・バーセルミとか、カート・ヴォネガットの系列だと)。
まさか、イギリスの作家とは。

まさにタイトル通りの内容。
このタイトルに惹かれて読んでみようと思った人は、読んでみて損はない。

 
No. 56
1997/10/20
JavaScript ポケットリファレンス 技術評論社/td>
古籏 一浩 1997/07/05

この手の本はサンプルが命だが、この本のサンプルは具体的でわかりやすい。しかも、全命令に対してついている。 レイアウトも見やすく、まさにポケットリファレンスと呼ぶにふさわしい。

最近、言語系から遠ざかっていたが、これだけ数学関数があるのなら、 Webページ上で使いたくなってきた。 『数密』も『無限格子』も、インタラクティヴ性が無いのが今一残念なところだが、 これを使えば、ある数字を入れると、あっと驚くような大きな数字が、答として返ってくる、 という実際の計算の臨場性を演出することができる。例えば、Pell方程式なんかいいかもしれない。 オフラインでも動くので、時間を気にすることもない。今度やってみるか?

 
No. 55
1997/10/19
砂時計の七不思議 粉粒体の動力学 中公新書 1268
田口 義弘 1995/10/25

(詳細はこちら。)

水の入ったシリンダがあり、その底辺の側面に穴を開ける。
水は、最初は勢いよく吹き出すが、やがてその勢いは弱まる。
水の吹き出す運動エネルギーは、水面の位置エネルギーが置き換わったものであり、
その速度は水面の高さの平方根に比例する。これをトリチェリーの原理と言う。
要するに単位時間あたりに吹き出す水の量は一定でない。

では、どうして砂時計で時間を測ることができるのか。
(何故、砂時計は、単位時間に同じ量の砂が流れ落ちるのか。)

ロゲルギスト『物理学の散歩道』を思わせる。
第6章 粉粒体とは何か、の科学史観も秀逸。

 
No. 54
1997/10/17
星降り山荘の殺人 講談社ノベルス
倉知 淳 1996/09/05

各章の冒頭にその章の要約というか方向付けが示してある。
それらは全て正しく、それ故、ミスリーディングを誘う。
終盤が近づくにつれて、だんだん不安になってくる。

できればシリーズ化して欲しい。
(が、あのような結末にしてしまった以上、次作への繋げようがないか?)

 
No. 53
1997/10/15
ビジネスユーザのための エクストラネット活用 エーアイ出版
斉藤 孝 1997/09/11

仕事用。
概念的なことも技術的なことも一応網羅されていて、かつ見た目もわかりやすい。
机の上のPCが乗っていて、LANに繋がっていて、インターネットも見れれば、 グループウエアの社内メール、掲示板、スケジュールのようなものもあり、 さらには旅費伝票をワークフローで提出するよう要求されていて、 なおかつ、そのクライアント側をブラウザ上で動作するようにして、 イントラネット化、エクストラネット化する、
といった最近の自分のまわりの職場環境について、技術的なバックボーンを知りたいと思った時に最適の1冊。

 
No. 52
1997/10/11
地球音楽ライブラリー イエス TOKYO FM 出版
松井 巧 1997/09/25

Yesのディスコグラフィー。
Yesと聞いて、 Lonely Heart とか Rhythm of Love を連想する人には、
いわゆるオールドファンのこだわりは、理解不可能かもしれない。
しかし、いまさら特に目新しい情報はないにもかかわらず、ファンなら衝動買いしてしまうだろう。
ページをめくっていると、いろいろな思い出が甦ってくる。

このシリーズのラインナップを眺めていると、

こんなものを取り上げるぐらいなら、これをやってくれ!
という気分になってくる。
洋楽なら、RenaissanceMatir Bazar
邦楽なら、やまがたすみこ小室みつ子遊佐未森野田幹子
(すいません。ちょっと書いてみたかっただけです。)

 
No. 51
1997/10/09
密室 ミステリーアンソロジー 角川文庫
姉小路 祐/有栖川 有栖/岩崎 正吾/ 折原 一 /二階堂 黎人/法月 綸太郎/山口 雅也/若竹 七海 1997/09/25

最近のミステリーの傾向を知る上で、最適の一冊かもしれない。
やはり、有栖川 有栖は、語り口が洗練されている。
法月 綸太郎は、名前からベテラン流行作家を想像していた。
(「土曜ワイド劇場」原作、温泉&美人女子大生&殺人&時刻表トリック、 あたりを書いてそうな人、
って、ちょっと偏見が入っているかもしれない)。
しかし、

こんなの、アリなのか?

 
No. 50
1997/10/07
東大オタク学講座 講談社
岡田 斗司夫 1997/09/26

東大教養学部「オタク文化論」の講義録。一部はWeb上でも公開されている。
しかし、Web公開されていない部分に、かなり濃いものがある。

  • 第九講「ゴミ漁り想像力補完計画」
  • 第十一講「日本核武装論」
  • 第十三講「敗れざる『ゴーマニズム宣言』」
そのさわりを少しでも感じて見たいなら ここへ

 
No. 49
1997/10/02
哲学入門 生き方の確実な基礎 中公新書 140
中村 雄二郎 1967/09/25

普通の哲学入門書は、いわゆる「○○主義/思想」で括られて編纂されている場合が多いが、
その内容は一般に、日常生活で現れる「哲学的」とは、乖離がある場合が多い。
しかし、この本は違う。

例えば、各章のタイトルを並べてみよう。

哲学の再発見/対話と哲学的精神/自己とそれを支えるもの
科学と魔術/美と情念の世界/歴史的世界と制度/
自我と人間とを超えるもの/哲学と日本人
このタイトルを見て、いろいろ語りたくなるテーマもあると思う。
そのテーマについて古今の思想から例証する場合、どの思想/誰の名前が思い浮かぶだろうか?
そして、その思想・人物は、最初に述べた「○○主義/思想」で足りるだろうか?

前にも云ったが、このような思索の過程こそが「哲学する」という言葉が意味しているものだと思う。
つまり、何かに疑問を持ち、それについて考える。
その過程で、いろいろな思想に出会い、思考の道筋が構築される。
そして自分なりに答えが見つかり、一つの体系が形作られたちょうどそのとき、
実はその体系が、以前に他の研究者によって考察され尽くしたものであり、
自分が抱いた疑問が、自分個別の問題ではなく、普遍的な問題であったという事を知り、
あらためて、その問題を考え直すようになる。そうして、思索が深化される。

各章のタイトルと、初版の出版年月を、もう一度見比べて欲しい。
このテーマの選択が、現在においても少しも古くなっていないことに驚かされる。

 
No. 48
1997/09/18
サイエンス・パラダイムの潮流 複雑系の基底を探る 丸善ライブラリー740
黒崎 政男 編 1997/08/20

下記「Inter Communication No.22」が駅の書店で見つからなかったので、かわりにこれを買った。
全体に軽めの本だが、「第五章 脳の世界」は、『脳とクオリア』と関連するところがあり、 少し頭の疲れが戻って来るような気がした。
ちなみにこの人の奥さんは井辻朱美である。ふだん、どのような会話をしているのだろうか?

 
No. 47
1997/09/15
匣の中の失楽 講談社ノベルス
竹本 健治 1991/11/05

この本の文庫版が出たのが、1983年。
文系、教養部、理学部等の生協書籍部でほぼ毎日のように背表紙を目にしていたはずなのに、 これほどの作品にまったく気付かなかったとは、自分の目は節穴だったのだろう、と思わざるを得ない。
今は何も書けない(とにかく疲れた)。少し落ち着いたら何か書こうと思う。

 
No. 46
1997/09/13
Inter Communication 季刊インターコミュニケーション No.22 NTT出版
NTT出版 1997/10/01

特集 科学にとって美とはなにか(Beauty According to Science)
「科学の先端と芸術の先端の交流は、ものの新しい見方、関係の再発見にどのように貢献できるのか」
パラパラめくって、上野健爾、イリヤ・プリゴジン、そして、黒崎政男の 「哲学者クロサキはカオス系の海を泳ぎきるか」に対する書評等が載っていたので、 仙台から東京への新幹線の中で読む雑誌、と思って買った。
上記黒崎氏の本は、もともとこの雑誌で連載されていた文をまとめたものらしい。
歌田昭弘の「インターネット・ライブラリーの時代を迎えて」で紹介されているテッド・ネルソンによる ハイパーテキストを用いた「ザナドゥ」という巨大出版収蔵庫のアイディア (ハイパーテキストが本というシーケンシャルな記述形態を打破し、本来的な知の表現をそのまま実現する)は、 私がWebを開くにあたって述べたこと とまったく同じであり、ひじょうに興味深かった。

 
No. 45
1997/09/11
銀河英雄伝説[6]飛翔篇 徳間文庫
田中 芳樹 1997/09/15

つかの間の休息から混乱へ。あまり後味の良くない、爽やかさに欠ける展開。
作者がよく使う表現で云うなら「散文的な展開」。

次も、2ヶ月後であろう。だんだん、あの事件が近づいてくる……。

 
No. 44
1997/09/09
動画王 Vol.02 スーパー魔女っ子大戦 徳間文庫
キネマ旬報別冊 1997/07/14

題材は網羅的に集めてあるが、いわゆる通史的ではなく、個々の題材の扱いの比重の違いに こだわりが見られてよい。
これがきっかけで、りりかも一応録画しようか、という気になったし、また、 志賀真理子の死という哀しいニュースも知ってしまった(しかも8年前とは)。

アニメだけでなく『日曜早朝不条理シリーズ』も扱っている。
せっかくとりあげられている「エコエコアザラク」が、この本が出た時点では放送中止となってしまったのは残念だった。

 
No. 43
1997/08/31
入門 六法全書の読み方 日本実業出版社
渡部 喬一 1992/05/20

最近、突然、法律に興味を持った。それで小六法を買ったのだが、如何せん、何が書いてあるのかよくわからない。
個々の条文や用語が解らないのではなく、全体の構成とか、要するに何が書かれているかを概観する部分が無く、
数学で云うなら、公式辞典を買ったようなものである。
(「公式辞典があれば、公式を当てはめて、問題が解けるじゃないか」、と思うかも知れないが、
 公式を当てはめて解けるような問題は、最初から解かれているのであり、それは公式の一部である。
 そもそも、個々の問題の答えを知りたいのではなく、それを含む体系が知りたいのだ。)

それで、この本を選んだ。
たいていの本は六法のうちのどれかだが、これは一応、六つとも触れている。
これ以上知りたければ、更に個別の解説書を読むということになる。

 
No. 42
1997/08/19
脳とクオリア なぜ脳に心が生まれるのか 日経サイエンス社
茂木 建一郎 1997/04/24

(長文なので、詳細はこちらに記した。)

クオリア( qualia <quale の複数型>)[哲学用語]:

  1. 特質:事物とは独立して存在する普遍的な本質
  2. (明確な特質を持つ)感覚データ
――ランダムハウス英和大辞典第2版(小学館)より 我々の外界に対する認識は様々な質感(クオリア)に溢れている。

しかし、認識とは、我々の脳の中で起きている現象である。
この脳の中で起きている現象とは、ニューロンの発火、という単純な現象に尽きる。
これは細胞膜電位が、ある一定の閾値を取っているか否か、という二値のうちのどちらかの状態であり、
それ故(著者は触れていないが)、脳という分子機械は、万能チューリングマシンと等価である
平たく云うなら、ハードウェアとしての脳は、コンピュータと等価である

その脳が認識している、かくも豊かなクオリア。

優れた科学啓蒙書は、何故これ程までに面白いのか?
ペンローズの 『皇帝の新しい心』 と併せて、
この本は、何年かに1回出会う、絶対に読むべき価値がある本である。

特にシンジ君は、絶対これを読むべきであると思う。疑問が深まるだけかもしれないが。

 
No. 41
1997/08/06
まどろみ消去 講談社ノベルス
森 博嗣 1997/07/05

ほとんど雑誌並みのペースで刊行される森ミステリーの第6弾。
Web上の本人の執筆報告に加えて、多くの人の読書日記によって事前に情報が入ってしまうので、
逆に、不用意に前提知識を得てしまわないように、普段以上に気を使う。

よかったのは『誰もいなくなった』。やはり、萌え萌えシリーズは安定感がある。
『何をするためにきたのか』。ラストで、最初の無意味とも思える単調な生活の持つ意味がわかって、笑えた。
『純白の女』『心の法則』。 いわゆるサイコミステリー。それとも魔術的リアリズム(Magic Realism)か?
(って、ちょっと言い過ぎ)。TVの深夜枠で見ると、はまりそうである。
そして『キシマ先生の静かな生活』
ある人が、自分の現在の境遇に関するカリカチュアのように思える、というような主旨のことを書いていたが、
私は、これは『純白』や『心』のコンテクストで解釈すべきだと思う。

全体的に云うと、可もなく不可もなくといったところ。『F』や『笑数』程のインパクトはない。
最初に読むべきではないだろう。
ちょうど、ラファティの前評判を聞いて、いきなり 『イースターワインに到着』 に手を出して、
「よくわからないが、これはおもしろいのだろうか」と当惑する感じに似ている。

ただ、はっきりしているのは、彼はこれを書きたかったということ。
自分が自分に対して思っていることと、他人が自分に対して思っていることは、必ずしも一致している訳ではなく、
微妙なずれが、微妙であるが故に、致命的である場合があるという好例。
コナンドイルは本当は『ロストワールド』『マラコット深海』『毒ガス帯』を書きたかった。
ホームズは単なる生活のための一手段だった。
佐山聡とタイガーマスク、エヴァの25話・26話にしても然り。

 
No. 40
1997/07/31
ロシア紅茶の謎 講談社文庫
有栖川 有栖 1997/07/15

これは、ひじょうに面白かった。本屋でなんとなく衝動買いしたのだが、収穫といってよい。
暗号ものを読むのは久しぶり。
語り口が洗練されている。まさにエンターテイメントといった感じ。
偶然買ったものだが、運よく国名シリーズの第1作ということで、また、金と時間が飛んでいきそうである。

 
No. 39
1997/07/25
九マイルは遠すぎる ハヤカワ・ミステリ文庫
ハリイ・ケメルマン 1976/07/31

いろいろな本で「叙述ミステリの傑作」と紹介されている。
「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の中となるとなおさらだ」
という文章のみから、ありもしないストーリーを組み上げたように見えたが、それが実は、……
という推論の冴えが見所ということである。
長編を期待していただけに、この最初の短編については、少し期待はずれの感じがした。

……が、しかし、1編ごとにだんだんその語り口にはまってくる。

特にラストの『梯子の上の男』がすごい。
本当に最後の一言で結論が得られるようになっている。

 
No. 38
1997/07/22
魔法飛行 東京創元社
加納 朋子 1993/07/16

前に『ニューウェイヴ・ミステリー読本』でブックレビューを読んだ時から、読みたいと思っていた。
今回、運良く古本屋で見つけたので、即入手した。
こういう、殺人のないミステリーというのはいい。
虚構の世界とはいえ、なんで人を殺さなきゃ物語が成立しないのか、という疑問を抱かなくて済む。
ミステリーというよりも、ミステリー仕立てのジュブナイルという感じ。

 
No. 37
1997/07/19
暗号 ポストモダンの情報セキュリティ 講談社選書メチエ 73
辻井 重男 1996/04/10

最初この本が出た時一応中を見たが、暗号のアルゴリズムについて、 自分にとって特に新しい情報がなかったので、買わないこととした。
今回読んだのは、会社でたまたま入手できたからである。
しかし、あらためて読んでみると、暗号適用のためのプロトコルの部分について、 いろいろ得るところがあった。
それにしても、これからの社会、ただ単に生活するにも、 手順がいろいろ複雑になっていくものなのか。

 
No. 36
1997/07/15
十角館の殺人 講談社ノベルス
綾辻 行人 1987/09/05

最近の長編指向に慣らされたせいか、長さ的に少し物足りなく感じた。いわゆる遊びの部分がないせいか。
しかし、構成はうまくできている。
犯人が自分の名を名乗った時点でも、その人が犯人だとはわからなかった。
あらためて全体を読み直してみると、ちゃんと「∴」を導き出すための事実が提示されており、みごとなまでの予定調和の世界になっている。

これを読み始めてすぐ思い出したのは、「アフタヌーン8月号」の『孤島館殺人事件』。
たぶん『十角館』を元ネタにしていると思われる。 そう思って『孤島館』を眺めると、なんとなく、というよりも、明確に、ストーリーがわかってしまった。
9月号が楽しみである。

と、ここまで書いておいてこんなことを云うのもなんだが、Webでいわゆる日記とか書評を読んでいて、 「トリックが途中でわかった」等の記述が、一番読んでいてつまらない。
書く方は、自分がわかったことを意志表示したいかも知れないが、読む方にとっては、そんなことはどうでもいいのである。
にもかかわらず、自分でも書いてしまった。
やはり、問題が自力で解けたことがうれしいのである。これは普遍的な快感だろう。

この本(というか作者)を私に紹介してくれた方へ。
大変おもしろかった。紹介してくれてありがとうございました。また、金と時間を大量に使ってしまいそうです。

 
No. 35
1997/07/12
術語集 II 岩波新書
中村 雄二郎 1997/05/20

元々、中村雄二郎を読み始めたのは、インターネット上「OPEN DOORS」での連載を見たのがきっかけだった。
そこに書かれていた「共振」という言葉に対する小文を読んで他の著作も読みたくなり、
『術語集』と『知の旅への誘い』を探し出した。期待は裏切られなかった。

収録項目の並べ方は辞書式にあいうえお順なのだが、何故か、それが思惟的な、
よく練られた絶妙の配置に見えてくるのが不思議である。

今回の項目は以下のとおり。

悪/アニミズム/アフォーダンス/安楽死/イスラム/インフォームド・コンセント/
ヴァーチャル・リアリティ/老い/オートポイエーシス/オリエンタリズム/顔/カオス/
記憶/共同体/グノーシス主義/クレオール/宗教/儒教文化圏/情報ネットワーク社会/
人工生命/人工知能/崇高/世代間倫理/テクネー/哲学/日本的霊性/脳死/恥の文化/
ヒトゲノム/秘密金剛乗/ファジー集合/フェミニズム/複雑系/ボーダーレス/ポストモダン/
免疫系/物語/弱さの思想/リズム/歴史の終わり

『術語集』の収録項目も、ついでにあげておこう。

アイデンティティ/遊び/アナロギア/暗黙知/異常/エロス/エントロピー/仮面/記号/
狂気/共同主観/劇場国家/交換/構造論/コスモロジー/子供/コモン・センス/差異/
女性原理/身体/神話/スケープ・ゴート/制度/聖なるもの/ダブル・バインド/通過儀礼/
道化/都市/トポス/パトス/パフォーマンス/パラダイム/プラクシス/
分裂病(スキゾフレニア)/弁証法/暴力/病い/臨床の知/レトリック/ロゴス中心主義

読み方としては、上記用語の意味を知るために読むのではなく、ふだんから上記用語についていろいろ思うところがあって、機会があったら文章としてまとめようと思っている場合に、これを読むとその着眼点・論旨の相違がひじょうに刺激になる、そういう読み方が適していると思う。 いわゆる普遍的な辞書としての用語集とは思わない方がいい。

これらの本が売れすぎた反動か、旧著『問題群――哲学の贈りもの』が全然見つからない。早く重版して欲しい。

 
No. 34
1997/07/09
銀河英雄伝説[5]風雲篇 徳間文庫
田中 芳樹 1997/07/15

常勝 vs 不敗の正面激突。OVA第2期の終局。
既刊5冊のうち、解説が最もおもしろい(これは収穫だった)。
今回は2ヶ月待った。次も、2ヶ月後か。

 
No. 33
1997/07/06
コンピュータ ワンダーランド 驚異と快楽の電脳迷路 白揚社
クリフォード・A・ピックオーバー 1996/10/25

いろいろ豊富で、なんとなく衝動買いした。
いわゆる「コンピュータアート」にかなりの重きを置いているが、 特になくてもよかった、という気はする。
「第46章 ミニウースのベーコン」が圧巻。久しぶりに密度の濃いSFを読んだ。

 
No. 32
1997/07/01
はじめてのラテン語 講談社現代新書
大西 英文 1997/04/20

ラテン系といえば明るいという社会通念が定着しているが、
この本を読んだからといって、そういう人と思われることはない(そんなことはどうでもよい)。

基本的に私は語学マニアなので、この手の本が出たらデフォルト買いである。
もう少し、古今の名言を載せてくれるとうれしい。
(と思っていたら、このようなページが見つかった)。

それでも、一応この本をマスターすることにより、
グレゴリアン・チャントとかポメリウムの詩の意味がわかるようになる訳である。

学者はまた昔日の征服者、
地球儀のエスパニアを眺めて独言つ。
「この言葉を習いおおせたら、
 これで地球の上で
 俺と話の通じる奴が
 また何億かふえる。」
なにさ、習い出して
まだ三日目の文法書。
(平川祐弘 『ルネサンスの詩 城と泉と旅人と』 より)。



読書記録 1997
(平成9年)1月〜6月
『枕草子*砂の本』 読書記録 1998
(平成10年)1月〜6月

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三島 久典