ある朝のこと。
プーはいつものように鏡に向かって、丈夫になる体操
をやっていました。

自分で作ったうたに合わせて、腕を

伸ばしたり曲げたり、くるっとまわったり。うたの内容
はこんなふうでした。

いち・に・さん これで気も晴れる
いち・に 腹の虫が鳴る
ぼくはデブだよ まん丸だ この重さ!
おなかが鳴るよ いち・にとさん

「ピリッ」
いきおいよく屈伸したとたん、背中の縫い目がほつれ ました。でもプーは気にしない、器用に結び直しておしまいです。

さて、体操の次は何をするんでしたっけ?
プーは考えました。

「ああ、おなかがグーグーいってる。そうだ、ごちそう
を食べる時間だ!」
戸棚の中に、大切なはちみつのツボがしまってありま す。

でも中をのぞいてガッカリ。

みつは、ほんの少し底のほうに残っているだけだったのです。
プーはあきらめきれず、ツボの中に頭をつっこみました。
そこへ一匹のミツバチが入ってきて、プーの耳のまわ
りでブンブンうなりはじめました。
「おや、このブンブンという音、ぼく知ってるぞ」
プーは思い出して顔を上げました。
「わかった。ミツバチだ! ミツバチの仕事っていったら
みつを集めることだろう」
「でもって、みつを集めるのは、ぼくに 食べさせるために
決まってる!!」

そこでプーは外へ飛び出すと、さっそくミツバチが ブンブンといっている高いカシの木によじのぼりはじめました。
のぼりながら、またうたいます。
今度のは「おなかがグーグー」っていううたです。
ハンダンディーダー
ハンダンディーダー
おなかがグーグー
お昼の時間だ ハンディダンダンダン
ああ重いからだ 空を飛びたい
でもクマにゃムリだ
ばかばかしいはなし(HaーHa)
はちみつ大好きだ
食べたい のぼるぞ
おなかがグーグー・・・・
あと少しでみつのある巣穴に届きそうです。
「ようし、もうちょっとだ」
そうっと手をのばしたとたん、ボキッ。
プーの乗っていた木の枝が折れました。
プーの体はまっさかさま。ボールのように木の枝の間 をはずみながら下へ下へ、ついにハリエニシダの草むらへ、 ドスンと落ちました。
「いやはや」
棘だらけになりながら、それでもプーは、はちみつが あきらめきれません。
そこで思い出したのは、友だちのクリストファー・ロ ビンのことでした。
クリストファー・ロビンは人間の男の子で 森の別のところに住んでいます。
「おはよう、クリストファー・ロビン」
プーがたずねていくと、クリストファー・ロビンは ちょうど、ロバのイーヨに、しっぽをつけてあげているところでした。
フクロウやカンガルーの親子もいます。
「おはよう、プーさん どうしたの?」
プーは何かさがしものをしている様子です。
「うん、どうだろう。もし持ってたら貸してくれない?
何っていったっけなー、そうそう風船!」
クリストファー・ロビンの三輪車に青い風船がくくり つけられているのをチラリと見ながら、プーがいいました。
「風船なんか、何に使うの?」
「しぃーっ」
プーはあわててあたりを見回し小声でいいました。
「はちみつをとるんだよ。大丈夫、いい考えがあるんだ」
そこで2人はプーの知っている水たまりに行き、 プーはその中でごろごろと転がりました。
おかげで体中まっ 黒です。
「どうだい、うまい変装だろう?」
「何になったつもり?」
「もちろん雨を降らす黒い雲さ」
雲になれば、ミツバチの巣に近づいても、気づかれないとふんだのです。
「分かった。じゃあ、しっかりつかまってて」
クリストファー・ロビンはプーを抱いて 「いちにのさん」で空にはなしました。
フワリフワリ。プーの体はゆっくりとのぼっていきます。そこでプーはミツバチに聞こえるようにうたいはじめました。
ぼくは雨の雲 はちみつはいらない
ぼくは雨の雲 どうかおかまいなく
空に浮かんだ雲は はちみつを食べない
空を飛ぶだけ 雨をどこへ降らそうか
大丈夫、うまくいきそうです。
プーは巣穴に手をつっこむと、みつをすくってなめました。 ところがなんてこと、あんまりあわてたために、
ハチまで一緒になめてしまったのです。さあ、たいへん。
ハチがにわかにブンブンいいはじめました。

「おーい、クリストファー・ロビン! ミツバチの様子
がヘンなんだ。何とかごまかしてくてないかい」

クリストファー・ロビンはいそいで黒い こうもりがさをひらいていいました。
「おやおや、雨らしいぞ」
効果はありません。
おこったハチはいっせいにプーを攻撃してきました。
ついに風船の空気がぬけて、プーは風船と一緒に上へ下へ
くるくるまわります。そしてすっかり空気がなくなると
「ついらくだぁ」
プーは一気に下へ落ちました−−ドスン。 落ちたのはクリストファー・ロビンの腕の中でした。
こうしてプーの作戦は、またもや失敗に 終わってしまいました。
プーはものごとを簡単にあきらめません。
とくにはちみつのことになると夢中になります。
さてある晴れた日。プーがいつものようにはちみつの ことを考えていると、ふいに「ウサギ」という名前が頭
に浮かびました。ウサギは会うと必ず「お昼はどうか
ね」ってきいてくれるいいやつなのです。
さっそくプーは、ウサギの住む土手の穴をたずねました。 あわてたのはウサギのほうです。なんせプーがくると、
大事にとっておいた食べものが全部なくなってしま
うんですからね。
「こんにちは。誰かいないのかい?」
プーは穴の中にむかっていいました。少し間があって、 「いないよ」
と短い返事がかえってきました。 「ほんとに誰もいないのかい?」
「いないとも!」
プーは考えました。(誰かがいるんだな。だから誰かが 「いないよ」っていったんだ。)
「わかった。君はウサギだろ」
ウサギはあきらめて顔を出しました。
「やあこんにちは、プーさん。どうだいお昼でも…」
「ありがとう。じゃあちょっぴりごちそうになるかな」
プーはいうが早いか穴に入りこむと、さっさとテーブルに ついてナプキンまでつけました。

「ミルクにするかな?それともはちみつ?」
「うん、両方」

仕方なくウサギはツボごと差し出しました。
そこでプーは食べました。食べて、食べて、食べて、 食べまくりました。
みつの入ったツボが次々とからに
なっていきます

最後の一滴までなめ終わると、プーは
ねばついた声でいいました。
「さて、そろそろ帰るとするかな。さようならウサギ君」

立ち上がって穴の外へ出ようとしましたが、
「あれ?」
体がつかえて出られません。
あわてて戻ろうとしましたが、うしろにも動きません。
すっかり穴にはさまってしまいました。
「うわあ助けて、苦しいよぉ」
「なんてことだ、あんなに食べるからだよ」
ウサギがあわてて押してみましたが、ビクともしません。
「はー、こりゃダメだ」
困ったウサギは裏口から飛び出して、クリストファー・ ロビンを呼びに行きました。
「心配しないで、今たすけてあげる」
クリストファー・ロビンはすぐにかけつけてくれました。 穴の外からみると、プーの頭と手だけがつき出しています。
「バカなクマだなぁ、さあ手をおかし」
クリストファー・ロビンはプーの腕をつかみ、思いっきり ギューとひっぱりました
でも、やっぱりダメ、動きません。
「プーさん、こうなったら、おなかがへこむまで
待つしかないな」
「ひどいなぁ、いつ出られるんだろう」
「さあ、来週か、来月か…」
プーはすっかり悲しくなってしまいました。
迷惑なのはウサギです。
そりゃ自分ちの玄関に大きなクマのおしりがつっかえ
てたら、誰だってイヤですよね。
そこでウサギは、少しでも見栄えのするようにおしり を飾ることにしました。まわりを額縁で囲み、顔をかい
て木の枝をつけ、鹿の飾りものに見たてます。足もジャ
マなので、板をのせ、お気に入りの小物をのせて飾台が
わりにしました。
残念ながらプーのクシャミで全部ぶっとびましたけどね。
プーはおなかがへこむのを毎日毎日待ちました。 さびしい夜もひとりぼっち。
でも雨の日はクリストファー・ロビンがかさをさしに きてくれましたし、カンガとルーの親子は、花を持って お見舞いに来てくれました。
ある夜などは、土ネズミが自分の夜食用のはちみつを 分けてくてそうになりましたが、これはウサギに見つ かってしまい、もらえませんでした。
そして何日かたったある朝。
ウサギはもう表の出入口は永久に使えないとあきらめ かけていました。ところがためしにプーのおしりを押し
てみると、ほんの少しですが動いたのです。
「やった、動いた!」
ウサギは大喜びで、クリストファー・ロビンを呼びに いきました。
森の仲間も集まって、みんなでプーを引っぱり出すこ とにしました。まず、クリストファー・ロビンがプーの
手を引っぱります。次にクリストファー・ロビンをカン
ガが引っぱります。カンガをイーヨが引っぱって、イー
ヨをルーが引っぱる、といった具合です。
穴の中からはウサギが押します。
バンザイ ハレルヤ
めでたい すぐに出るぞ
たべすぎは どくよ
わかりましたか
力合わせて 引きずり出そう
えんやさ よいさ
力合わせて 引きずり出せ
プーを救え!
えんやさ よいさ
もう少しだぞ
やれひけ、ひけひけ ヨーイ
みんなで合唱しながら引っぱります。
すると、ポン!と気持ちのいい音がして、プーの体が穴から飛び出しました。そして、そのまま飛んで、
はるかかなたの木の穴にスポン!

「あーあ またはさまっちゃった!」


でもご安心。
プーは大喜びでした。なぜって、

はさまった穴の中ははちみつでいっぱいだったのです。

おわり 「プーさんとはちみつ」より


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