1.W−CDMAの相互干渉問題。

W−CDMAではPN信号の干渉問題に関してはスプレッディングコード(チャネリングコード)スクランブリングコードを組み合わせて、ほぼ無限に近い拡散コード(PN)を生成して相互干渉を防ぐシステムとなっています。

cdmaOneではすべての基地局で下りに関しては同じPN信号を使って各基地局間で位相をずらす事でコントロールしていますので基地局間で同期を取るためにGPSを利用する必要が有りますが、(同期型CDMA)W−CDMAではその必要が無く(非同期型CDMA)GPSを設置しにくい屋内用の小型基地局を設置しやすいメリットが有ります。

それでも広帯域拡散通信では干渉による容量の制限問題が発生しますが、直交フィルタ、デコリレータ、マルチステージ干渉キャンセラの技術を組み合わせる事でPDCハーフレートの2倍程度の電波利用効率を目標にしています。

cdmaOneでは1つの希望波と2つのマルチパスを合成して良好な音声品質を実現していますが、それでも3つ目以上のマルチパスについては干渉を起こして通話品質の劣化の原因となります。
W−CDMAではより多くのマルチパス(1つの希望波と5つのマルチパス)を利用出来ますので干渉の影響を押さえて良好な音声品質が確保出来ます。

端末と基地局間の遠近問題に関しては、単純に端末から基地局に到達した電波強度で送信電力コントロールする方法では無く、実際に受信した状態(レイク合成受信)から判断して(SIR測定)より細かい送信電力コントロール(1秒間に1600回)をしますので、より干渉の削減と通話品質を安定させる事が出来ます。

元々の規格では利用する総帯域(20MHz)をその利用方法によって1.25MHz、5MHz、10MHz、20MHzとフレキシブルに変動(音声は1.25M、64Kモデムは5Mなど)させて最大2Mbps(20MHz使用)の高速伝送速度を達成させるマルチバンドを採用を予定していました。

このマルチレートを実現させる為に拡散符号のチップレートを1.024/3.84/8.192/16.384Mcpsと4段階に変化させ拡散帯域を変えます。
(速い変化速度の拡散符号で拡散すると、より広い周波数に拡散される。)

しかし3GPPにより2000年の9月に策定されたいわゆるリリース99では開発の簡略化と5MHzの拡散帯域でも2Mbpsの通信速度が得られるメドがたった事から取り合えず10MHz20MHzの拡散帯域の使用は取り消されて拡散帯域は5MHz、チップレートは3.84Mcpsに統一されました。

また、W−CDMAでは高速通信を実現する為にターボ符号と言う特殊な誤り訂正符号を使用しますが高速な伝送効率が得られるメリットがある一方でエラー訂正能力は低くフェージング等の影響の少ない静止時のような状態でしか実現出来ない欠点があります。
その為、移動時で比較的低速な電送レートの場合は畳み込み系列の誤り訂正符号を使用します。

5MHzの拡散帯域を使う384Kbpsの場合もフィールド試験では歩行程度の低速度でしか実現されていません。

現在モニター限定のFOMAフィールド試験を実施していますがカード型のP2401によるパケット通信では300Kbps程度の実行速度を実現しているようですが網側の改修でもう少し実行速度を上げられるようです。

また、各周波数で使用するチャネル間の直交を利用して干渉無く多重化させるマルチコードの採用により1CH、64kbps×N倍のような可変レートも実現させています。

2001年のサービス開始時には利用できる周波数帯域が5〜10MHzと限定されていますのでドコモの場合は1.25MHzの拡散帯域を利用した64Kbpsの回線交換式と5Mの拡散帯域を利用した384Kbpsパケット回線式の2種類の通信方式が採用されます。

音声コーデックに関してはAMR(アダプティブマルチレート)が採用されるようです。
AMRの基本になるコーデックは欧州や北米で採用されたA−CELPで伝送レートは12.2/10.2/7.95/7.4/6.7/5.9/5.15/4.75Kbpsの8種類の伝送レートのうち音声の状態により1フレーム(20ms)ごとにフレキシブルに可変出来るようです。
(無声音時は1.8Kbpsで情報bitのみ伝送されます。)
ちなみにA−CELP・12.2Kは現在の欧州GSMのEFR、7.4Kは北米D−AMPSのEFR、6.7Kは日本J−PHONEのPDC用EFRとして採用されています。
実際のレート選択時にどの程度、細かい複数のレートで制御されるかどうかは今のところわかりません。

2.W−CDMAのシステム構成。

W−CDMAではスプレッディングコードとスクランブリングコードを組み合わせた非常に長いロングコードを使用してより多くの回線を確保しています。

このPN信号の1フレーム長が長くなると着信時に端末での同期確立に大変時間がかかる問題が発生します

その為に従来のCCDやSAWといった遅延素子を利用して複数のタイミングで同期補足を早めると共にロングコードに比較的短いショートコードをパイロットとして埋め込む事により同期補足を早めるドコモ独自のマッチドフィルターが採用されています。

これにより、ロングコードでも比較的速い同期補足を実現させています。
また、いったん取った同期にずれを起こさないように保持する非常に精度の高い同期追従が必要になります。

W−CDMAでは各基地局で下りで異なったスクランブリングコードを使用する事により識別され各基地局では同じスプレッディングコードを使用出来るようになります。

また、上りに関してはスクランブリングコードを使用しますのでハンドオフ時にもチャネル切り替えの必要が無く、スプレッディングコードはマルチレート伝送コントロールで使用されます。

W−CDMAは上下の回線の多重化に違う周波数を割り当てるFDD方式と同じ周波数を使って時分割で多重化させるTDD方式の2種類がありシステムとして混在させる事も可能です。
日本の場合は比較的周波数の利用効率が高いとされるFDD方式が採用されます。


3.アダプティブアレイアンテナ

ドコモからアダプティブアレイアンテナの屋外による基礎実験に成功したとの発表が有りました。
記事としては小さい扱いでしたが高速移動通信においてこの成功は大きなものです。

384Kとか2Mと言った高速通信の場合は無指向性で電波を放出してしまうと普通の通話利用者に対して激しい電波干渉が起こり通話品質の劣化や全体の通話回線数の制限が発生してしまう問題が有ります。

この問題を飛躍的に向上させる技術がこのアダブティブアンテナです。

簡単に説明しますと基地局側で通信中の移動端末の方向にのみ電波を送信し、他の方向への電波出力を最小(ヌル)にする事で他端末に対する干渉を押さえるものです。

多素子のアンテナを使い電気的に指向性を持たせて通信利用者の方向のみに電波を放出して利用者が移動している場合はそれを追従する事により実現されます。

かなり高度なシステムが必要となりますのでつい数年前までは実現不可能と言われていた技術ですので大きな前進と言って良いでしょう。

ただ、基地局のシステムが大きくなる事や製造コスト問題も有りいつ頃から実現出来るのかは不明ですが、メガ単位の高速通信の実現には必要不可決な技術です。

4.更なる高速化を目指して・・・。

W-CDMAは同じ周波数帯に音声と通信を混在させる事が可能なシステムでその柔軟性はメリットである一方で高速通信化に限って言えば効率が良くはありません。
現在cdma2000陣営からは先行するW-CDMA対抗策として1xDV-DOの2.4Mや1xEV-DVの5M通信などの新システムが矢継ぎ早に提案されています。
そこで3GPPでは5MHz帯を通信専用としてパケット利用して最大で8.5M程度の通信速度が可能とされるHSPDAの採用が検討されています。
これはEW-CDMAとも呼ばれています。


ホームへ