Sign 'o' the times MOVIE (pict) (pict)

解説

総評

これは、プリンスのステージパフォーマンスをもとに、ステージでうまくできなかった部分をスタジオで再現し、映像的に編集したものだ。さらに、プリンスの最低の劇センスによって微妙にストーリー性が加えられ、怪しい劇仕立ての音楽ムービーとして劇場公開されたものだ。

しかし、その寸隙は取っ払ってしまって、ステージパフォーマンスのムービーとしてみたとき、これは現在考えられる最もすばらしいパフォーマンスと言ってよいだろう。《ミュージシャンのステージ》という概念をはるかに飛び越える逸品である。

演奏者は全員が歌い、踊り、ステージを駆け巡り、観客に魔法をかける。うまく説明できないが、これは明確に奇跡である(私見)。

音楽だけでも、プリンス絶頂期のパフォーマンスと言ってよいだろう。


sign 'o' the times

まず、ださださの《クリスタル・ボール》とプリンスが呼ぶ物体が現れる。でも、それは静電気ボールで、手を翳すと稲妻みたいな奴が動く奴だ。いきなり、見る人の見る気を削ぎ取る攻撃である。

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と、見ていると、いきなり始まる“チンケな”ドラマ。女性(キャット)と、その恋人(ジェローム・ベントン)があらわれる。その恋人は浮気相手(シーラ・E)を連れている。「愛が大事じゃないの? いや、お金さ。」その喧騒を眺めるプリンス。

観ていて「なんだこりゃ。最低の作品じゃないのか? 」と思う間に、プリンスのギターが鳴り響き、感動的なタイトル曲が始まる。寸劇はまったく引きずっていない。

キャットの狂おしいまでの踊りに支えられながら、プリンスはテープ演奏をバックにギターと歌をかき鳴らす。

「フランスでとっても短い名前の大病で男が一人死んだ。たったそれだけのことで世界が大騒ぎした」

この曲の持つ破壊的な魅力が十二分に発揮された名演奏だ。

そして、よくわからないが、曲の終わりに残りのメンバーが太鼓をたたきながらステージに入ってくる。このシーンはどう考えてもカッコ悪い。


play in the sunshine

なんだこりゃと思っている間に、演奏は次の曲へ。この曲はただのロケンロールなのだが、プリンスとダンサー達の魔力によって信じられないほど魅力的なナンバーに仕上がっている。そう、プリンスのステージには魔法がかけられている。

特に、真ん中でのプリンスと観客とのコール・アンド・レスポンスはすばらしい。8小節のやり取りの後、短めのファンファーレを演奏し、「サンキュー!」と叫ぶプリンス。ここでプリンスに惚れそうにならない奴は変だ(変なのは私か? )。

自信満々にギターを弾く姿が美しい。エンディングのきめポーズもキュートだ。


little red corvette

この曲は、アルバム【1999】に収録された曲で、プリンス初の“白人にも受けた”曲。MTVで初めて黒人アーティストのビデオが流れるという快挙を成し遂げた思い出の曲だ。

前曲は、終了と同時にアウターミッションに突入する。このライブでは、アウターミッションにリトルレッドコルベットが使用される。

ピアノに向かい弾き語るプリンス。さびの部分で、「さあ、みんなもうたってくれよ!“リトルレッドコルベット!きみってなんて魅力的!”さあ、君たちの番だよ!」のあとに、耳に手を当て、観客の歌を聴き、にこやかな笑みを浮かべOKサインを出すプリンス。このプリンスを見て惚れない奴はおかしい

この曲をワンコーラス終えると、アルバムどおりに「SHUT UP! ALREADY! DANCE!」という掛け声で曲が変わる。


housequake

おしゃべりファンク。この曲のドラムパターンは大変印象的で、誰でもこのパターンをたたけば、その瞬間にプリンスフレーバーを得ることができる。プリンスも、珍しく別の曲で自己流用している(SLAVEの終わりの方など)。

さて、この曲もパフォーマンスがすばらしい。まあ、文章にする必要はないだろう。

始めからこの曲までのメドレーは、音楽史上に残る最高傑作のレベルを保っている。これと同じだけの品質は得られても、これを超す品質は誰にも作れないだろう。事実として、プリンス自身もこれを超えたことはない(私見)。


slow love

フランクシナトラばりのスローバラード。階段の高いところからゆっくりと降りてくるプリンスが、ちょっと恥ずかしい。

ステージ上では、一組の恋人が寄り添い、そして分かれ、でも和解するという寸隙が繰り広げられる。演奏最後に、その二人をじっと眺めるプリンス。すごく意味ありげで、よい。


i could never take the place of your man

破滅的なタイトルとは裏腹に、馬鹿みたいにポップな曲。ステージアクションは、結局恋人と別れたキャットがプリンスに言い寄るが、プリンスはそれを受け入れないというもの。プリンスの自己中心的な部分がよく現れていてかわいい。

後半に、プリンスのワンマンショーが始まる。高台に立ち、花を観客に投げるプリンスは、どう見ても“いってしまった”人だ。実は、アルバムでもこれと同じだけの演奏の空白がある。アルバムでは、聞くに耐えられない間だ。

だが、このジャムから再びキャッチフレーズに突入する瞬間の、へなへなと緊張感が吹っ飛んでしまう馬鹿らしい瞬間が、よいといえばいいかも。


hot thing

もし「このビデオから一曲だけ選べ」と言われたら、この曲を選ぶ。

イントロに、プリンスのオルガンソロがある。その後、プリンスはジェローム(キャットの正式な恋人役)を呼び寄せ、短い会話を交わす。

「ねえ、ジェローム、彼女が欲しいかい? 僕もだ」

このセリフには、多分プリンスファン以外は腹を立てるだろう。しかし、プリンスファンは、この瞬間におばちゃんと化し、「まあ、プリンスったら馬鹿なこと言って…」となってしまうのだ。そして始まる「HOT THING!」

タイトルとは裏腹に、大変クールなリズムとラックと、不思議なシンセサイザーのキャッチフレーズに支えられた曲である。歌部分は、始めは一人で、次はフェイクで、更にハーモニーで、というプリンスお家芸アレンジを味わうことができる。

ステージアクションとしては、プリンスが歌いながら立ち回り、キャットを指差している部分が、なんか凄い。「おまえだ。俺が欲しいのはおまえだ」というプリンスの強烈なアピール! それを見るキャットの潤んだ目! これは、既にミュージシャンのステージパフォーマンスではない。


now the times

プリンスとキャットはお休み。バンドメンバーのみによるソロ引き回し大会。曲はチャーリー・パーカーの代表曲だが、テンポが倍は速い。

ソロ引き回しで、皆のソロが大変カッコイイのだが、ホーン以外のメンバーはアドリブではない。しかし、Dr.フィンク(キーボード)にせよミコ・ウィーバー(ギター)にせよ、あの格好(変な衣装+ポーズ)で引きまくれるんだから凄い。音的にはベースソロが一番カッコよい。

全員のソロを占めるのは、シーラ・E(ドラム)の独り舞台だ。


u got a look

中休みのプロモーションビデオである。この曲は、何故かシーナ・イーストンが参加してるという珍品である。

曲よりも、曲が始まる前の未発表リフがカッコイイ。


if i was your girlfriend

ベッドに寝そべるキャット、その窓の向こうに映るステージ上のプリンス…という、大変ドラマチックな映像で始まる、私の個人的に最も好きな曲。

アルバムバージョンでは、この曲はプリンスの声が早回しになっていて、微妙な雰囲気を出しているのだが、こうしてきいてみれば、地声のほうが表現力がある。

ステージ最後の、プリンスとキャットのベッドインシーンは凄い。たったこれだけのジェスチャーで、実際には服を着ている二人が裸になってしまったように見える。やはり、振り付けしキャットの実力によって、この魅惑的なステージは作られたのだろう。プリンスだけではこうは行かない。


forever in my life

この曲は聞かなくていい。2分で歌が終わった後、10分ほど観客とやり取りを行う。疲れる。


it's gonna be a beautiful night

当時のプリンスお家芸ファンクである。大変にスライストーンしている。

ここでも、狂喜乱舞といえるだろうプリンス達のステージアクションが凄い。ほんとに演奏してるのか? といっても、画像はオーバーダブだと宣言されていたっけ。


the cross

最後に、突然ウッドストックなハードフォークを奏でてしまうプリンス。ださい。でも、いいの。

愛がすべてで、これまでの喧騒は不幸な行き違いで、最終的には上手く行くんだと信じたいプリンス。それだけだ。そう思えば、確かにこの曲はプリンスの“締め”に相応しい。






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