百段階段

 もう20年以上も前になる。当時小学4年生だった僕は、冬休みの校庭で凧上げをしようと、ビュウビュウ吹く風の中を学校へ向かって一人走っていた。通称「百段階段」は家から学校への最短ル−ト。急傾斜の石段が続くのと、てっぺんにある墓地が気持ち悪いのとで、普段は滅多に通らないが、今日はそんなことは言っていられない。何といっても新品の凧を上げるのだ。「百段階段」だって怖くない。

 川沿いの細い道を駆け抜けて階段下に到着すると、木々に見え隠れして頂上は遥か彼方。ダダダと勢いをつけて上り始めた元気な小学生は、58段目からペ−スが落ち始め、73段目にはヘトヘトの小学生になって、本当に100段かどうかは分からないけれど、とにかくあと数段で頂上だという時には息も絶え絶えになり果てていた。
 
 「ハア、ハア…」階段と自分の足だけをみつめて一歩一歩のぼる。さあ、頂上だ。くらくらする頭をもたげた僕が目にしたのは、冬芽をつけた桜の木に群がる、見たこともない小鳥の群れだった。(鳥じゃ!)声にならない。(いっぱいおる!10羽も20羽もおる!)僕は初めて見る、白く小さく尾っぽの長い鳥の群れに息をのんだ。ジュリリ、ジュリリ…小鳥たちは小さく鳴き交わしながら、階段脇の冬枯れに飛んで来て、僕の回りをあっという間に取り囲んだ。心臓がドキンと鳴った。(つかまえちゃる!)手を伸ばした瞬間、小鳥の群れはあっけなく飛び去って行った。その時の小鳥がエナガだと知ったのは随分経ってからのことだ。

 元気な小学生は今やおじさんと呼ばれる年齢になって、手にする玩具も双眼鏡に変わったけれど、エナガの群れにときめく気持ちは今でも変わらない。

                                   (野鳥 1998.1)

                  

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