第31話 モズ
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| 「百舌鳥」と書いて「モズ」。その名のとおり、モズは物真似の上手い鳥だ。暑い夏は平地を離れ、山地や北国で過ごすという。そういえば青森にいた頃、夏になるとモズの数が増えていたし、関西でも夏、少し高い山の林道を走っているとモズの姿が目に付く。そんな避暑地で夏鳥たちの涼しげな囀りを覚え、秋、モズは下界に降りて来る。秋や冬に季節外れの夏鳥の声を聞いて喜んでいると、藪からモズが飛び出すことがある。僕もモズには何度か騙された。 朝夕、ようやく涼しい日が続くようになったので、そろそろ小鳥たちの秋の渡りが始まっているかも知れないと思い、近所の公園に出かけてみた。涼しくなったと思ったのは気のせいで、歩き始めるとやはり暑い。背中のザックが汗でへばりつく。遊歩道沿いにハギやオミナエシの花が咲いて、栗の木にはイガグリがいくつもぶら下がっているのに、空気だけは夏みたい。 渡りの小鳥が好みそうな実のなる木は何本もあったが、先日、大暴れして関西を吹き抜けた台風16号の影響だろうか、実が地面に随分散らばってしまっていた。これでは鳥たちも大変だろう。 何の成果もなく汗を拭き拭き歩いていると、林の向こう側から只事ではない声が聞こえて来た。「ギャーギャーギャーギャー」。鳥に違いない。「ギャーギャーギャーギャー」。悲鳴に聞こえる。そうでなければ怒りの叫び。なんだろう、カラスかヒヨドリの雛?それにしても声が大きい。足を速めて声の方向へ進む。鳴き声は断続的に続いていた。声の質からすればモズも候補に入るかな、そろそろ山から降りて来る頃だろうし。いろんな鳥が脳裏に浮かんでは消える。 声は公園の外の田んぼの向こうから聞こえて来る。迷わず先に進む。どんどん進む。「ギャーギャーギャーギャー」。いよいよ近づいて来た。「ギャーギャーギャーギャー」。声の主はもうすぐだ。 田んぼの端に立てられた杭の上に、小さな黒いスピーカーが紐で括り付けられていた。「ギャーギャーギャーギャー」。約30秒間隔でスピーカーは鳴いた。「ギャーギャーギャーギャー」。モズに騙されたのならまだ納得できる。僕が騙されたのはいわゆるハイテク案山子、ただならぬ鳴き声でスズメを追い払う農家の秘密兵器だった。 すっかり湿ったバンダナで額から流れる汗をぬぐう。「ギャーギャーギャー!」。びっくりするくらいのスピーカーの音量に、鳴ると分かっていても思わず腰を抜かしそうになる。(うぬ〜・・・)。何とも言えぬ敗北感を味わいながら、僕は、来た道をトボトボと引き返すのだった。 |
| (2004/9/5) |