第15話 オオジシギ
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八甲田山麓の牧場は、青森市内から近いこともあって、時々足を運ぶ場所だった。見渡す限り草の海、この広大な牧場はいつ頃出来たのか。駅前の図書館でずいぶん前に調べたけれど忘れてしまった。明治だったか大正だったか、そう遠くない昔に山麓の森は開拓された(はず)。牧場を流れる川に沿って残る小さな林は、開拓前の森の遺品なのだろう。そういう風景は海峡を隔てたお向かいさん・北海道の牧場ともよく似ている。 春5月ともなれば、新芽が吹いて牧場も周りの山々も淡い緑に萌え始める。そんな穏やかな風景に賑やかな音を添えるのがオオジシギだ。この鳥はオーストラリアで越冬し、春になれば赤道を越えて日本まで飛んで来る。そして本州の高原や北の大地の牧場・湿地で独特の歌を歌い始めるのだ。 「ジェ、ジェ、ジェ・・・ジュビヤーク、ジュビヤーク、ジュビヤーク」ザザザザザザ・・・・。彼らはしわがれた声で叫びながら空を飛ぶ。ハト程の大きさのこの鳥は、空の小さなシミになるまで高く高く舞い上がる。ヒバリならば、天高く舞い上がった後、歌いながら羽震わせながら、落下傘のようにフワリ降りてくるだろう。オオジシギは違う。尾羽を目一杯開いて急降下。この時、羽がザザザと空気を切り裂く。この鳴き方・飛び方が雄のオオジシギの、雌に対するディスプレイなのだ。 夕暮れ時、何羽ものオオジシギが牧場の空を飛び交う姿は壮観だ。あっちでザザザ、こっちでザザザ・・・。越冬地のオーストラリアで彼らのこんな姿に接することは無いだろう。湿地の片隅で、じっと黙って嘴を泥に突っ込んでいるに違いない。そういえば我が国で越冬するシギたちも無口だ。彼らだって北の繁殖地ではこんな風に張り切っているのかも知れない。 山の端に太陽が姿を隠しても、オオジシギたちは飛ぶことを止めない。根負けして帰途に着くのはいつも僕の方だった。 |
(2004/5/16) |