ウトナイ湖のオオハクチョウ

 北海道のウトナイ湖に出掛けたのは、95年の2月末のことだった。その頃、私の住む神戸市東灘区は、ほんの一ケ月前に起こった大地震のせいでガレキの山だらけだった。近くの小学校は避難所になり、自衛隊の給水車が水を配ったり、全国各地から集まったボランテイアが忙しく働いたりしていた。築40年の我が老朽社宅は震度7に耐え、幸いなことに我々夫婦は住むところに不自由しなかったが、水道もガスも出ない生活や、時折起こる地鳴りには正直なところ嫌気がさしていた。

 2月末、妻が友人の結婚式に出席するため実家に帰省することになり、私はこれ幸いと北海道に出掛けることにした。一人社宅に残るのは、とても耐えられないことのような気がしたのだ。

 冬の北海道は相変わらずよく冷えていて、真っ白だった。ウトナイ湖はハクチョウやハクチョウ見学の幼稚園児たちで賑わっていた。飽きるほどハクチョウを撮り、夕刻、冷えた身体で宿に帰ると、風呂が沸いていた。湯船につかると指先がジンジンした。神戸では水とガスはもう出ただろうかと、ふと考えた。

                                   (紀の国 1997.1)
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