秋の恵み(ニホンザル)

 秋、紅葉、箕面、サルというあまりにありふれた連想のもと、箕面公園にサルウオッチングに出掛けた。ポカポカ小春日和の気持ちのいい日、サルの群れが道路に出てきて観光客に餌をねだっている。車の窓枠にしがみついて離れないやつもいるし、小さい子の手から菓子を袋ごと奪って泣かせてしまうサルもいる。特に若いサル、略して若ザル(略すほどのこともありませんね)はとにかく餌に向かってまっしぐらという感じで、大人のサル、略して大人ザルに追いかけられ餌を奪われても、めげずに不屈の精神でヒトの差し出す餌に挑んでいく。親子連れのサル、略して子連れザルの母親は、さすがに小さい我が子を痛い目に合わすまいと思うのか、餌をめぐる激しいバトルには参加せず遠慮勝ちにおこぼれを頂戴している。
 
 そんな状況の中、ひときわ高齢風のおばあさんザルが日だまりの中、クズの実、つまり豆をムシリムシリと食べていた。老体にむちうって餌争奪戦に加わるよりも、他のサルが見向きもしない野生豆を食べる。本来人間に餌などもらわなくても恵みの秋、山には他に食べるものが沢山あるのだ。

 ヒトが好き勝手に餌をやって栄養状態が良くなったせいで数が増え過ぎ、人里に出てきて農作物に害を与える、さあ害獣だ!殺せ殺せ!というようなことになることをサル達は何も知らない。たらふく簡単にうまいものが食えるなら誰でもそちらを選ぶだろう。箕面公園では「サルを野生に帰すため餌をやらないで」という看板が掲げてあった。車でやってきて面白半分に餌をやっている人達の何人がその看板の持つ意味を理解できるのだろうか。
 
                                  (紀の国 1993.11)
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