オナガガモ

 「グワーグワーグワー、グワグワグワ」カモカモほらほらこっちむけ、こっちこっち」「グワグワ?」「グワグワとちごてこっちやこっち、こ・っ・ち!」「グワグワグワ?」「わからへんやつやなあ、こっち向けいうてんねん!」「グワー!」「くそーあくまでさからう気やな、よっしゃわかった、もう撮らへん、ぜったい撮ってやらへん、おまえなんかぜえーったい撮れへんもんね、おまえなんか…、いまやー!」「グワー!」「くっそー、ひねくれたやつやなあ、一枚ぐらいええやんか、減るもんやないやろ、助けると思って撮らしてくれ、お願い、たのんます」「グワ?」「うんお願いしてまんねん、そーそーそのままじっとしててくれたらそれでええねん、よーしよーし、じっとじっとそのままや、そう、そのままそのまま…すわるなあー!ちがう!おれが撮りたいんはそんなポーズとちゃうねん!ええか、こうや、見とけよ、こーやって背中向けて、くるっ!と振り返る、ええか、このくるっ!とが決め手や ねんで、これが哀愁のポーズっちゅうもんや、見返美人ってあるやろ?切手趣味週間にもなってる、て言うてもおまえカモやから知らんわなあ、…なんやおっさん、話しかけんといてくれ、おれはこのカモに用事あんねん、ほっといてくれ、あっちいってくれあっち、…よっしゃそうやそうや、あっちいってくれたらそれでええねん、まったく近頃のおやじは暇やからすぐに話しかけてきよる、バードウオッチングですかー?やて、見たらわかるやろ!…ほんまかなわんわ、なあ、カモよ…おっ?カモは?カモがおれへん、どこいった?おーいどこいったんやー!カモー!オーイ!」
                                  (紀の国 1993.10)
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