ナキウサギ

 3年前の7月、ナキウサギに会いたくて北海道へ出掛けた。一週間の休暇をとって、ありったけの機材とキャンプ道具を車に積み込み敦賀から小樽行きのフェリーに乗る。船の中では動物図鑑を眺めたり、カップラーメンをすすりつつ道内5日間の行動計画を練った。

 ナキウサギは日本では北海道にのみ生息し、大きさは約16センチ。ウサギというよりはモルモットに似た動物だ。大雪山系の山々の岩場に生息するというが、低地に生きるものもいるという。今回はナキウサギに会うのが大目標だが、この季節、道内各地花は咲き乱れ、鳥は歌いまくっている。せっかく行くのだからあれも見たいし、これも撮りたいと、まさに日本の正しい観光旅行的発想がぐるぐるうず巻く。朝夕の一番いい時間帯に写真を撮って、昼間は移動すれば、宿泊は全てキャンプだから何とでもなるさと、結局行けるところまで行く作戦(作戦でも何でもない)に決定。どきどきわくわくしているうちに、船は2日後、早朝の肌寒い小樽に到着した。
 
 小樽から旭岳、知床、根室と主要地点を3日間かけて走破、撮影し、ようやく目的のナキウサギ生息地、然別湖に到着。探せど探せどみつからないその姿。まさかと思った「ナキウサギ生息地」の看板を目印に山へ一歩踏み込むと、そこには木の根や岩の間を縦横無尽に走り回る彼等の姿があった。「なんとまあ・・・。」あっけない出会いに呆然とする僕を馬鹿にするかのようにナキウサギは「ピキーッ」と一声元気に鳴いたのだった。 

                                (紀の国 1993.7)
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