第3話 清流四万十川

 土佐の荒波に5時間もまれた我々夫婦は、心身とも疲れ果てていた。入野松原まで車を走らせ、コンビニで買ったおにぎりをもそもそ食べた。視野の片隅に鳥の姿が見えた気がして、双眼鏡を首に砂浜を歩いてみると、シロチドリが1羽、ちょこまか動いていた。

 「温泉だ、温泉しかない・・・」疲れた身体を癒したかった。もう、頭には温泉以外何も浮かんでこない。地図を見ると、四万十川中流の西土佐村、十和村あたりに温泉マークがいくつかついている。キャンプ場も何カ所かあるようだ。今晩はキャンプの予定だから、ちょうどいい。行こう、四万十川へ。

 四万十川。高知県東津野村を源に、中村市で太平洋に流れ込む四国最長の川。総延長196キロ、流域面積2270平米。水は澄み、日本最後の清流と呼ばれる。
 僕はずっと、どろどろに濁り、ゴミや汚物の浮いた街中の川で写真を撮ってきた。そんな環境でもたくましく生きる鳥たちの姿を写真に残すことに、意義を感じ続けてきたからだ。でも、1度くらいは美しく、健康な川を見てみたい。四万十川はずっとあこがれの場所だった。

 中村市から、四万十川沿いに国道441号線をひたすら上流に向けて車を走らせる。川は蛇行し、水はとうとうと流れている。大きな川だ。しかし、あこがれの川を目の前にしながら、僕はひたすら眠かった。身体が言うことを聞かない。早く、温泉につかりたい。途中から道が極端に細くなると、対向車との離合が難しくなった。神経がすり減る。とにかく早く車を止めたい。一番近い、西土佐村の温泉に行く。夕方の陽射しが差し込む湯船に、静かに身体を浸した。セミの声が聞こえてくる。身体中の細胞がようやく息を吹き返した。
 
 その晩は、四万十川最大の中州にある、十和村・三島キャンプ場でキャンプをした。早々に夕飯を済ませ、真っ暗になる前に素早くテントに潜り込む。
 夜半、空が光り始め、目が覚めた。また、天気が悪くなるのだろうか?まあ、嵐の船に乗るよりはましだろう、そう開き直ると、再びずぶずぶと深い眠りに落ちていった。
 
 翌朝、思いがけず晴れた。河原に降りると、水が透き通っている。川底の石が綺麗に見える。思わずじゃぶじゃぶ入ってみる。足下を小さな魚がすり抜けた。冷たくて、気持ちいい。ぐるりと見渡せば、青々とした山。妻も嬉しそうに水の中を裸足で歩いている。「これが、四万十川か!
 空は青く、緑は濃い。水は美しく、空気は美味い。三拍子も四拍子も揃った環境に、気持ちがどんどんやわらかくなっていく気がした。

第4話につづく。