サンコウチョウ
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ごめんなさい、鳥の写真はありません。![]() |
田植えの終わった里山の細道。車の窓を開けてゆっくり流していると、杉・檜の植林地帯から「グエ、グエ」としわがれたカエルのような声が聞こえた気がした。「お!」車を止めて、エンジンを切る。「グエ、グエ・・・」「おー!」間違いない。「チョイヒー、ホイホイホイ!」脳の髄まで響くような澄んだ囀り。「そうか、来たか」今年もサンコウチョウがやって来た。車を下りて林の中に足を踏み入れた。針葉樹の林は薄暗く、生き物の気配は殆ど無い。樹冠を見上げ、耳を澄ます。「グエグエ・・・」遥か頭上を、イトトンボのように細長い影が横切った。「チョイヒー、ホイホイホイ!」水色のアイリング、身体の倍以上もある長い尾羽。濃い紫色の体色は暗い林の中ではよく分からない。「チョイヒー、ホイホイホイ!」サンコウチョウは、軽い身のこなしで枝から枝へと移り、林の奥へと消えていった。 僕はサンコウチョウの写真を持っていない。正確に書くと、カメラを向けたことはあるが、全部ぶれてしまった。この鳥は自然光で撮るチャンスが殆ど無い。可能な限り自然光で撮りたいと思っている者にとって、この鳥ほど難しい鳥はいない。 図鑑やインターネットで発表されたサンコウチョウの写真には、巣の雛に餌を与える姿を、ストロボを光らせて写したものが多い。「営巣中や巣の周りでの撮影はやめましょう」とキャンペーンを展開している野鳥の会でさえ、支部レベルではサンコウチョウの営巣写真が堂々とインターネットで公開されている。 営巣情報が一旦流れると、ストロボを装着したカメラに巣がぐるり取り囲まれるなどという話をよく聞く。必ず親鳥が戻ってくると分かっていれば、そこで待って撮ってみたい気持ちも分からないではない。しかし、親鳥が身の危険を感じて巣を捨ててしまう可能性があることを知らなければ、不幸なサンコウチョウが増えるばかりだ。 サンコウチョウは僕にとって、撮りたくても撮れない鳥だ。でも、そんな鳥がいてもいいのではないかと思っている。 |
(2000/5/20) |