コマドリ
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鳥を始めて10年以上、僕はコマドリを見たことが無かった。あの透き通るような「ヒンカラララ・・・」という声は夏山で幾度となく聞いているが、姿となると、どこにいるものやら全く見つけられない。そのうち、コマドリは見ることができない鳥と諦めてしまっていた。 夏の森に子育てにやってくる夏鳥たちは概して姿を見つけにくい。暗い森の中で、ひっそり暮らしている。そんな鳥たちは、むしろ市街地の公園で簡単に見ることができる。5月の連休前後、渡りの季節の公園は夏鳥たちが羽を休めるための絶好の場所となる。コマドリも例に漏れず、そんな公園で見ることができる。 僕がコマドリを見たことが無いと言うと、そういう場所で見ることを勧めて下さる方が多かった。餌をまけばやってくるという。関西でも何年か前から流行っている、ミルワームによる渡り鳥の餌付け。僕は天の邪鬼だった。そんなコマドリは見たくない。心の中に思い描くコマドリと、人のやるミルワームをひょこひょこ食べに来るコマドリの間には、埋めようのない溝があった。僕は春先の公園には出掛けなくなった。そして、心の中のコマドリにどうしても会いたくなった。 梅雨の晴れ間の大台ヶ原にコマドリを探しに出掛けたのは2年前のこと。2年越し、そのシーズンでは3度目のトライだった。夜空に輝くヘールボップ彗星の下、狭い車の中で夜明けを待った。 翌朝、まだ明けきらぬひんやりとした森の中で耳を澄ます。谷の向こうから響いてくるコマドリの囀り。どんどん音圧が高くなってきた。この森で、自然の光の下でと信じ続けた出会い。心の中のコマドリが、ようやく目の前に姿を現した。 |
(1999/6/6) |